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「お疲れ様でーす」

 適当な挨拶でアルバイト先のコンビニを出て電車で20分と徒歩15分。アルバイト先であるコンビニは俺が通う大学と駅の間にあり、そこは都心で賑わっているがそこから急行で千葉寄りに20分。カタコト揺られればびっくり仰天、そこは学生が多く住む住宅街に変わる。家賃が安く、立地もそこそこ。周辺に激安スーパーがあるこの土地は知る人ぞ知る貧乏人のための町という謳い文句で売り出されているが、新潟から引っ越した俺でさえネットで調べて直ぐにここが出て来たのだ。全くもって知る人ぞ知るではない。駅の東口には小さなお店が並び、10分もすれば件の激安スーパーがあるが西口には何もない。そして俺の住むアパートは西口方面にあり、あまり人の通らない道は暗かった。何十年前の電灯か、微かに明るく光るそれを頼りなく思いながら俺はいつもの遊びを開始した。

 月、明るい、人気者、金森、アルファ

 所謂、連想ゲーム。
 東京の大学に通い始めて2年。人見知りでコミュ症な俺は友達作りに失敗し、この二年間ほぼ1人で過ごしている。元々、1人に耐性のある方だった俺だが、流石に四六時中1人は寂しくて、気を紛らわせるためにこの連想ゲームをやり始めたら癖になってしまった。音楽を聴いていた時期もあったが、外の音が聞こえず車に轢かれそうになったことから怖くなり、外で音楽を聴くのをやめたのだ。ネットで骨伝導イヤホンを買おうかとも悩んだが、結局俺は何かに没頭することが好きであり、音楽を聴くなら集中して聴きたい。そのために今もヘッドフォンを愛用している。

 そもそも、こんな道をオメガの俺に歩かせて大丈夫なのか。

 アルファという言葉を連想し、不意に自分がオメガであることを思い出した。
 人口の数%しかいないオメガは男女ともに妊娠し発情期もあるため冷遇されていた時期もあった。だが、それも今や昔。今はオメガの権利も保証され、全ての人が暮らしやすい世の中になっている……と表向きにはなっていて、実際オメガへの差別は今だ尚残っていた。

 俺が今まで自分がオメガだと忘れているような表現になったのは、俺がベータ9割オメガ1割の発現率で実際の身体としてはベータの気質の方が強いからである。オメガの気質が1割でも含まれていたらオメガと判定されるが、たった1割なら発情期も来ないだろうし妊娠は不可能だろう。

 つまり、出来損ないのオメガということだ。せめて、一般的なオメガのように顔が良かったらいいが顔も普通。他人にもベータと自称していて、オメガには必須であるチョーカーも反対にオメガとバレてしまうためしていない。よって、今までの人生の中でオメガとバレたこともなく、あまり自分がオメガである自覚がなかった。

 ベータ同士の両親から産まれた俺を誰もがベータと思っていたからバース判定でオメガと判定された時は驚き過ぎて声も出なかった。俺は割とショックで3日ほど寝込んだし、風邪の噂でオメガと判定された子供がその日から虐待を受けた、みたいな話を聞いて戦々恐々としていたが両親は楽観的だった。「そんなこともあるわよ~」と母は笑い、「玉の輿狙うか!?」と、父は興奮気味で。俺はほっとしたのを覚えている。

 そんな俺は背の高さは165センチとまあまあ低いし、顔は全く印象に残らないような薄い顔だ。母曰く顔のパーツは悪くないらしいが、何故か平凡。オメガ要素が少しでも入っているなら、金森までとは言わなくても、もっと万人受けするような美形になりたかった。


「ただいまー」

 大学生が持つにはお高めの3万超えのバックを床に置き、ベッドに飛び込む。

「今日も格好良かった……」

 疲れた頭で思い浮かべるのは、絶世の美形である金森亮太ただ。180センチを超える長身と海外の血が入った目鼻立ちの整った甘く美しい顔立ち、中性的にも見れる顔のパーツは寸分の狂いなく黄金比に置かれている。体格はやや細めだが、男らしさもあり、その美しさは見るものに畏怖を与えるが金森はいつも微笑を浮かべており、誰が見たって好青年だ。無類の美形好きな俺にはそれだけで特別な存在なのに、金森はただの美形では収まらない。経済界の重鎮である金森家の次男であり、将来の大物になるだろう男なのだ。そんな金森は勿論アルファで、この大学を主席で合格しているといえば頭が良いに違いない。そう、金森亮太は顔良し、頭良し、家柄良し、バース良しの選ばれし人間なのだ。

 俺が金森と同じ大学に入れたことが奇跡。そもそもここは、富裕層のエスカレーター式の大学なのである。殆どの生徒が裕福な家柄の幼児舎からの進学組で、純東京っ子の御子息たち。御令嬢の挨拶はご機嫌ようだし、大学の施設は高級ホテルみたいに一流の輝きを放ち、一般庶民な俺はそわそわしてしまう。まあ、そんなわけで、人見知りでコミュニケーション以前にもう人間関係が出来上がっているのだから友達も作れなかったのだ。これは言い訳ではない。

 それに、ほぼ金持ちばかりのこの大学はバースの割合がおかしい。普通のバース割合はアルファ10%、ベータ85%、オメガ5%なのだが、この大学内に至ってはアルファが25%、ベータが50%、オメガが25%とアルファとオメガの割合が多い。それは、アルファ同士から生まれた子供はベータか時にアルファ、オメガとアルファが番になった場合多くの場合はアルファで、時にオメガが生まれるからだ。この国のトップヒエラルキーをほぼアルファが占めており、アルファの子供を残すため家柄の良いオメガと番うのはよくあることで。ピラミッドの上層に位置する者が多く通うこの大学はバース割合がおかしいのだ。

 まあ、その庶民には同じようなセレブ達も、実際には細かい階級があるようで、先に話した金森亮太は、この大学で一二を争う有望株で、まさにピラミッドの頂点だ。

 そんなお金持ちが多く、授業料がバカ高いこの大学にどうして俺が入学したのか。俺の家は代々続く由緒正しい富豪の家でもなく、父が社長、母が地主の娘なんてこともなく、本当にごくごく普通の中流家庭だ。父はしがないサラリーマン、母はぽっちゃり気味の専業主婦。だが、ただ一つイレギュラーがある。

 7億円の宝くじが当たったのだ。

 俺が小さい頃から両親がコツコツ買ってきた宝くじは、当たっても四等の千円、過去に一回三等の一万円が当たったことがあるくらいのほんの運試しだったが、俺たち家族の日頃の行いが良かったのだろう。俺の高校二年生の終業式、家に帰ったら興奮しながら母が抱きついてきた。ゴキブリでも出たのかと訝しめば嬉しそうに母は宝くじを見せてきたのだ。

 一等!とはしゃぐ母を横目で見ながら、俺はそんな奇跡みたいなこと起こるはずないだろと自分を落ち着かせながら当選番号を確認した。

「そんな、うちが一等なんて……ほんまや」

 俺は関西弁なんて話せないが、あまりの驚きに某お笑い芸人の口癖みたく驚き、きゃっきゃっとはしゃぐ母を背にこれから働かなくても生きていけるのではとバカみたいなことを考えていた。

 父が帰ってきてからは、家族内緊急会議を始め、宝くじが当たったらラーメン屋するぞと意気込んでいた父は結局サラリーマンのまま。誰かに話したら危ないと宝くじが当たったことは家族三人の秘密だ。

 高い授業料の心配をしなくて済んだが、いきなり大金を手に入れても基本的に俺たち家族の暮らしは変わらなかった。俺は大学進学を機に普通の学生が住むアパートで一人暮らし、仕送りは4万でそれ以上はアルバイトで稼ぐ。平凡な大学生だ。

 そんな俺にも、イレギュラーなような、そうでもないような趣味がある。


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