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 王太子殿下の生誕記念パーティーというものに出席した。私はこの会場でできれば話をしたい人物がいた。妹のアンだ。彼女には王太子殿下の愛妾にという話が出ている。王太子殿下ルートのバッドエンドを迎えた彼女がそれを望むなら旦那様に頼んで愛妾の話を実現させてやりたい。あの子が馬鹿をやったおかげで私は予定通り旦那様と一緒になれたからだ。もちろん彼女が辺境伯を愛しているというなら逆のことを頼むつもりだ。

「アン、こうして話すのは初めてね」

「アデラインお姉様……」

 辺境伯夫人となった妹を見つけて声をかけた。私たちは姉妹といえど会話をしたことはなかった。私は彼女を頭からつま先まで値踏みするような目で見た。妹も同じような目で私を見ていた。コーラルピンクのドレスはよく似合っているし仕立てもいい。イエローダイヤのアクセサリーもよく似合っている。辺境伯の寵愛を得ているようだ。バッドエンドを迎えたとはいえ顔色もよく不自由はしていないのだろう。妹を庇うように辺境伯が前に出る。

「随分愛されてるのね」

 思わず苦笑する。私が妹をいびるとでも思っているのだろうか。

「はい、アデラインお姉様。私も旦那様を愛しています」

「アン、あなた今幸せ?」

「はい」

 そう言って妹はそれはそれは幸せそうに微笑んだ。バッドエンドだから心配していたけれど辺境伯を愛しているらしい。けれど念のため確認しておかなければ。

「あなたを愛妾にという話があるようだけれど」

「愛妾なんてなりたくありません」

 幸せそうに蕩けた顔を固くして嫌そうに言うのだから本当に嫌がっているのだろう。

「そう。なら夫にしっかりと尽くすのですよ」

 となると私のすることは決まっている。旦那様にお願いする内容は決まった。

「アディ」

「旦那様」

 名前を呼ばれて思わず笑みが浮かぶ。さあ、妹の幸せを壊さぬよう後で旦那様に頼まなければ。旦那様なら上手くやってくれるだろう。

 その後妹を愛妾にという話は立ち消えになった。愛妾を迎えるなんて不義理なことをせず妻となる令嬢だけを愛するべきだという空気を旦那様が作ってくれたからだ。財力のある旦那様は貴族の間でなかなかの影響力を持っていた。私の独り善がりだったが妹からお礼の手紙が届いた。あの男爵の娘だから心配していたが妹には常識というものがあったらしい。それから彼女と手紙のやり取りをするようになったことと、一切社交をしないと言われる彼女が我が家に遊びに来た話はまた別の機会に。
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