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再会⑤
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それは、昼を過ぎ、人々が再び動き始める頃だった。
「北、遠方にドラゴンの影あり! こちらに向かっています!」
テントの中へ顔を覗かせた兵士が、身体を休めているジャック達に大声で伝えた。
四人は、荒野の入り口に張ったテントから身体を出していく。
「もう少し日がかかると思ったけど、早いもんだったな」
「そうね」
双眼鏡を兵士から受け取ったミーナは、自分の目でもその存在を確認する。だが、彼女は自分の目を疑う。
「ちょっと、私たちが見た時と違うじゃない。——ねぇ、本当にあのドラゴンなの?」
ミーナは、昨日ドラゴンを見た兵士の一人に確認を取る。
「はい! 間違いありません!」
ハッキリと口にする兵士に、ミーナは「そう」と言うと顔を渋らせた。
その様子を見たジャックが彼女に尋ねる。
「どうした?」
彼女はそのことについて考えていたため、ジャックに黙って双眼鏡を渡す。それを受け取ったジャックは、その方角を覗いてみる。
「······黒い?」
そう。最初にジャック達があった時、ドラゴンは赤黒い鱗をしていた。だが、今こうして現れたドラゴンは、漆黒を纏っていた。
「アレ、本当に俺らが見たやつか?」
「えぇ。尻尾にナイフがあるわ」
ジャックはもう一度、双眼鏡を覗く。
「······あぁ、ホントだ」
血は滴ってこそいなかったが、ナイフは黒い尾に間違いなく刺さっていた。
「鱗が進化してると考えるべきかしら······。それで大砲が通用しないのね······」
独り言のように呟くミーナ。
「でも作戦に変更はないわ。——すぐに取り掛かるわよ!」
ミーナは周りの人間に指示を送る。
早急にテントを片付ける兵士達。
ジャック達も、これから始まろうとする戦いに備えていた。
そして、二十人ほどの兵士が大砲の側で座り込み、侵攻された際に備える。
ミーナは、木箱から黒い実を取り出す。
「準備はいいかしら?」
武器や魔法の準備を終えたジャック達に対し、彼女は最終確認をする。
彼らは、二つ返事で答えた。
手袋をしたミーナは、右手でその実を潰した。
荒野の入り口に敷かれた陣形は、ミーナとジャックを先頭に、後ろに大砲の群。そして、そのすぐ後ろにスライとフィリカだ。
潰れた果実と手袋を箱に収めたミーナは、橋より五メートル程離れた地面にそれを置いていた。
既に、肉眼で確認出来るほど、黒い点は空に浮かんでいた。それは間違いなく、真っ直ぐ、街の方向を目指していた。
しかし、それが辿り着くよりも前のことだった。ジャック達の左右、遠くに土煙が上がり始めていた。
「やっぱ、こっちが先なのね」
東からは狼の群れ、西からは鳥と植物の魔物達が姿を見せていた。
橋の上——大砲の前に立つミーナは左手を革袋に突っ込むと、取り出した丸薬を奥歯で噛み砕く。
細くなったそれを飲み込んだ彼女は、片膝をついてしゃがみ込んだ。そして手を組み、目を閉じる。
その姿はまるで祈るようだった。
やがて、モンスターの地響きを近くに感じた彼女はパッと目を開くと、両手を素早く地面へと伸ばす。
「インフェルノ——汝らの敵を焼き尽くせ」
刹那、箱を中心に半円状の炎壁が広がり、モンスター達を飲み込んでいく。
同時に、後方の兵士からどよめきが上がる。
彼らは眼前の——一人の少女が数十ものモンスターを殲滅していく、異様な光景に目を取られていた。
魔物の影が無くなると炎も消え、熱波がパタリと止む。ミーナは立ち上がり、手をパンパンと払った。
あっという間に荒野は、数分前と同じ景色を見せる。ただ一つ、地面に転がる炭を除いては。
そこへ、側に居たジャックが思わず耳打ちをする。
「おい、なんだよアレ。『インフェルノ~』ってやつ。あんなのやる必要ないだろ? 動作もさ」
「ちゃんと人にお披露目するの初めてだもの。しっかりしておかなくちゃ、ね? 所作もあってカッコ良かったでしょ?」
まるで、誰かをショーで楽しませるように言う彼女に、ジャックは鼻で息をつく。
「様にはなってたけどさ、こんな時ぐらいいつも通りでいいだろ? ······ったく、いつそんなコト考えてたんだ?」
「ドラゴンを待ってる間よ」
「あぁ、そう······」
ジャックは呆れながらも、彼女から顔を離す。
「それよりも——」
彼のことを特に気にしないミーナは、真上を見上げて口を開く。
「様子を窺ってるのかしら?」
黒の実を嗅ぎつけたドラゴンは高度を変える事なく、ミーナ達の頭上高くで旋回をしていた。
「街の方、行っちゃうんじゃないか?」
「どうかしら。一応、こちらに意識は向けてるみたいだけど」
そう話しているうちに再び、地響きが起こり始める。二人は地上へと視線変える。
「とりあえず今はこっちね······。ジャック、少し下がってちょうだい」
彼女は再び、モンスターを業火で飲み込む。
今度は何も所作を見せずに。
「北、遠方にドラゴンの影あり! こちらに向かっています!」
テントの中へ顔を覗かせた兵士が、身体を休めているジャック達に大声で伝えた。
四人は、荒野の入り口に張ったテントから身体を出していく。
「もう少し日がかかると思ったけど、早いもんだったな」
「そうね」
双眼鏡を兵士から受け取ったミーナは、自分の目でもその存在を確認する。だが、彼女は自分の目を疑う。
「ちょっと、私たちが見た時と違うじゃない。——ねぇ、本当にあのドラゴンなの?」
ミーナは、昨日ドラゴンを見た兵士の一人に確認を取る。
「はい! 間違いありません!」
ハッキリと口にする兵士に、ミーナは「そう」と言うと顔を渋らせた。
その様子を見たジャックが彼女に尋ねる。
「どうした?」
彼女はそのことについて考えていたため、ジャックに黙って双眼鏡を渡す。それを受け取ったジャックは、その方角を覗いてみる。
「······黒い?」
そう。最初にジャック達があった時、ドラゴンは赤黒い鱗をしていた。だが、今こうして現れたドラゴンは、漆黒を纏っていた。
「アレ、本当に俺らが見たやつか?」
「えぇ。尻尾にナイフがあるわ」
ジャックはもう一度、双眼鏡を覗く。
「······あぁ、ホントだ」
血は滴ってこそいなかったが、ナイフは黒い尾に間違いなく刺さっていた。
「鱗が進化してると考えるべきかしら······。それで大砲が通用しないのね······」
独り言のように呟くミーナ。
「でも作戦に変更はないわ。——すぐに取り掛かるわよ!」
ミーナは周りの人間に指示を送る。
早急にテントを片付ける兵士達。
ジャック達も、これから始まろうとする戦いに備えていた。
そして、二十人ほどの兵士が大砲の側で座り込み、侵攻された際に備える。
ミーナは、木箱から黒い実を取り出す。
「準備はいいかしら?」
武器や魔法の準備を終えたジャック達に対し、彼女は最終確認をする。
彼らは、二つ返事で答えた。
手袋をしたミーナは、右手でその実を潰した。
荒野の入り口に敷かれた陣形は、ミーナとジャックを先頭に、後ろに大砲の群。そして、そのすぐ後ろにスライとフィリカだ。
潰れた果実と手袋を箱に収めたミーナは、橋より五メートル程離れた地面にそれを置いていた。
既に、肉眼で確認出来るほど、黒い点は空に浮かんでいた。それは間違いなく、真っ直ぐ、街の方向を目指していた。
しかし、それが辿り着くよりも前のことだった。ジャック達の左右、遠くに土煙が上がり始めていた。
「やっぱ、こっちが先なのね」
東からは狼の群れ、西からは鳥と植物の魔物達が姿を見せていた。
橋の上——大砲の前に立つミーナは左手を革袋に突っ込むと、取り出した丸薬を奥歯で噛み砕く。
細くなったそれを飲み込んだ彼女は、片膝をついてしゃがみ込んだ。そして手を組み、目を閉じる。
その姿はまるで祈るようだった。
やがて、モンスターの地響きを近くに感じた彼女はパッと目を開くと、両手を素早く地面へと伸ばす。
「インフェルノ——汝らの敵を焼き尽くせ」
刹那、箱を中心に半円状の炎壁が広がり、モンスター達を飲み込んでいく。
同時に、後方の兵士からどよめきが上がる。
彼らは眼前の——一人の少女が数十ものモンスターを殲滅していく、異様な光景に目を取られていた。
魔物の影が無くなると炎も消え、熱波がパタリと止む。ミーナは立ち上がり、手をパンパンと払った。
あっという間に荒野は、数分前と同じ景色を見せる。ただ一つ、地面に転がる炭を除いては。
そこへ、側に居たジャックが思わず耳打ちをする。
「おい、なんだよアレ。『インフェルノ~』ってやつ。あんなのやる必要ないだろ? 動作もさ」
「ちゃんと人にお披露目するの初めてだもの。しっかりしておかなくちゃ、ね? 所作もあってカッコ良かったでしょ?」
まるで、誰かをショーで楽しませるように言う彼女に、ジャックは鼻で息をつく。
「様にはなってたけどさ、こんな時ぐらいいつも通りでいいだろ? ······ったく、いつそんなコト考えてたんだ?」
「ドラゴンを待ってる間よ」
「あぁ、そう······」
ジャックは呆れながらも、彼女から顔を離す。
「それよりも——」
彼のことを特に気にしないミーナは、真上を見上げて口を開く。
「様子を窺ってるのかしら?」
黒の実を嗅ぎつけたドラゴンは高度を変える事なく、ミーナ達の頭上高くで旋回をしていた。
「街の方、行っちゃうんじゃないか?」
「どうかしら。一応、こちらに意識は向けてるみたいだけど」
そう話しているうちに再び、地響きが起こり始める。二人は地上へと視線変える。
「とりあえず今はこっちね······。ジャック、少し下がってちょうだい」
彼女は再び、モンスターを業火で飲み込む。
今度は何も所作を見せずに。
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