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「お待たせ…….ってあれ、ひとり?」

 今回の呼び出しはバイト中だった。バイト終わり、念の為まだ呼び出し中か確認したところ「そう」の一言が返信され急いで来たが、部屋には金森しかいない。

 何回か来たことのある、外資系のホテル。そこのスイートルームで乱交を繰り広げていると知った時は驚いたものだ。美男美女が睦み合う空間に行くのは非常にいたたまれないものがあるが金森のためなら仕方ない。

「4時間もしたら大抵の奴らは帰るでしょ」

 微笑も淡々とした語り口も普段と変わらないが、ピリピリとしたイラつきを感じる。待たせたことを怒っているのだろうか。

「ごめ」

 謝りかけて辞める。金森が俺を待っているはずがない。きっと他の人ともした後で、まだ興奮が残っていたから呼ばれたんだ。謝った方が自意識過剰で顰蹙を買うかもしれない。

「急いで来たからシャワー浴びてなくて。ちょっと待って」

 汗臭い身体で金森に近づきたくない。部屋の構造もわかっていたから、一直線で浴槽に向かう。

「いい」
「え、でも、汗かいたし」
「気にしないよ」
「俺が気にするし」

 流石にここは譲れないと言い返したら、金森が黙ったのでそのままシャワーを浴びに行く。シャンプーにトリートメントとをする時間も惜しいので、身体の汗を洗い流してすぐに出る。一流ホテルのタオルはフワフワですぐに水分を吸ってくれた。

 身体を拭き終わり、迷う。

 服を着るべきか否か。下はどうせ脱ぐのだから履かなくていいが、上はどうだろう。いつもは着ているが服に汗が染みていたらシャワーを浴びた意味がない。

 裸で迷っていると、バスローブが置いてあるのに気付いて咄嗟にそれを着た。

「準備出来たよ」
「……」

 ベッドルームに行くと、無言で金森は夜景を見ていた。

「金森?」
「……なに?」

 近付いてもう一回声を掛ければ、金森は信じられないほど不機嫌な声で返事をした。そこに普段の優しい雰囲気はない。

「怒った?」
「別に」

 どう考えても怒っている。いや、もしかしたら拗ねてる?
 馬鹿な考えが過って頭を振る。待たされて怒りはしても拗ねることはないだろ。拗ねるって言うのは平等な関係同士でしか成り立たない。

「しよ」

 むっとした顔の金森の手を引いてベットに連れて行く。声が弾んでないか心配だ。金森は怒っているというのに俺は嬉しい。本当は申し訳なく思わないといけないが、外用の優しい顔じゃない、本心を見せてくれたことが嬉しくて誇らしいのだ。
 俺にくらい見せても構わないと、下に見られてるからかもしれない。でも、それでも、俺に本心をそのままぶつけてくれるのが嬉しい。

「なにニヤニヤしてるの?」

 ベッドに座るとこの感情に正直な顔を見られてしまった。金森が片眉あげて、不機嫌そうに指摘してくる。

「いや、なんでもない」
「そう。その間抜け面ムカつくからやめて貰える?」
「うん。分かった」

 なんだか金森が可愛らしく思えてきて、なかなか顔が直らない。可愛い。怒っているレアな金森。俺に当たってきてる。いつも優しい口調の金森が俺にだけ怒ってる。

「ちょっと」

 尚も表情の直らない俺に金森が抗議の声を上げる。可愛い。この可愛さに免じて、訳も分からないけど負けてあげよう。

「うん。……金盛、ごめんね」

 金森は俺の言葉に一瞬虚を疲れた顔をして、それから悔しそうな顔をした。

 その表情も初めて見た。美形はどんな表情も綺麗だ。世界一大好きな人のどんな顔を見逃したくない。

「別に怒ってないし」
「そうだったね……よしよし」

 目の前にある金森の頭を撫でる。口淫の時、金森に頭を撫でられるのが好きだ。安心するし心地いい。少しでも同じ気持ちを味わって欲しくて、金森の頭を優しく撫でた。偉そうかもしれないが、金森は嫌だったら嫌というはずだ。

「なにそれ……馬鹿にすんなよ」
「してない」

 キッパリ言い返すと、金森は不機嫌なまま俺のバスローブの紐を解いた。不機嫌ながらもセックスを続けようとするのは嫌じゃないからのはずだ。なんて天邪鬼な。

 溢れそうな笑みを押し込めつつ、金森のパンツに手を延ばす。まずは金森のペニスを勃たせないと。

「今日はいい」
「え」

 金森に身体を押されて、そのまま仰向けに寝転ぶ。既にバスローブを固定するものがなく、全身が金森に見えてしまう。
 反射的に隠そうとした手を金森は握って離さなかった。

 恥ずかしい。後孔を差し出すのは慣れても、こんなに意識がはっきりしている状態で裸を見られたことは初めて以来にない。

 こんな貧相な身体を見せて、金森は萎えないだろうか。それだけが心配で、そわそわしていたら金森の手が乳首を掠った。

「んっ」
「ここも感じるんだ」

 全身に電気が走るように快感が走る。それまで大人しかった乳首がその微かな刺激でぷっくり勃ち上がっていくのが見えて、恥ずかしくてたまらない。

「本当淫乱だよね」

 ふわりと香る金森の香りがやり快感を誘う。金森は嘲笑しながら、俺の乳首をこりこりと捏ねた。金森がそんなとこを弄るなんて今までにない。というか、所謂前戯と言うものを受けたことがなく、理性の残る頭でこんなことをされるのはキャパオーバーだ。

 俺が焦っているのが分かったのだろう。金森が得意げに笑う。戸惑いながらもキュンとした。俺の困惑ごときで機嫌が治っちゃうんだ。

 乳頭を強くつねられた後、乳輪をゆるく辿って、ジリジリと襲いくる快感。それで俺のペニスがじんわり勃ち上がり、後孔がびっしょり濡れていくのを感じた。これ以上は恥ずかしくてもう無理だ。

「もうっ」

 もういいからやめて、そう言う前に金森がパクりと俺の乳首を舐めた。ぬめりと温かく、肉厚な舌による刺激に甲高い嬌声が漏れる。俺はつい金森の身体を押し返してしまうが、金森はそんな俺を押さえつけて、ゆっくりそこをいたぶった。

「あっ……もういいから、っ……やめっ」

 乳首も自分で開発し尽くしているから、強い快感をしっかり感じてしまう。自分でもなく、機械でもない刺激がこんなに気持ちいいなんて知らなかった。俺の体感的には長く、実際には短いかもしれないが、乳首の隣にチリリとした痛みを感じた後、漸く金森が顔を上げた。

「もう入れてよ」
「まだ楽しみたいんだけど。……まあ、挿れながらでもいっか」

 快感で半ば思考がまとまっていない俺がその言葉を理解する前に、金森がペニスを挿入して来た。これを待っていたと、腸壁が金森を歓迎している。一番奥へ辿り着いた時、俺は1回目の射精を終えていた。

「早すぎ」
「だって、……あっ」

 強い快感の波が引いたと途端、また金森に乳首を掠られ疼くような気持ちよさが腰に流れる。反射で中のペニスをまたきゅうと包み込んで今度は強い快感が身体を襲った。

「気持ちい……んっ、ん…」

 快感で目の前が回っていく。前も経験した、フェロモンに理性が溶かされている感覚。久しぶりのそれに、頭が馬鹿になっていくのを感じた。

「かなもり、好き。好き、金森。……っ俺で、気持ち良くなって」

 朦朧とした意識の中、快感がひっきりなしに襲いかかってくる。時々、チクリとした痛みを感じたが、そんなものじゃ俺の理性は戻ってこなかった。

「好き……すきっ!」



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