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しおりを挟む人の運命は生まれてくる時に殆どが決まる。裕福な国に生まれれば、どんなに貧乏な家でも最低限度の文化的生活が送れる。しかし、貧しい国に生まれ、そこが最下層の家なら悲惨だ。明日の食事に飢え、教育も受けられず、親が無計画に産む弟たちの面倒を休まず行う。もっと悪ければ、少年兵として親に売られるのかもしれない。
つまり、何百の国がある地球上でどこの国に生まれるか、その国のどの階級の家に生まれるかが今後の人生を決めるのだ。生まれてきた階級ごとに合ったそれなりの生活を送り、この階級を下る事はできても上る事など出来ない。これは不平等でも、不公平でも無い。人類が人を分類するためにそのような仕組みを作り、産んでくれと頼んだ訳でもない子供達は先人達が作った仕組みの中生きて死ぬ。人は生まれながら神様の依怙贔屓を受けた者と、冷遇された者が存在するのだ。
勿論、その人個人の才能によってその仕組みを捻じ曲げる者もいるだろう。だが、そんなのはただの特例に過ぎない。滅多にいないのだ。
恵まれない子供達に寄付しましょうという謳う団体を見かけたことがある。若い美しい子を泣かせて涙を誘う陳腐な演出だが、寄付をしようと考える奴がいるのだろう。別に止めはしないが勝手にしろと思う。恵まれない子供たちというのは生誕くじでハズレを引いた者たちだ。なんでたまたまそのくじで当たりを引いた俺が自分の財産を砕いて施しを与えないといけないのか。ハズレを引いたお前が悪い。それに、違う階級の者に興味もなかった。
俺は生誕くじで当たりを引いた。それも、特大の当たりだ。顔も家柄も資産も、何もかも。何の不自由なく満ち足りた生活を送り、運良く人としての能力値も高い。家は過激なアルファ至上主義という訳ではないが、やはりアルファである事は高待遇でいられることの最低条件だった。バース判定を受ける前から自分がアルファであることを疑ったこともないが、13歳でアルファと判定されてからはより顕著に分かりやすく、俺は特別だった。
俺はアルファの父が愛人のオメガに産ませた子供だ。それだけ聞くと世間体が悪いが、俺たちの階級においてそれは珍しいことでもなんでもない。両親はアルファ同士のお見合いで結婚し、お互いに愛人を囲うなど冷めきった関係で。母はお情け程度に長男である兄を産み、その後は家のことには一切口を出さず遊びまわっている。兄はアルファではあるが低能ゆえに俺が跡継ぎとされていて、跡継ぎが実子ではないことに母はなんの感情を見せなかった。
生まれてすぐにアルファの乳母に引き取られ、英才教育を受けたため、俺は実母とは会ったこともなく顔も知らない。それなりの家柄を出たオメガならアルファ同等の扱いを受けるが、実母は借金苦で父の愛人となった庶民だ。離れに住んでいたらしいが、邪険に扱われるのに耐えられず、父以外の子を身篭り、家を追い出されていたのだとか。
少し我慢すれば何不自由ない生活が送れたろうに、我が実母ながら愚かだ。
幼稚舎から腐れ縁の藍田と黒部とは色んな遊びをした。金森家嫡男として上部では品よく振る舞い、裏で自分勝手に振る舞う。俺は人生の当たりを引いた身として、自分が横暴だという自覚がある。ただ、それのどこが悪いのか。俺には横暴に振る舞うだけの力がある。周りもそれを赦した。雑魚をどう扱おうと俺の勝手だ。いつかは決められた相手と番うのだから派手に遊べるのも今のうちか、いや、番ってからも両親のように遊び回れるのだから順調過ぎる人生に笑いが出る。
アルファは大抵性欲が強いとされている。自分の遺伝子を残したい本能が強いとも言えるが、それは純アルファの俺も例外ではなく、ふつふつ湧き上がる熱を色んな相手で発散した。精通したその日に保険医に誘われ童貞を捨て、それからは、寄ってくる者を適当に抱く。抱いて欲しいという者はいくらでもいた。アルファもオメガも、ベータも。その中から、気に入った者を摘むように食べては捨てる。殆んどの者が自分の立場を弁えているから文句も言わず、媚びへつらい、俺の機嫌を窺った。
全てが俺に好意を持っている訳ではない。俺の後ろ盾を求める者も多く、それを分かった上で惚れさせて、最高潮に盛り上がった所で振るのが堪らなく面白く愉快だ。
そうやって横暴に振る舞っても、情報操作をしているため表向きには優しい金森さんで通り、俺に近づく者は後を絶たない。
中には、俺に自分を印象づけるため冷たい態度を取った者もいたが、わざと無反応でいたら、すぐに作戦を変え媚びを売ってきた。そんな輩には食指が動かず、面白がっていた藍田にやれば、そいつは喜んで股を開いた。将来性のあるアルファなら誰でも良かったらしい。
大学生になっても、俺の面白おかしい日々は変わらない。満ち足りた日常に少し飽き飽きしていた時、降ってきたのはホットのコーヒーだった。
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