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しおりを挟む「どうでした?」
何十回と見てきた映画だが、今回以上に集中出来ないことはなかった。隣に金森がいるという事実があまりにも衝撃過ぎて、気付かれないように金森の顔をチラチラと見ていたからだろう。金森の横顔も美しかった。だが、それこそ何十回も見てきた映画だから内容は完璧に頭の中にある。映画を観た後の醍醐味、感想会もばっちし行える。頭脳明晰な金森のことだ。何か面白い感想が聞けるかもしれない。
金森に俺の好きな映画の感想を言ってもらえるなんて。俺は明日死ぬのか?
一生分の運を使い果たしたが後悔はない。
「うん。良かった」
金森の感想は至ってシンプルだった。少し拍子抜けしながら、映画の解説をしようとすると金森は手で制してお酒があるかを聞いてきた。その仕草が乱暴だったが、まさかあの優しい金森がなんの理由もなく不機嫌になるはずないと心底思っていた俺は何の疑問も抱かず、お酒を買いにコンビニに走った。俺はお酒にめっぽう弱いから全く飲まない。だが、金森が飲むなら別だ。金森はないなら買ってきて、とは一言も言わなかったが、お酒を楽しみにしていたなら落胆してしまうかもしれないと不安に思った俺がセルフパシリをしたのだ。慌てて酒を買ってくると言った俺は金森の言葉を待たずに出てきたわけだが、コンビニについてから好きな種類を聞いておけばよかったと後悔した。酒といってもワインからビール、日本酒まである。取り敢えず、全種類一個ずつ一番高いのを買って帰ることにした。会計は2万を越えたが、金森に安酒を飲ませるわけにはいかない。
酒が泡立つから帰りも走りたい気持ちを抑え、家につけば金森はスマホをいじっていた。初めて来た部屋で1人にされても暇になってしまうのは当然だ。待たせてしまい申し訳ない気持ちもありつつ、品よく見せるために普段は脱ぎっぱなしの靴を揃えて部屋に入る。
「お待たせしました」
「そんなことないよ」
金森は見ていたスマホの画面を下に向けちゃぶ台の上に置いた。
「これ、お口に合うか分からないんですが」
「見たことのないものばかりだ」
「安物ですみません」
「たまにはいいよ」
やはり俺にとって高級品も金森にとっては、見たこともない安価なものなのだろう。どう頑張れば金森のグレードにあった酒を調達出来るのか見当もつかない。
まず金森が開けたのはワインだった。俺の部屋には引っ越してきた時に買ったマグカップひとつしかないし、そんなものを金森に出すわけにはいかないので紙コップも買ってきた。
「あの、俺、お酒はいいかな」
酔って醜態を晒すわけにもいかない。紙コップを渡しながら言えば、金森は綺麗な顔でにこりと笑った。
「飲めないの?」
「飲めないって言うか、俺凄いお酒弱くて」
「たまには酔っぱらうのもいいんじゃない?」
そう言って紙コップを袋からもう一つ出した金森は、同じ量のワインを注ぐ。
どうしようか。
俺は本当に酒に弱い。過去2回ほど飲んだが、どちらも記憶がなく、自室で夜に飲んでいたが朝起きたら裸になっていたりと我ながらゾッとしたため、お酒は飲まないと決めたのだ。
「はい。飲んで」
アルファだからだろうか。金森の言葉には強制力があり、つい流されそうになるが俺が酔って金森に迷惑をかけるわけにはいかない。どう断ろうか、なるべく金森を不快にさせない断り方を考えていると、金森は少し固い声音で「仲良くなるにはお酒が一番だよ」と紙コップに入ったワインを一口で飲み切る。
金森の声音に違和感がありつつも、仲良くなると言う言葉が頭の中でリフレインする。金森が俺と仲良くしようとしてくれている。あの金森が。俺はその言葉で舞い上がり、今回こそは大丈夫だろうと一緒にお酒を飲むことにしたのだ。
初めて飲むワインは赤ワインだったからか渋かったが、父から貰った日本酒よりは飲みやすい。俺がちびちび飲んでいる間に金森は水を飲むかのように赤ワインをぐいぐい飲み、ものの10分で飲み干してしまった。サブスクで金森オススメの動物ドキュメントを流しながら大学のことについて話し、合間に酒を飲む。
「お酒強いんですね」
「まあね。ある程度飲まないと良い気分にはならないし、酔えても少しかな。アルファはそんなもんだよ」
「そうなんですね」
有名な教授やお勧めの授業などを話し、30分もすれば俺の紙コップの中身も半分に減っていて、意識が朦朧としていた。とにかく気分がいい。夢の中にいるみたいだ。
「かなもり?」
「なに?」
「へへ、本物だ。凄い。格好いい!」
「酔った?」
「分かんないー!」
ふわふわとした意識の中、金森が紙コップを机に置く。
「ふーん。普通のより酔うの早いね。個体差か」
「へっ?」
「いやぁ?」
良い気分のままお酒を飲み干せば、いつの間にか意識を失っていたようで。肩を揺らされて、横を見れば金森がある。
金森だぁ!すごい!
あのさ、俺ずっと前から
「今のは唆られたよ」
かなもり?どうしたの?
「俺と寝たいんでしょ?わざわざ回りくどいやり方するね」
寝る?ふとん一つしか、あ、らいきゃくようの
「は?今更誤魔化さなくても。チョーカーもつけてないオメガがアルファの俺をこんな簡単に家に入れるんだ。それ以外目的なんてないでしょ」
へ、オメガ………なんでおれがオメガだって……
「オメガのフェロモン漂わせて何言ってるのさ」
え……おれの、おれのフェロモン分かるの?ほんとに!?ほんと!?
「アルファだからね」
ち、ちがう!かなもりはおれの特別なんだ!!おれのとくべつ!!あの、あのさ、おれ
「あのさ、もういい?」
ひっ!!!これ、かなもりのフェロモン……なんで?だめ。だめ。おれエロいきもちになるから。やめて。ねえ、どうしたの?
「はいはい。セックスしたいんならさっさと脱いで」
え、でも、なんでセックス?おれ、べつに
「俺のこと好きなんでしょ?きっかけ作りのためにコーヒーかけてくる奴は初めてで驚いたけど。その必死さに免じて抱いてあげる」
ちが、ちがうよ。おれ、そんなつもりじゃ
「特別だっけ?俺たち特別ならいいよね?寝よ?」
うん。かなもりはとくべつ。とくべつで、……でも
「面白いきっかけ作りだったから乗ったけど、面倒になってきたな」
そんな。いかないで。
「嫌だよ。じゃあ」
まって!するから。するからセックス。いかないで。すき。好きなんだ。ずっとみないふりしてたけどすき……
「そう。ありがとう。もう濡れてる?」
うん、かなもりのフェロモンで
「これだからオメガは便利だよね」
あっ
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