悪役令嬢さん、さようなら〜断罪のその後は〜

たたた、たん。

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ザマァレボリューション

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 それから、リースという馬鹿王子はしつこかった。何度も何度も冒険者ギルドに訪ねては、エルに帰ってこいとしつこく迫る。

 エルには、馬鹿王子と話すなという命令をしているからエルは一切馬鹿王子とは話さず、俺の後ろを静かについてくるだけだ。

「エル、何で無視するんだ?」

 いい加減、馬鹿王子にも慣れつつあったギルドの冒険者達は、俺たちを肴のつまみにしながら酒を飲むんでいる。冒険者は、情報が命だ。情報屋もいるくらいで、危ない情報にはそれだけの値段がつくが、馬鹿王子がエルを狙っているという公然の事実は、きっと一円にもならないだろう。

「エル、父上は君のことを赦しているそうだ」

 赦すのはエルであってお前らではないはずだが?

 ちょこまかと付きまとい、的外れなことを言う馬鹿王子を避けるように歩き、馬鹿王子が一定距離まで近寄って来たらエルの肩を寄せてエルを隠す。そうすると、馬鹿王子は決まって俺を憎らしそうに睨むが、こんなヒョロヒョロとした馬鹿に慄く奴なんて、エルを除いてここにはいないだろう。エルはトラウマがあるから仕方がないが、受付嬢、いや、貧困街の子供だってこんな睨み、鼻で嗤う。

 俺は鼻で嗤うのでさえ面倒で、無視をしていれば、プライドの高い馬鹿王子は相手にされない事実に耐えられなくていつも大人しく帰っていくが、今日は違った。

「情報屋から聞いたぞ。君はエルを性奴隷のように扱っているようじゃないか」

 おそらく、エルが俺の女であると言う噂を性奴隷と言う重いワードに言い換えたのであろうそれは、やはり公然の事実で一円の価値もない。それをわざわざ情報屋に行って金を渡して聞くなんて、馬鹿だ。

「いいか。それは最低なことだぞ」

 ただ、エルはその噂を知らない。チラリと心配そうに俺を見てくるから、大丈夫と言う意味を込めて頷く。エルは俺に全幅の信頼を置いているから、それを見て、ほっとしたように表情を緩めた。

 数年前のエルに被された冤罪のように繰り返す、俺への冤罪。こいつは、学習というものを知らないようだ。
 偉そうな事をして的外れな事を言う馬鹿王子につい嘲笑すれば、馬鹿王子は顔を真っ赤にして怒鳴る。

「何が面白いんだ! 君のやっていることは恥ずべき行為だ!」

 確かに、それが事実なら道徳的行動ではないだろう。だが、その非道徳を責めることができる人間は道徳的人間のみだ。
 俺の袖を掴むエルの右手をそっと引き寄せて、握る。

「お前がエルにやったことは恥ずべき行為じゃないのか?」
「あれは、僕だって被害者だ。元凶はあの女で僕は恥ずべき行為などしていない!」

 自信満々に言い放つ馬鹿王子に、また嗤いそうになる。例え、それが真実だとしてもエルに言っちゃ駄目だろう。必死にエルを取り戻そうとして、反対にエルの心をどんどん突き放している馬鹿。こんな敵ならエルが取られることはまず無い。

 人の感情を理解出来ても共感出来ない冷徹男、と言われたことのある俺でさえ、馬鹿王子がやっていることが最悪の一手ということが分かる。

 馬鹿王子が誠実な人間でなくてよかった。エルは、未だ俺の条件を飲む形でそばにいる。そう、エルはまだ俺がパーティに入れてやっているという立場から抜け出していないのだ。エルの自分を捨てた奴らを見返すという目的がなければ、エルはいつでも俺とのパーティを解消出来てしまう。

 正直、もう条件なんてどうでも良かった。ただ、都合が良いからそのままにしているだけ。それに、女相手に優位な立場でなかったことがないから、それ以外の関係性が俺には良く分からなかったのもある。また、俺の命令に絶対服従という条件も、最近では滅多に命令なんて出さないしエルには不便で無いはず。

 一応のために、帰ったら正式な念書でも書こうか。条件を撤廃し、その上でパーティを勝手な理由で脱退した場合は数十億円。いや、エルは元公爵家の出だから、億を出せてしまうかもしれない。脱退することは出来ないと表記した方が良さそうだ。

 それにしても、もし、連れ戻しに来た馬鹿王子が賢く善人な奴だったらエルは目的を捨てて帰ってしまっていたかもしれない。そう思うと敵がこいつで良かったと心から思う。鬱陶しいが。

「そうか。俺たちはこれからギルド長に会わなきゃいけないんだ。お前に付き合ってやる時間はない」
「き、貴様、前から思っていたが僕を誰だと思っているんだ! ヒュプノ王国の王子だぞ。エルの手前だから、言わないでやったがもう我慢できるか!」

 お前こそ分かっているのか。第一級冒険者の肩書きを。第一級冒険者は、世界に四人しかいない。その中のひとりの俺と、沢山いる王族の中の馬鹿王子。立場なんて同じもんだ。一応、俺より王の方が立場が上だが、それが嫌になったら前々から誘われてたクーデター軍に加わってこの国を壊せばいい。

「付き合いきれねーな」

 やろうと思えばいくらにでもなるが、実力を持たない親の七光り馬鹿王子に付き合うのも面倒になった。まだ、ごちゃごちゃ煩く言っている馬鹿王子を無視して、手を繋いだままのエルを引っ張り、受付カウンターの奥にある階段を上がってギルド長室のある3階へさっさと上がる。

「天罰がくだるからな!」

 馬鹿王子も冒険者ギルドにとって部外者であることくらいは、承知だからそれ以上は追ってこなかった。



「面倒なことになった」

 ギルド長室に入って一言目がこれだ。エヴァ・オールゥエンは、48歳と史上最年少でギルド長になった二級冒険者で魔法使いである。昔から、俺の世話を焼いていた頭の切れる気の良い男。
 そんな男が、如何にも面倒くさそうに苦笑している。

「何があった?」

 この男には敬語は使わない。敬語が使えないわけではないが、敬語を求めていない相手に敬語を使うほど丁寧な人間ではないからだ。
 この冒険者ギルドで一番座り心地の良い皮のソファに無造作に座り、エルは俺の隣に静かに座る。元お嬢様なだけあって、仕草は綺麗だ。

 端的に聞いた俺の質問に、エヴァはちらりとエルを見る。面倒な予感がした。

「貴族側からある要請があった」

 それだけで、言いたいことは分かる。

「断る」

 間髪入れずに断れば、エヴァは「まだ何も言ってないのだが」と再度苦笑いをした。

「エルは俺のものだ。誰にも渡さない」
「……え、あ、あの、別にヴォルフの物なんかじゃないんだからね! でも、ふふ、ふふふふ! ヴォルフったらしょうがない人!」




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