異世界転……生? いいえ、呼ばれたのは魂だけです

馬之屋 琢

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最期の時

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 的場春人まとばはるとは今年で二十一歳になる大学生だった。
 特に目標としている事もなく、趣味と言える程、情熱をかたむけられる程のものも無かった。
 ただ漫然まんぜんと、流されるままに生きてきた人生。
 就職したところで、それは変わらないものだと思っていた……。



(――雨か)

 降り始めた雨に身体を打たれながら、春人は静かに空を見上げていた。
 本来であれば、身体が濡れるのを嫌い、雨の当たらぬ所へと移動するのだが、今は、それどころではない。
 いや、それすらもできないのだ。

 春人は今、道に仰向あおむけに倒れていた。
 意識はあったが、身体がピクリとも動きはしない。
 後頭部のあたりからは、赤く、熱を持った液体が、流れ出していた。
 別に、轢かれそうな子供を助けたとか、強盗に立ち向かったとか、そういう格好の良い理由で、倒れている訳ではない。
 ただ階段で、足を滑らせ、転がり落ちただけである。

 薄暗く、人通りも少ない時間だった。
 周囲に人影は無く、春人は静かに雨に打たれ続けていた。
 
(まぁ、こんな人生の終わり方もあるよな)

 所詮しょせん、人生は死ぬまでの暇潰し。
 そんな考え方をしていた春人は、驚くほどあっさりと、自分の運命を受け入れていた。
 頭から抜けていく血液と共に、体内の熱も失われていく。
 それは、春人の命の灯し火が、消えていく証でもあった。
 
 徐々に寒くなっていく身体と裏腹に、春人の思考は、まだはっきりとしていた。
 頭に浮かぶのは、今まで経験した、過去の出来事。

 流されるままに生きてきた人生だ。未練と言える程のものは無い。
 ただ、一つだけ気掛かりがあるとすれば、それは残された両親の事。
 ろくな恩返しもしないまま、しかも親より先に旅立つという、最大の親不孝をやらかしたのだ。
 それだけは、申し訳ないと思っていた。

あっちあの世で会った時に、謝らないといけないな)
 
 視界が、少しずつ狭まっていく。
 どうやら、時間が来たようだ。
 春人は、最後の力を振り絞って目を閉じ、静かにその時を待った。

(あの世というのが、どういう所か知らないけれど、安らかに眠れるといいな)

 そして、春人の意識が薄れ、闇の中へと飲まれかけた時、

『―――』

 自分を呼ぶ声が、聞こえた気がした。
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