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しおりを挟む失恋しても俺の日常はそう変わることはない。いつも通り大学を一人で過ごし、バレないように金森を盗み見る。俺が金森の言動で苦しんでいるのに、金森は変わらず人に囲まれ笑顔だ。
前ならその姿を見れるだけで嬉しかった。恋ではないと必死に言い聞かせつつ、同じ講義の日は期待感で早く席に着く。思えば失恋確定の今より、馬鹿みたいに平常心を保ったふりの片想いの方が楽しかった。
「それでさーーー」
金森率いるカースト上位たちの話し声。穏やかに笑う金森の本性があんなにも酷い奴だなんて思いもしなかった。セックスの時の記憶は曖昧だ。でも、金森が俺を無視したのは紛れもない事実で、俺は恨むべきなのだろう。なんて奴だと。怒って、泣いて、悪態をつければどんなに楽なのか。
それでもスマホには金森の連絡先が残っていた。ブロックしてしまえばいいのに出来ない。あんなことはあっても弁償することに変わりはない。だから連絡先は消したらいけないんだ。一人で勝手に言い訳をして、そのまま触れることもなく、まだ一言もメッセージを送っていない。
24万きっちり返したら連絡するから。
そうやって、無視されることの恐怖を先延ばしにしている。
「お疲れ様です」
弁償の金を稼ぐため、アルバイトの日数を増やすと豪くんと会う頻度も増えた。豪くんはやっぱりアルファ然としていて、一見近寄りにくいが家庭環境は俺と似たようなもので、寧ろ貧乏学生のようだった。
「俺、このバイトの他にバーのバイトもしてますよ」
「ええ、凄いな」
コンビニのバイトをこなしつつお洒落なバーのウェイターにも従事。その上成績優秀の返済不要の奨学金で入学しているため勉学にも手を緩められないと困ったように笑う豪くんに悲壮感はない。アルファと言う理由もあるが、豪くん自身の能力と人見知りの俺にでも楽しく話しかけてくれるコミュ力があるからこそ出来ることだ。
「そう言えば、離れの食堂の親子丼めっちゃ当たりらしいです」
「へー、食べたことない」
「俺も友達に誘われて食べてみたんですけど、過去一美味いですよ。純院生も言ってからガチ」
豪くんはオーラが垂れ流しで誤解されやすいと言っていたが、一回話せば良い人だということが分かるのだろう。話を聞くだけで友人が沢山いるのだと予想できた。外部生は外部生とつるむことが多いが、豪くんはそれだけでなく純院生にも友人がいるらしく、交友関係が広い。
これがリア充と言うものか。
全く人間として格が違い過ぎて羨ましいと言う気持ちは分かず、豪くんが良い子だから嫉妬も沸かない。無類の美形好きな俺からしたら、金森の次にタイプなイケメンで、もし俺が厚顔無恥な輩なら恋人に立候補したいところだ。まあ、こんな平々凡々な俺が将来有望な豪くんに選ばれる可能性は皆無なので、立候補しても意味はないが。
そもそも恋人と言うが、俺は金森が初恋だった。俺は金森以外の誰かに惹かれることはあるんだろうか。
一刻も早く金森以外を好きになりたい。失恋したけど好きなのは認める。だから早く忘れたい。
帰り道、ポコンとスマホが通知を告げる。まさか金森だろうかとすぐにスマホを見るが通知は一つもなかった。
「あ、俺でした」
隣で豪くんがスマホを見る。
「あー……」
「どうした?困りごと?」
「彼女です」
そう言う豪くんの顔は困ったように歪んでいる。何かしらあったのだろう。
「……じつは、別れ話で拗れてて」
「ああ、そう言う時もあるよね」
分かった風なことを言ったが、付き合ったこともないのだから別れ方なんて分かるはずもない。長年の知ったかぶりの癖をつい出しつつ、あまり聞かない方がいいだろうと違う話題を探す。
「相談していいですか?」
「えっ!」
「あ、嫌ですよね。すみません」
「いやいやいや、違くて。あの」
歳下の男の子に、恋人いたことないから分かりませんと言うのは恥ずかしい。だからと言って、先輩風吹かすのはどう考えても無理だ。考えているうちに、豪くんが申し訳なさそうな顔をし出したのでさっさと本当のことを言うことにした。
「恋人いたことないから分かんなくて」
俺の言葉にキョトンとした豪くんは、そんなこと関係ないから聞いてくださいよと下から話してくれるから、プライドとか諸々傷付かずに剛くんの話を聞けた。
「遠距離で俺も忙しいし、どんどん話すこともなくなっていってて、こんな感じなら付き合ってる意味ないかなと別れを切り出したんですけど、猛反対されてて」
その言葉に衝撃を受ける。付き合っている意味なんて考えたことない。ただ好き同士で付き合う。それが幸せだと思っていたが、やはり付き合ってみると違うのか。困惑しつつ、思ったことをそのまま言った。
「付き合っている意味ない、というか……それって相手のことを好きじゃなくなったってことじゃないの?」
俺の言葉に豪くんは考え込むように上を向いた。ちょっとしてスッキリしたような顔をした豪くんがにこりと笑う。
「そうでした。俺大切なこと見失ってましたね。心苦しけど、恋愛感情がもうないことを伝えようと思います」
「うん。言い方は気をつけてね」
「はい」
失恋したばかりだから、豪くんの彼女視点になっていらない助言をしてしまう。こんなこと豪くんだって分かりきっていることなのに、自分が傷つきなくない気持ちをどうしても言いたくなった。
金森は俺のことをどうとも思っていない。そんなの分かっている。でも、面と向かって言われたら。そう想像するだけで苦しいんだ。
最寄りの駅につき、豪くんと分かれる時またスマホの通知が鳴った。さっきみたいに俺じゃないだろうと確認もしなかった。また豪くんのスマホの音だ。俺のスマホに入っている連絡先は少ない。高校の友達5人と親族の連絡先だけ。あとは広告とかニュースとかいろいろ登録しているが、通知はオフにしている。
その足のまま激安スーパーに向い、商品を見る。その前に電子マネーがいくらあるか確認しようとスマホを見ると一件の通知があった。
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金森 亮太
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