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しおりを挟む「あの子達はいいのか?」
「別にいいよ。そろそろウザくなってきてたし」
金森はどさりとソファに座ると俺をじっと見た。
「傷つかないんだ?」
その言葉に同情はない。ただの疑問。だけど金森がセックス前に話すのは珍しく、少し戸惑ったが怯んだと思われる方が嫌だった。
「別に。金森ってそういう奴だろ」
内心、落ち込んでるけど態度には出さない。分かりきってることにいちいち落ち込む自分が情けないし、ウジウジしてると金森に呆れられるかもしれない。
「まあね」
「オメガって皆あんな感じなのか?」
「君だってオメガじゃん」
「俺、ほぼベータだし。普通オメガって珍しいから周りにいなかった」
「そんなもんか。ま、殆どあれだね。強い雄を取り合って争ってる」
金森は嘲笑しながら、しぶしぶ部屋を出て行こうとする女たちを見た。一般的なイメージだとオメガはお淑やかな美人だが、エリートアルファからするとガツガツした肉食系なのかもしれない。
「嫌い?」
「別に。あいつらってそういうもんでしょ」
その言いようはまるで違う生物に対するものだ。まだこの国においてオメガ差別はなくならない。金森はオメガに嫌悪している様子がなく、良い意味でも悪い意味でも割り切っているように見えた。
「君は違うの?」
「俺があの中で張り合える訳がないし、別にいいかな」
「ふーん、変わってるね」
「金森に言われたくない」
性格はきついが美人で家柄も良くて、オメガとして機能を果たしている彼らと俺。どちらが選ばれるかなんて明白だ。争っても意味がない。選ばれなくてもいいから、忘れられたくない。時々会えればそれでいい。
いつも通り口淫で金森のペニスを勃たせ、うつ伏せになって後孔を差し出す。すぐに挿入されるかと思ったが、なかなかその時が訪れず振り返ると、金森がいつもの笑みを消して俺を見ていた。
「なに?」
「なんでいつもうつ伏せなの?」
金森の不満そうな声を初めて聞いた。金森は酷い男だが、いつも微笑を携えている。何回か無表情のことはあるが、こんなに感情が現れているのは見たことがない。
何かいけないことをしたのだろうか。
「いつもそうだし」
「じゃあ、今日は反対向き」
戸惑いながらも、仰向けに寝転ぶと、途端に恥ずかしさに襲われた。今まで背後で行われてきた行為が目の前にある。美しい金森の前であっぴろげに広げられた自分の肢体は、ミスマッチ以外何もない。今すぐにうつ伏せに戻りたかったがグッと堪えた。
「どこ見てるの?ほら、こっち」
ペチペチと金森が自身のペニスで俺の太ももを叩く。期待で俺のペニスがゆるく勃ち上がって、淫乱を晒すようで恥ずかしい。
「入れてないのに勃ってる」
馬鹿にしたように笑った金森はゆっくりとそれを挿入した。
「んっ……」
金森の顔が近くにあって緊張しているからか、いつもより中のモノを強く感じる。ちゅぷぷと仕込んであったローシャンを垂らしながら、ペニスが奥へ進む。
気持ちいい。
まだ挿入されただけなのに気持ちが良くて、奥歯を噛んだ。
「それ」
「え?」
快感を堪えるように目を瞑っていたら、目の前に金森がいる。
「それ、萎えるからやめてくれない?」
萎えると言う言葉に怯えながらも、それが何か分からない。何がそれに当たるのか考えていると、ボソリと金森が言った。
「気持ちいいならちゃんと喘いで」
俺が驚いたのが分かったのだろう。金森は俺の返事を待たず抽送を始めた。
「んっ、あ……」
言われた通り、喉から溢れる声を我慢しない。VIP室には俺と金森しかいないから俺の嬌声がひとり響いた。自分の喘ぎ声を聞きながら、正面から俺を犯す金森を見て興奮が増す。俺は金森に抱かれているんだ。
「かなもり、かなもり」
行き場のない両手を後ろに持ってきて身体を支える。うつ伏せの時より体勢は辛いが、心の満ちようが違った。
金森も射精が近いのか、短くなっていく間隔に俺は堪え切れず射精した。元から感じやすい身体だったが、遂に触らずともイけるようになってしまった。金森も中で射精して、ずるりと中から引き出す。
今日もこれで終わりだろうか、と起きあがろうとすると金森が2個目のゴムを手にしていた。
先にいたオメガ達は帰らせていたし、今日の相手は俺だけなのかもしれないと思うと嬉しくて、ニヤケそうな顔を手で覆う。金森が俺を選んでくれた。例え、今日だけでもこんな俺を。
暫く幸せに酔ったが、金森が間髪入れずに挿入してくる時に思い出した。金森にとってこれは性処理に過ぎなくて俺はオナホなんだと。
綺麗なオナホに飽きたから、珍しいオナホを使っている。ただそれだけの事実だ。
辛い現実は最近の俺にとって通常仕様で、ストンと舞い上がっていた心が沈む。勘違いしなくて良かったと思いながら、俺という選択肢を忘れてくれなかったことが愛おしい。どんな風に思われてもいいから、金森の心にいたい。
俺と金森の二人だけの時間に酔っていたから、外の気配に気付かなかったのだろう。突然、廊下から男が現れた。
「金森だけか?」
「うん。藍田は来ないよ」
黒部竜也だ。藍田透はよく見かけるが、大学以外で黒部竜也を見るのは初めてのことだ。いつもならセックス以外のことを気にしないのに、この体勢だと色んなものが見えすぎる。服を引っ張り陰部を隠そうとしたが、服の長さが足りない。
「そいつだけ?」
「他は帰した」
「そうか。混ざっていいか?」
なんてことのないように言う言葉にハッとする。藍田透はいつも俺に興味がないから、危機感を感じていなかったが黒部は相手を気にしない奴なのか。
もし金森が許可しても、そんなことされるくらいなら帰ろう。そう決意して、金森を見たら視線があった。金森は少し考えてから微笑んで答える。
「お前と穴兄弟は嫌だよ」
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