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しおりを挟む「汚くてすみません」
「そんなことないよ。お邪魔します」
金森の車を近くのコインパーキングに止め、自宅のドアを開ける。幸いにも、前日ちょうど部屋を掃除していたからあんまり汚くはないはずだ。まあ、金森を迎え入れるにはしょぼすぎる部屋ではあるが。
「えと、今DVD探すのでそこで座って待っててください。あ、飲み物出します。ペットボトルしかないですが、緑茶とお水どっちがいいですか?」
ぼっちな俺が自分の部屋に人を招くことは初めてだ。そのはじめての相手がまさか金森なんて。一応、家族をカウントしていいなら両親が何回か遊びに来たがそんなことを誇っても家族離れ出来ていないみたいで恥ずかしい。
万が一のため、買っておいた来客用の座布団をクローゼットから引っ張り出しちゃぶ台の前に置く。
「ありがとう。お水で」
大丈夫だよな。新品だから汚くないよな。
冷蔵庫から500ミリリットルの水を2本取り出す。金森が嫌そうにしていたらと心配になりチラリと見れば、違和感。THE庶民のワンルームに、キラキラした美形が座っている。あの金森をこんな家に連れてきてしまい申し訳なくなるが、折角のチャンスなのだ。なりふり構っていられない。
たった数日前まではエリートアルファだから気になるだけと自分に言い聞かせていたくせに、いざチャンスがあるとつい食いついてしまう。俺は情けないやつだ。
別に金森のことは好きではない。ええ、そうだ。この胸の高鳴りは心臓病のけがあるだけ。見惚れてしまうのは金森が美形だから。それだけだ。金森は俺だけ特別意識しているわけではない。皆んな金森を特別に意識しているのだから、俺のこれは恋なんかではない。
別にこれっきりでも構わない。もし、金森とこうやって話せる機会がもうなかったとしても、俺にはバッグの弁償という繋がりがある。最低な繋がりだが、一回金森と話すという奇跡を体験した俺は貪欲だった。緊張していない素振りで、金森に水を手渡し、眠っているDVDを漁る。
やばい。どうしよう。
ずらりと並んでいるDVDの中、左から辿っている俺は実は焦っていた。金森に座ってもらった場所が俺の大切な玩具が入ったボックスのすぐ隣なのだ。手を伸ばせば、俺の変態性が金森にばれてしまう。バレて引かれたら、恥ずかしさで死んでしまう。それに俺の変態性な趣味が金森にバレそうな状況にちょっと興奮してる。自分で自分が怖い。
意識するな。見るな。箱を見ていることがバレて、何が入っているの?なんて聞かれたら、どう答えればいいか見当もつかない。
恐怖と興奮で緊張マックスな自分をなんとか落ち着かせようと試みるがうまく行かない。
「あった!これ!」
裏で思考をフル稼働させながら、見つけたDVDは4年前の作品だ。2XXX年、人類が新種のウイルスによって衰退した後、発達したAIに人類が虐げられてしまう。そこで立ち上がったのがエーミルという少年で、エミールとその仲間が反乱軍を立ち上げ地球の主導権を取り戻していくという話だ。何番煎じか分からないよくある話だが、俺はそんな中でもこの作品が一番好きだった。
エーミルの苦悩と葛藤、自由への渇望。心理描写が上手く表現され、一般的に言われる人型ロボットが全く出てこない事から低予算ながら映像に違和感を感じない。緻密に考えられたストーリー。計算され尽くした伏線。そして何よりAIの心理描写があるのが素晴らしかった。人によって造られたAIが生物になりたいと渇望し、己が何者なのかを懊悩する。果たしてこの気持ちは感情なのか、数字の羅列なのか。人間を支配して、人間を超えた生き物になりたい。そんな気持ちさえも人間の汚い欲が積もり積もって出来上がった、要は作られた感情なのではないか。活躍していくエーミルの裏でAIは己を見つけ出していく。
結果的にこの作品は海外の大きな賞にノミネートされたり大きな反響を得たが、一般人にウケはしなかった。人が爽快にAIを倒していく姿を予想していた人たちにAIの心理描写は必要なかったのだ。
だが、俺はこの作品が映画の中で一番好きで。この作品こそが俺がこの大学に入学したきっかけでもあるから、この作品が生まれてきてくれたことに感謝している。
「えと、始めていいですか?」
「……いいよ」
金森の隣に座って映画を流し始める。俺はこの時、金森の顔を直視出来なくて、金森が何か探るような目つきをしていたことに全く気付かなかった。
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