上 下
11 / 24

10

しおりを挟む
 


 人の運命は生まれてくる時に殆どが決まる。裕福な国に生まれれば、どんなに貧乏な家でも最低限度の文化的生活が送れる。しかし、貧しい国に生まれ、そこが最下層の家なら悲惨だ。明日の食事に飢え、教育も受けられず、親が無計画に産む弟たちの面倒を休まず行う。もっと悪ければ、少年兵として親に売られるのかもしれない。

 つまり、何百の国がある地球上でどこの国に生まれるか、その国のどの階級の家に生まれるかが今後の人生を決めるのだ。生まれてきた階級ごとに合ったそれなりの生活を送り、この階級を下る事はできても上る事など出来ない。これは不平等でも、不公平でも無い。人類が人を分類するためにそのような仕組みを作り、産んでくれと頼んだ訳でもない子供達は先人達が作った仕組みの中生きて死ぬ。人は生まれながら神様の依怙贔屓を受けた者と、冷遇された者が存在するのだ。
 勿論、その人個人の才能によってその仕組みを捻じ曲げる者もいるだろう。だが、そんなのはただの特例に過ぎない。滅多にいないのだ。

 恵まれない子供達に寄付しましょうという謳う団体を見かけたことがある。若い美しい子を泣かせて涙を誘う陳腐な演出だが、寄付をしようと考える奴がいるのだろう。別に止めはしないが勝手にしろと思う。恵まれない子供たちというのは生誕くじでハズレを引いた者たちだ。なんでたまたまそのくじで当たりを引いた俺が自分の財産を砕いて施しを与えないといけないのか。ハズレを引いたお前が悪い。それに、違う階級の者に興味もなかった。

 俺は生誕くじで当たりを引いた。それも、特大の当たりだ。顔も家柄も資産も、何もかも。何の不自由なく満ち足りた生活を送り、運良く人としての能力値も高い。家は過激なアルファ至上主義という訳ではないが、やはりアルファである事は高待遇でいられることの最低条件だった。バース判定を受ける前から自分がアルファであることを疑ったこともないが、13歳でアルファと判定されてからはより顕著に分かりやすく、俺は特別だった。

 俺はアルファの父が愛人のオメガに産ませた子供だ。それだけ聞くと世間体が悪いが、俺たちの階級においてそれは珍しいことでもなんでもない。両親はアルファ同士のお見合いで結婚し、お互いに愛人を囲うなど冷めきった関係で。母はお情け程度に長男である兄を産み、その後は家のことには一切口を出さず遊びまわっている。兄はアルファではあるが低能ゆえに俺が跡継ぎとされていて、跡継ぎが実子ではないことに母はなんの感情を見せなかった。
 生まれてすぐにアルファの乳母に引き取られ、英才教育を受けたため、俺は実母とは会ったこともなく顔も知らない。それなりの家柄を出たオメガならアルファ同等の扱いを受けるが、実母は借金苦で父の愛人となった庶民だ。離れに住んでいたらしいが、邪険に扱われるのに耐えられず、父以外の子を身篭り、家を追い出されていたのだとか。
 少し我慢すれば何不自由ない生活が送れたろうに、我が実母ながら愚かだ。

 幼稚舎から腐れ縁の藍田と黒部とは色んな遊びをした。金森家嫡男として上部では品よく振る舞い、裏で自分勝手に振る舞う。俺は人生の当たりを引いた身として、自分が横暴だという自覚がある。ただ、それのどこが悪いのか。俺には横暴に振る舞うだけの力がある。周りもそれを赦した。雑魚をどう扱おうと俺の勝手だ。いつかは決められた相手と番うのだから派手に遊べるのも今のうちか、いや、番ってからも両親のように遊び回れるのだから順調過ぎる人生に笑いが出る。

 アルファは大抵性欲が強いとされている。自分の遺伝子を残したい本能が強いとも言えるが、それは純アルファの俺も例外ではなく、ふつふつ湧き上がる熱を色んな相手で発散した。精通したその日に保険医に誘われ童貞を捨て、それからは、寄ってくる者を適当に抱く。抱いて欲しいという者はいくらでもいた。アルファもオメガも、ベータも。その中から、気に入った者を摘むように食べては捨てる。殆んどの者が自分の立場を弁えているから文句も言わず、媚びへつらい、俺の機嫌を窺った。
 全てが俺に好意を持っている訳ではない。俺の後ろ盾を求める者も多く、それを分かった上で惚れさせて、最高潮に盛り上がった所で振るのが堪らなく面白く愉快だ。

 そうやって横暴に振る舞っても、情報操作をしているため表向きには優しい金森さんで通り、俺に近づく者は後を絶たない。
 中には、俺に自分を印象づけるため冷たい態度を取った者もいたが、わざと無反応でいたら、すぐに作戦を変え媚びを売ってきた。そんな輩には食指が動かず、面白がっていた藍田にやれば、そいつは喜んで股を開いた。将来性のあるアルファなら誰でも良かったらしい。

 大学生になっても、俺の面白おかしい日々は変わらない。満ち足りた日常に少し飽き飽きしていた時、降ってきたのはホットのコーヒーだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

人気アイドルが義理の兄になりまして

雨田やよい
BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...