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『オメガなのに妊娠出来ないんですか』
『そうですね。検査のところ、オメガ性の発現率が1割だしあなたの体はほぼベータと変わりない。恐らく発情期も来ないし、オメガ特有のフェロモンも殆ど出ないんじゃないかと』
『そうですか……』
『よかったじゃない! あんたベータが良かったんでしょ?』
『そりゃそうだけどさ、オメガとして生きようと前向きに考えてたから拍子抜けしたというか』
『可能性は少ないですが妊娠する可能性はありますよ。運命の番と性行為をした場合です。発現率が低くても運命の番と出会うことでオメガの機能が向上し妊娠したと言う記録があるので。ただ、運命の番に出会える確率も少ないので、生涯、ベータとして生きることは可能です』
『運命の番ってどうやって分かるんですか?』
『色々パターンがありますが、大抵の人は一眼見て分かると言います。多くの人が第六感と言いますが、大体はフェロモンが関係していますね。フェロモンの相性が相当いいのか、遺伝子がそのフェロモンを求めるのか。詳しいことは分かっていませんが』
『でも、俺はフェロモンが出ないらしいし、運命の番だと分からないんじゃ……』
『正しく言うと出ていないのではなく、感知出来ないほど少ないんです』
『じゃあ、結局、もし運命の番が現れても俺も相手も分からないんですね』
『それはなんとも言えません。ただーーー』

 ーーーーあなたから出ているフェロモンに反応する人がいたら、その人こそが運命の番でしょう。




 中学校で受ける簡単なバース診断で少数派のアルファかオメガと判定された者は後日、病院で詳しい検査を受ける決まりとなっている。オメガと判定されて一週間、やっとオメガとして生きる覚悟をし、寧ろ自分で我が子を産めるという能力を貰えたことに感謝していたらこれだ。
 オメガだけど、ほぼベータ。全ての書類にオメガと書くのに俺は子供が産めない。

 そして、一番がっかりしたことが運命の番だ。ベータ性では決して持ち得ない魂から引き合う運命の人。小説やドラマなど、昔から物語の題材にされているそれを自分が持てることに期待していたのだが。
 この時から俺は運命とか奇跡とかキラキラしたモノを捨ててごくごく普通な、ベータがするような、ありきたりな恋をしようと考えてきた。

 耳元で鳴る甲高い音で俺は目を覚ました。六時半に鳴る目覚まし時計に、不機嫌にそれを止める俺。ここまではいつも通りなのに、それ以外が違う。
 寝ぼけ眼を擦った俺は、徐々に昨日のことを思い出し、悲鳴をあげそうになった。

「えっ、ううぅ、うそ。ど、どど」

 側から見れば凄い動揺ぶりだった思う。裸だし、下半身はぬるぬるして重いし、シーツは乱れている。喉を酷使したからか声は掠れていた。

 セ、セックスした?俺が?あの金森と?えっ?

 いやいや、待て、待てよ。俺は酒を飲んでいた。酔って変な夢……いや、じゃあこの腰の痛さはなんだ。お、落ち着け。落ち着くんだ。まずは喉が痛いから水を飲もう。

 混乱してどうしようもない頭を一回フリーズさせて、立ち上がろうとしたら力がうまく入らない。幸いなことに転びはしなかったが、ペタンと床に座り込んでしまった。

「まじか……」

 もうだめだ。どう考えても事後だ。身体の具合もシーツの乱れ具合もそれを物語っているし、目の前のお酒類は昨日、金森が来たことを証明していた。

 初めてセックスをした。
 金森とセックスをした。

 それが事実だと分かるたび、恥ずかしくて叫びたくなる。俺なんかがあの金森と!

 ワインを半分飲んだ後から記憶は朧気で。覚えているのは金森がくれる快楽と、金森が俺のフェロモンに気付いていたと言うことだけ。
 昔、医者に言われたことを思い出す。

『あなたから出ているフェロモンに反応する人がいたら、その人こそが運命の番でしょう』

 今まで俺がオメガだと気づいた者はいなかった。金森が、金森が初めて俺がオメガだと気付いてくれた。まさか俺の運命の番が金森なのか。
 そんなはずがない、そう言い聞かせるのに期待と高揚が止まらなかった。だって、金森は俺のフェロモンに気付いた。たまたまかもしれない。そもそも、金森と俺が釣り合うはずもない。だけど、俺のフェロモンは運命の番にしか分からないはずで。きっと金森だって。

 そんな考えがぐるぐる回り、浮かれてはしゃいで。だがそんな気分もすぐに散る。

 ……徐々に思い出してきたのだ。
 淡い記憶の中、金森は俺から誘ったのだとその笑顔を嘲りを浮かべていたことを。そう思えば、ストンと腑に落ちる。

 そうだ。これが現実だ。
 金森とセックスをするなんて幸運には、何かそれ同等の不幸がないと釣り合わない。

 セックスの最中のことはあまり覚えていない。だが、金森が言った言葉はなんとなく覚えていて。興味本位でぞんざいに、中には嫌悪をも混ざった感情を向けられていた。そんな気がする。

「はは……」

 そのことを一瞬でも忘れて浮かれていたなんて馬鹿みたいだ。乾いた笑いが漏れる。酔うちょっと前から、薄々感じていた。金森が冷たいなと。でも、そんなことないと思い込ませていたのだ。俺の考え過ぎだって。

 まさか金森が。

 だけど、俺はお酒に酔って記憶が曖昧だ。もしかしたら、俺の夢かもしれない。セックスをしたのは事実でも金森のあれは俺の被害妄想かもしれない。

 そんな風に自分に希望を持たせることで、俺は心の安定を保った。



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