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ある昼下がり。私とパーシヴァルさんはお茶をしていた。場所は自宅である。私はコーヒー、パーシヴァルさんには紅茶を淹れた。午前中で仕事を終わらせたパーシヴァルさんとこうしてお茶を飲むことは稀にあった。異世界であってもコーヒーの味は私のいた世界と変わらないしこういった時間の穏やかさも変わらない。たとえ一歩市壁の外に出ればモンスターが闊歩しているような世界であってもだ。この世界の都市は基本的に壁に囲まれているらしい。らしいというのは私が他の街を知らないからだ。そして初日に賞金首と出会ってしまったことから分かるように治安もさほどよくない。そんな世界でもなんとか生きていられるのはひとえにパーシヴァルさんのおかげだった。彼が働いてくれるおかげで私は市壁の中でのうのうとしていられるし、日が落ちてから女一人で出歩くような無防備な真似もせずに済んでいる。どうしてもの時は一緒に着いてきてくれるのだ。物理的な面でもそうだし、それだけじゃなく精神的にもかなり救われているのだ。この世界の常識は私にとっての非常識。この世界の住人にとっては当たり前のことでも私には分からないことがある。パーシヴァルさんも私からすれば割とファンタジー世界の住人だけど、それでも私の常識と比較的近い。だから分からないと言い合えるのだ。これは精神衛生上かなりありがたいことだった。色々な意味でパーシヴァルさんは私の生命線だった。だから私はその手を離せない。いや、離したくない。だって、この世界で唯一の理解者なのだから。
「……私、あなたがいないと生きていけないかもしれません」
なんとなく、口にするつもりのなかった言葉が口を衝いていた。
「俺はずっとお傍にいますよ」
なんでもないように穏やかな顔をしてパーシヴァルさんは答えた。
「本当に、感謝してるんですよ。時々思うんです。わけの分からない世界に迷い込んだんじゃなくて、自分の頭がおかしいんじゃないかって。本当はこの世界の住人なのに、自分は異世界から来たっていう妄想に取り憑かれているんじゃないかって……!」
「マスター」
その一言は労しげだった。
「でもあなたが、パーシヴァルさんがいてくれたから。私と同じようにこの世界の常識を解さないあなたが傍にいてくれたから、だからどうにかやってこれたんです」
一度言葉を区切ってそれから続けた。この先が一番言いたかったことだ。
「パーシヴァルさん、あの時助けに来てくれてありがとうございました。召喚されたのがあなたで本当によかった」
すごく晴れやかな気分だった。タイミングが掴めなくて中々口にできなかった感謝の言葉もようやく伝えられたから自然と頬が緩む。
「これからもよろしくお願いします」
「もちろんです、マスター」
パーシヴァルさんは穏やかな笑みを湛えていた。
「……私、あなたがいないと生きていけないかもしれません」
なんとなく、口にするつもりのなかった言葉が口を衝いていた。
「俺はずっとお傍にいますよ」
なんでもないように穏やかな顔をしてパーシヴァルさんは答えた。
「本当に、感謝してるんですよ。時々思うんです。わけの分からない世界に迷い込んだんじゃなくて、自分の頭がおかしいんじゃないかって。本当はこの世界の住人なのに、自分は異世界から来たっていう妄想に取り憑かれているんじゃないかって……!」
「マスター」
その一言は労しげだった。
「でもあなたが、パーシヴァルさんがいてくれたから。私と同じようにこの世界の常識を解さないあなたが傍にいてくれたから、だからどうにかやってこれたんです」
一度言葉を区切ってそれから続けた。この先が一番言いたかったことだ。
「パーシヴァルさん、あの時助けに来てくれてありがとうございました。召喚されたのがあなたで本当によかった」
すごく晴れやかな気分だった。タイミングが掴めなくて中々口にできなかった感謝の言葉もようやく伝えられたから自然と頬が緩む。
「これからもよろしくお願いします」
「もちろんです、マスター」
パーシヴァルさんは穏やかな笑みを湛えていた。
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