とある鍛冶屋の放浪記

馬之屋 琢

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再会の旅路 4

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 アリカとサラサが同じように国から飛び出し、自分達を捜しているとは知らないスタン達は、馬車に揺られながら、のんびりと旅路を進んでいた。
 馬車を急がせれば、その分だけ馬への負担が増えるし、途中で馬がばててしまえば、行き足を止めざるを得ない。
 そんな事になれば逆に時間が掛かってしまうので、スタンは無理のない速度で馬車を進めていた。
 しかし、一向に先へと進まぬ旅路に、彼の同行者達は少々不満げだった。

「師匠、旅に出てからというもの、少々寄り道が多くないですか?」
「ん? そうか?」

 エルの指摘に対し、スタンは首を#傾__かし__#げる。
 だがその場に居た、最後の一人であるセトナは、エルの意見にうんうんと頷いていた。

「エルの言う通りだ。お前は余計な事件に巻き込まれ過ぎている」
「そうは言われてもだな……」

 別にスタンが事件を起こしている訳ではない。
 何故か行く先々で問題が起こっており、それに巻き込まれているだけなのだ。

「それに、そんな風に言われるほど多いとは思えないんだが?」

 実際、旅に出る前でも、スタンの周囲は何かと騒がしかった。
 それ故、彼の感覚は少々麻痺しているのかもしれない。
 そんなスタンの一言に、エルとセトナの口からため息が漏れる。

「師匠、旅に出てから倒した魔物の数、それにならず者の数を思い出してみて下さいよ」

 エルに言われるまま、スタンは今まで叩き潰してきた相手の事を思い出してみる。

「まぁ、旅に出る前よりも、少しは多いと思うが……」
「少しだけ、ですか? 少なくとも、ボクは鍛冶の腕前よりも戦闘の技術が上がったと思えるくらい、戦ってると思うんですけど」
「私も、クルガの集落にいた時よりも、魔物と戦っている自信はあるな」

 セトナが、スタンと出会う前に住んでいたクルガ族の集落。
 その集落は厳しい環境にさらされる場所にあり、魔物に襲われる事も数多くあった。
 そんなセトナですら、旅に出てから倒した魔物の数は、集落にいた頃よりも多いと感じていたのだ。
 セトナの言葉は続く。

「お前にはもう少し自重して貰わないとな。こちらの身がもちそうにない」
「ああ、それは悪いとは思っている」

 スタンが事件の渦中へと巻き込まれれば、当然少女達も無関係ではいられない。
 戦闘になった場合は、必然的に彼女達も巻き込んでしまう事になってしまうのだ。

「なるべく厄介事には関わらないようにするし、巻き込まれた場合でも、俺一人で片を付けるようにする。それなら問題ないだろ?」
「そういう意味で言ったのではないのだがな……」

 自分の言いたい事が伝わらず、セトナは苦笑いをする。
 そんなセトナの言葉の意味を、スタンへと伝えたのはエルだった。

「師匠、セトナさんはそういう事を言いたかったんじゃないんですよ」

 眉根を寄せたエルが、スタンへと説明する。

「ボク達を巻き込むのは別にいいんです。というよりも、巻き込んでくれた方がボク達も安心できます」

 そこでエルは言葉を切り、チラリとセトナの様子を見た。
 彼女はエルの話を聞いていないかのように、そっぽを向いていたが、その耳はしっかりとエルの方へと向いていた。
 それを確認したエルは、再びスタンへと向き直る。

「セトナさんは、師匠の身を心配しているんですよ。師匠は無茶ばかりする人ですから」

 エルの言った事は、見事にセトナの心を言い表したようだ。
 セトナの尻尾が焦るように、そして誤魔化すように左右へとパタパタと揺れ始めた。
 そんなセトナへと、スタンは視線を向けたのだが、彼女はそっぽを向いたまま、こちらを見ようとはしない。
 しかし、その頬は微かに赤くなっているように見えた。

「もちろん、ボクも師匠の事を心配してますからね?」
「ああ、分かった。悪かったよ」

 ニッコリと笑顔で言ってきたエルに対し、スタンは自分の考え違いを謝罪する。

「なるべく問題事には関わらないようにするし、関わった場合はお前達に頼る事にする。これでいいんだろう?」
「はい」

 スタンの言葉に、満足そうに頷いたエルは、

「とはいえ、師匠の事だから、そうは言っても巻き込まれる気がしますけどね」

 最後にポツリとそんな事を呟くのだった。 





 街道をゆったりと移動してきたスタン達は、前方に宿場を見つけ、馬車を止めた。
 昼食を取るにはまだ早い時間帯ではあったが、せっかくなのでスタン達はそこで食事と休憩を取る事にしたのだ。
 いくつかある建物の中から、酒場の看板を選び、中へと入る。
 さすがにまだ繁盛するような時間帯ではないのだろう。酒場の中はがらんとしており、何人かの旅人がそれぞれの席で身体を休めているだけだった。
 適当な席を見つけ、座ろうと思っていたスタンはそこで、一ヶ所に留まらず、店内をあちこちへと移動している人影を見つける。
 格好からして店員ではなさそうだ。
 恐らく、何かを聞きまわっているのだろう。
 そう判断したスタンが、自分達には関係のない事だろうと思い、空いてる席へと移動しようした時、ちょうど振り返ったその人物と目が合った。
 そして、見覚えのあるその顔に、スタンは驚いてしまう。

「アンタは……!」
「ややっ! これはこれは……まさかお嬢様よりも先に、私めが出会う事になるとは……」

 そこに居た人物は、ウィルベール家に仕える老齢の執事。
 本来であればこんな所に居るはずのない、エバンスだった。

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