取り巻き令嬢Fの婚活

キマイラ

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 ウエディングドレスのデザインを決める時、私よりも母の方が気合が入っていた。エンパイアラインの比較的シンプルな物を選ぼうとした私にあれはどうだこれはどうだと華やかな物を薦めてきたのだ。あまりに華美な物はドレスに負けるからと却下して最終的に母の薦めてきたプリンセスラインのドレスに決めた。押し負けたのではなくただ単に母が私の好みをよく理解していた結果である。

 夏休みはあっという間に過ぎ去って、秋が来た。これからすぐに寒くなって長い冬が訪れる。そうして春になれば卒業だ。去年の冬は不安に震えていたけれど今年はきっと大丈夫。そもそも私が不安になった理由の一因であろう事件なんてそうそう起こるものじゃないからだ。

 なんと王子様と婚約していた公爵令嬢が一方的に振られたのだ。挙句の果てに新しい婚約者なる人物を卒業パーティーで紹介したのだから会場は阿鼻叫喚。このスキャンダルは国中を駆け巡った。噂話に疎い私の知るところとなるくらいだから、もはや知らぬ人間などいないのではなかろうか。ちなみにこの新しい婚約者というのがアリシア・エイベル男爵令嬢で聞いた時は大層驚いた。

 あんなに身分が高く美しく聡明な方ですら一方的に振られて婚約破棄に至るのである。凡庸な伯爵令嬢が不安に思わないわけがないと言い訳をさせてほしい。



+++++



「やっぱり北部の秋は朝晩が冷え込みますね。夕方になって気温も下がってきましたし暖炉に火を入れましょうか」

「秋なんてこんなものだろう?」

「南部はもっと暖かいですよ。今くらいの時期なら朝も布団から余裕で出れます」

「それは暖かいな」

 そう、南部は温暖で過ごしやすい気候なのである。その代わり夏は北部より暑いけど。ああ、でも寒いのも悪くない。こうしてくっついていられるのだから。今私は後ろから抱きかかえられるようにして座っている。暑いとこういう触れ合いは減るから寒いのだって悪くない。これくらいの気候なら。

「フランシスさん、今日のおやつはスイートポテトですよ。……もしかしてお嫌いでしたか?」

 今日のフランシスさんはまだおやつに手を付けてない。私の髪を指に巻き付けて遊んでいる。

「俺は君をかまうのに忙しい。食べさせてくれないか」

「……はい、あーん」

 ちょっと迷ったけど食べさせることにした。

「美味しいですか」

「ああ。毎日でも食べたい」

「もう、南部の女の子にそういうことを軽々しく言っちゃダメなんですからね」

 南部では君の作った味噌汁を毎日食べたい的なプロポーズもされることがあるのだ。フランシスさんは北部人だけどそのことは教えたから知ってるはず。

「前にも言われたな。……君の作ったものを毎日食べたい」

 そう言って頬に口付けるのだから分かっててやってるんだろう。

「結婚したら毎日食べさせてあげますよ」

「楽しみにしてる」

 触れるだけのキスを何度もして、指を絡めて今日はそれで別れた。帰り際、私のつむじにキスを落としてフランシスさんは帰って行った。
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