とある鍛冶屋の放浪記

馬之屋 琢

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再開の旅路 3

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「悪いけど、心当たりはないな」
「そうですか……」

 食事を終えたアリカ達は、早速スタン達に関する情報を集め始めた。
 しかし、残念な事にこの宿場にスタン達を目撃した者はいないかった。
 サラサは行商人の男へと礼を言うと、アリカの下へと戻っていく。

「どうだった?」
「この宿場にいる大体の人達に聞きましたが、誰もスタン様達を見ていないようです」
「そうなんだ……」

 サラサの報告に、肩を落とすアリカ。

「この街道を通っていれば、この宿場に寄っていくと思うんだど……もしかして違う道を進んでいるのかしら?」

 ここへと来る前に寄った街では、スタン達の目撃情報は確かにあったのだ。
 この宿場で情報が途切れてしまったという事は、スタン達が別の方向へと進んでしまった可能性が高い。

「もしくは、追い抜いてしまった可能性もあると思います」

 地図を見ながら頭を悩ませるアリカに対し、サラサはそんな可能性をあげた。

「かなり追い付いてきたとはいえ、まだ結構な差があったはずよ? そんな事あるかしら?」
「スタン様なら、その可能性はあると思います」

 そうかしら? と首をかしげるアリカに、サラサは根拠を説明する。

「スタン様は何かと問題に巻き込まれる方ですし、何だかんだと言いながらも困っている人達を放っておけない性格です。問題に巻き込まれた場合は、恐らくそのほとんどを解決すると思われます」
「そんな事は……いえ、確かにそうかもね」

 サラサの意見に最初は懐疑的なアリカだったが、よくよく考えてみれば、スタンの周りで騒動が起こるのは良くある事だし、その全てをスタンが解決してきたのを見て来ていた。

「そんなスタン様が、行く先々で問題に巻き込まれ、それを解決しようとしていたならば、道をそれたり、寄り道をする事もあるかと思います。私達が追い抜いてしまった可能性も充分にあるのではないでしょうか?」
「う~ん……」

 サラサの説明を聞いているうちに、アリカは彼女の意見が正しいような気がしてきた。

「そうだとしたら、どうすればいいのかしら? この宿場で待ってみる?」

 しかしサラサは、主のその考えに首を振った。

「確かに待つのも一つの手です。しかしそれならば、ここで待つよりも、もっと大きな街で情報を集めながら待っていた方が良いかと思います」
「そうねぇ……」

 確かにこの宿場は小さく、情報を集めるには少し不便かもしれない。
 アリカはこの辺りの地図へと再び視線を戻し、近くの街や地理を確認する。

「……この先の渓谷地帯を抜けた先に街があるわね。とりあえずそこまで行ってみましょうか」

 アリカが指差したのは、今いる宿場から北へと進んだ所にある街。
 山と山に囲まれた道を抜けた先にある、大きな街だった。
 そこならば、この宿場よりも情報は集めやすいだろう。

「かしこまりました」

 サラサも、アリカの意見に異論はなかった。
 今後の予定を決めて、頷き合う少女達。

「ちょっと聞こえたんだが、お嬢ちゃん達、この先の渓谷を通るつもりかい?」

 そんなアリカ達へと、先程、サラサと話していてた行商人の男が声を掛けてきた。





「ええ、そうだけど」

 アリカが肯定すると、男は渋い顔をする。

「それは止めておいた方がいい。あの渓谷は道が複雑だし、人があまり通らないせいか魔物の数も多い。よほど急ぐ用が無ければ、回り道をした方が安全だよ」

 どうやら行商人は、アリカ達が心配で声を掛けたようだ。
 行商人からの忠告を受け、アリカは再び地図へと目を落とす。
 渓谷地帯を通らないとなるならば、山を大きく迂回する事になってしまう。 
 そちらの方が確かに安全になるかもしれないが、日数はかなり掛かってしまう事になる。
 安全と時間と、どちらを取るべきなのかアリカは再び頭を悩ませてしまう。
 本来ならば、安全な道を取るべきだろう。
 数々の冒険をこなし、多少は腕に自信があるとはいえ、旅では何が起こるか分からない。
 わざわざ危険に飛び込む必要もないのだから。
 しかし先程サラサが言ってたように、スタン達が後方にいるとすれば、彼らが渓谷地帯を通過して、追い越される可能性もあるのだ。
 ならばこの宿場で待っていた方が良いのか?

「いえ、追い抜いた可能性もあるというだけで、本当はもっと先にいるのかもしれないしね……」

 やはり、情報を集める為にも大きな街へと行った方が良い。
 そして、追い抜かれる可能性も考えれば、多少の危険は覚悟の上で、渓谷を通っていくのが良いとアリカは判断した。

「忠告、感謝します。けど、やっぱり私達は渓谷へと向かう事にします」
「……そうかい。なら充分に気を付けるんだよ」

 行商人は諦めたように首を振ると、アリカ達の前から去っていく。

「せっかく忠告してくれたのに、悪い事をしちゃったわね」

 その背を申し訳ない顔で見ていたアリカだったが、すぐに気持ちを切り替える。

「とはいえ、危険な場所であるという事は分かったわ。しっかりと準備と心構えをして、先へと進む事にしましょう」
「はい、お嬢様」

 アリカへと力強く返事をするサラサ。
 その言葉には、どのような危険が迫ろうとも守り抜いてみせるという、強い意志を感じさせた。

「それじゃ、明日に備える為にも、今日は早めに寝る事にしましょうか」

 そんなサラサへと微笑み返すと、アリカは宿へと向けて、歩き始めるのだった。
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