上 下
71 / 83

再会⑤

しおりを挟む
 それは、昼を過ぎ、人々が再び動き始める頃だった。

「北、遠方にドラゴンの影あり! こちらに向かっています!」

 テントの中へ顔を覗かせた兵士が、身体を休めているジャック達に大声で伝えた。
 四人は、荒野の入り口に張ったテントから身体を出していく。

「もう少し日がかかると思ったけど、早いもんだったな」
「そうね」

 双眼鏡を兵士から受け取ったミーナは、自分の目でもその存在を確認する。だが、彼女は自分の目を疑う。

「ちょっと、私たちが見た時と違うじゃない。——ねぇ、本当にあのドラゴンなの?」

 ミーナは、昨日ドラゴンを見た兵士の一人に確認を取る。

「はい! 間違いありません!」

 ハッキリと口にする兵士に、ミーナは「そう」と言うと顔を渋らせた。
 その様子を見たジャックが彼女に尋ねる。

「どうした?」

 彼女はそのことについて考えていたため、ジャックに黙って双眼鏡を渡す。それを受け取ったジャックは、その方角を覗いてみる。

「······黒い?」

 そう。最初にジャック達があった時、ドラゴンは赤黒い鱗をしていた。だが、今こうして現れたドラゴンは、漆黒を纏っていた。

「アレ、本当に俺らが見たやつか?」
「えぇ。尻尾にナイフがあるわ」

 ジャックはもう一度、双眼鏡を覗く。

「······あぁ、ホントだ」

 血は滴ってこそいなかったが、ナイフは黒い尾に間違いなく刺さっていた。

「鱗が進化してると考えるべきかしら······。それで大砲が通用しないのね······」

 独り言のように呟くミーナ。

「でも作戦に変更はないわ。——すぐに取り掛かるわよ!」

 ミーナは周りの人間に指示を送る。

 早急にテントを片付ける兵士達。
 ジャック達も、これから始まろうとする戦いに備えていた。

 そして、二十人ほどの兵士が大砲の側で座り込み、侵攻された際に備える。

 ミーナは、木箱から黒い実を取り出す。

「準備はいいかしら?」

 武器や魔法の準備を終えたジャック達に対し、彼女は最終確認をする。
 彼らは、二つ返事で答えた。

 手袋をしたミーナは、右手でその実を潰した。




 荒野の入り口に敷かれた陣形は、ミーナとジャックを先頭に、後ろに大砲の群。そして、そのすぐ後ろにスライとフィリカだ。

 潰れた果実と手袋を箱に収めたミーナは、橋より五メートル程離れた地面にそれを置いていた。

 既に、肉眼で確認出来るほど、黒い点は空に浮かんでいた。それは間違いなく、真っ直ぐ、街の方向を目指していた。

 しかし、それが辿り着くよりも前のことだった。ジャック達の左右、遠くに土煙が上がり始めていた。

「やっぱ、こっちが先なのね」

 東からは狼の群れ、西からは鳥と植物の魔物達が姿を見せていた。

 橋の上——大砲の前に立つミーナは左手を革袋に突っ込むと、取り出した丸薬を奥歯で噛み砕く。

 細くなったそれを飲み込んだ彼女は、片膝をついてしゃがみ込んだ。そして手を組み、目を閉じる。
 その姿はまるで祈るようだった。

 やがて、モンスターの地響きを近くに感じた彼女はパッと目を開くと、両手を素早く地面へと伸ばす。

「インフェルノ——汝らの敵を焼き尽くせ」

 刹那、箱を中心に半円状の炎壁が広がり、モンスター達を飲み込んでいく。

 同時に、後方の兵士からどよめきが上がる。
 彼らは眼前の——一人の少女が数十ものモンスターを殲滅していく、異様な光景に目を取られていた。

 魔物の影が無くなると炎も消え、熱波がパタリと止む。ミーナは立ち上がり、手をパンパンと払った。

 あっという間に荒野は、数分前と同じ景色を見せる。ただ一つ、地面に転がる炭を除いては。

 そこへ、側に居たジャックが思わず耳打ちをする。

「おい、なんだよアレ。『インフェルノ~』ってやつ。あんなのやる必要ないだろ? 動作もさ」
「ちゃんと人にお披露目するの初めてだもの。しっかりしておかなくちゃ、ね? 所作もあってカッコ良かったでしょ?」

 まるで、誰かをショーで楽しませるように言う彼女に、ジャックは鼻で息をつく。

「様にはなってたけどさ、こんな時ぐらいいつも通りでいいだろ? ······ったく、いつそんなコト考えてたんだ?」
「ドラゴンを待ってる間よ」
「あぁ、そう······」

 ジャックは呆れながらも、彼女から顔を離す。

「それよりも——」

 彼のことを特に気にしないミーナは、真上を見上げて口を開く。

「様子を窺ってるのかしら?」

 黒の実を嗅ぎつけたドラゴンは高度を変える事なく、ミーナ達の頭上高くで旋回をしていた。

「街の方、行っちゃうんじゃないか?」
「どうかしら。一応、こちらに意識は向けてるみたいだけど」

 そう話しているうちに再び、地響きが起こり始める。二人は地上へと視線変える。

「とりあえず今はこっちね······。ジャック、少し下がってちょうだい」

 彼女は再び、モンスターを業火で飲み込む。
 今度は何も所作を見せずに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おれが聖女で、あいつが勇者で。〜不本意ジョブチェンジで詰んでる魔王退治〜

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 千年前に封印された魔王の復活の日が近いーー  女神は勇者に太陽の剣をふるうために必要な「光の力」を、聖女に魔を浄化する「浄化の力」を与える。  復活の日に魔王を倒すため、千年の時を超えて受け継がれた二つの力。  二人は女神から「力」を受け取り、魔王退治の旅へと共に旅立つ!  ……はずだったのだが。 「間違えちゃった。てへっ」  ポンコツ女神のせいで勇者なのに剣が使えない!聖女なのに浄化できない!人類詰んだ!  こうなったら魔王が復活する日までに勇者が聖女に、聖女が勇者にジョブチェンジするしかない!? 「無理に決まってんだろうがぁぁっっ!!」  旅立つ前から詰んでる魔王退治の旅が今、始まる!!

異世界じゃスローライフはままならない~聖獣の主人は島育ち~

夏柿シン
ファンタジー
新作≪最弱な彼らに祝福を〜不遇職で導く精霊のリヴァイバル〜≫がwebにて連載開始 【小説第1〜5巻/コミックス第3巻発売中】  海外よりも遠いと言われる日本の小さな離島。  そんな島で愛犬と静かに暮らしていた青年は事故で命を落としてしまう。  死後に彼の前に現れた神様はこう告げた。 「ごめん! 手違いで地球に生まれちゃってた!」  彼は元々異世界で輪廻する魂だった。  異世界でもスローライフ満喫予定の彼の元に現れたのは聖獣になった愛犬。  彼の規格外の力を世界はほっといてくれなかった。

全て失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司
ファンタジー
変更前の名前 【すべてを失ってしまう悲劇の悪役になったが、己の力で家族やヒロインを助け、未来を変える】 ある事が原因で小説の世界に転生してしまった主人公 しかし転生先は自分が大好きだったとある小説の悪役 アクセル・アンドレ・レステンクールだった…! そんな主人公はアクセルの末路を知っていた。家族は襲われ、姉は毒殺、妹は誘拐され、やがて全てが失っていく。そんなアクセルは人間が憎くなり、後の魔王幹部になったが、周りの部下や仲間達にも裏切られ彼は孤独の中で死んでいく。 「俺は…こいつを、こいつらの家族を救いたいだけだ…それに立ち塞がるのならどんな手を使っても蹂躙してやるよ」 彼のことを救いたいと思った主人公はアクセルの家族、ヒロインを救うためチートと呼ばれてもおかしくない狂気な力を使い、救い、そして彼自信が最凶になっていく…。 これはそんな悲劇の悪役が自分の、そして大切な人たちの未来を変えるために奮闘していく話である。 また各ヒロインとの面白おかしい日常物語でもある。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

魔力で繋がる新世界!邪神にチートと寝取り魔法を与えられた俺は異世界でのんびりとスローライフを送ることにします

第三世界
ファンタジー
邪神によって異世界に転移させられることになったアマネに与えられたスキルは、寝取りスキルという意味の分からないスキルだった。さらに創造魔法というチートを手に入れたアマネは、異世界でのんびりとした日常を送ることになる。この作品には性描写がありますので、苦手な方はご注意ください。この作品はカクヨム、pixivにも同時掲載をしています。 また、pixivFANBOXとFantiaにR18番外編を限定公開しています。

異世界ダンジョン経営 ノーマルガチャだけで人気ダンジョン作れるか!?

渡琉兎
ファンタジー
学生ながらバイトをして色々な国へ旅行をしていた少女、三葉廻(みつばめぐる) 外国から帰る飛行機が突如としてエンジン停止、瞬く間に墜落して命を落としてしまう。 次元の狭間で出会った神様から、他の乗客は輪廻転生の道を進んだが、何故か私だけ異世界でダンジョン経営をさせられる羽目に! 得られたギフトもお粗末過ぎて怒り爆発寸前な廻が努力と負けん気だけで奮闘するダンジョン経営物語! ※カクヨム、ノベルアップ+にて掲載しています。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

処理中です...