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オアシス 後編④

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 彼らの訪れた『祈りの間』は広大だった。
 高さ六メートルはある天井。
 幅十メートルに、五十メートルはある奥行き。
 そんな、ちょっとした炎では照らし切れないほどの巨大な空間が、壁で光る鉱石によって、隅々まで白く染められていた。
 
「ここはまた一段と明るいな······」
「地下ということも忘れそうね······」
「『祈りの間』というのも分かりますね······」

 彼らの少し先には、頭の高さまである祈祷場(きとうば)。
 そこに登るまでの薄い石段。
 そして祈祷場の左右には、数十体もの、立ち姿勢の石像が奥までずっと並んでいた。

「でっかい像だなぁ······。天井付近まであるぞ」
「彫り出したんですかね······? 人でしょうか?」

 それらの石像は、仮面を被った民族を模した姿をしていた。そしてその右手には必ず槍を持っている。
 ジャック達は階段を上りながら、それを見上げる。

「ザバの方の先祖かしら?」

 そう口にするミーナに、スライが答える。

「そうらしいけどな」
「全然似てないな」
「あぁ。槍以外はな」

 そうして祈祷場へと足をつけた四人。
 辺りを見渡してゴーレム存在を確認する。
 だが祈祷場には所々、像の欠片が散らばっているだけで、それらしい姿は目視できなかった。

「ダメかしら······?」
「うーん、どうだろうな。奥に小さな祭壇があるから、一応そこまで行こう」

 彼らは、継ぎ目のない地面を歩き続ける。

「あなたの先祖は、信じられないほど巨大な岩の中に、これを作ったようね」
「こんなの掘れるのか?」
「岩の中で暮らすあなた達でしょ? ありえないことじゃないわ」

 それとなく納得するスライ。

 それからも彼らは警戒をしつつ、歩みを続ける。
 奥に行くほど、像の損傷が激しく、その破片は床に散らばったり、左右へと退けられたりしていた。

「前回のゴーレムによって破壊されたものらしい」

 それらを眺める三人に、スライが説明する。

 いよいよ祭壇が見えてくる。
 壁の中に掘られたそこには、何かを捧げるための台座。その周り——壁には、台座から広がるように幾何学的な模様が書かれていた。

「おかしいな······。普段ここらは片付いてるはずなんだが······」

 台座の前、六芒星の大きな魔法陣が描かれた床は、瓦礫が散らばっていた。
 辺りを見ながら歩く四人。
 そんな瓦礫の中、不自然な形をした石の山を、ミーナが見つける。

「待って」

 魔法陣の真ん中に佇む石片。
 それは様々な石像の、欠けたパーツを不自然に集約していた。

「あれか?」
「かもしれないわ······」

 そうしてミーナが呟いた次の瞬間、
 
 ——コトコトコト······

 と、周りに散らばる欠片が一斉に音を立て始めた。

 四人は同時に身を構える。
 不気味に鳴り出した瓦礫。
 それらはあの、不自然な山を中心に集まっていく。
 そして、四人の周りの欠片が一掃されると同時に、それは、むくりと立ち上がった。

「おい······これホントにいけるのか······?」
「厳しいかもしれないわね······」

 彼らの目の前に現れたのは、手足を瓦礫で作り、頭のない人のような、巨大な石の塊だった。
 三メートルは優に超える大きさに、四人は圧倒される。

「フィリカ、魔法を······!」

 ミーナがそう口にした瞬間、ゴーレムは既に右腕を振りかぶっていた。そしてそれを四人に向け、叩きつけようとしている。

「逃げて!!」

 彼女の声にハッとなった彼らは、一斉に離散する。

 ——ドオオオオオン!

 叩きつけられた腕から小石が飛び散る。
 怪我をするほどではないにしろ、それらが、近くに避けた彼らへと襲いかかる。
 腕でそれをガードしながらミーナが指示を出す。

「一旦距離を取るわよ!」

 予定とは違い、ジャックとミーナは左に、フィリカとスライは右へと避けていた。
 避ける直前、ギリギリ指先の触れていたミーナとフィリカは、なんとか魔法を発動出来ていた。

 『コンタクト』を使って一時撤退の行動を共有した彼らは、それぞれ近くにあった、民族の石像の陰へと隠れる。

 (怪我はない?)
 (私もスライさんも大丈夫です。そちらは?)
 (こっちも大丈夫よ)

 ジャックとミーナは、敵のほうを見て様子を窺う。
 ゴーレムは動くことなく、片足を曲げ、自分の攻撃によって壊れた右手を修復していた。

「すぐ元通りか······」


 そうして修復を終えたゴーレムは、ゆっくりと歩き始めていた。

 ミーナは赤い丸薬を飲む。
 そして、炎の壁を作り、相手の視界を塞ぐことを試みるのだが、

「ミーナ! 離れるぞ!」

 右腕を振りかぶったゴーレムは、今度は腕を切り離し、その塊を彼らに向け飛ばしていた。
 石像の右脚へと隠れる二人。

 ——ドゴオオオオン!

 民族の石像の脚に当たったそれは、像の左足を奪うと共に、見事に砕け散った。
 再び飛び散る小岩。

「そういうのもありなのね······」

 あのままそこに隠れていたら、彼らは今頃石の下敷きになっていた。
 炎の中で動く影を見て、危険を察知したジャックのその判断は功を奏していた。

 彼らは、一つ後ろの石像へと移動する。

 (フィリカ、聞こえるかしら)
 (はい)

 ミーナは、あまりにフィリカとの距離が離れていたため、繋がらないかと思ったが、ギリギリ届く距離のようで、一安心をする。

 (奴は腕を切り離せるみたいだわ。あなた達もせめて、敵から遠いほうの脚に隠れて、二段構えにしたほうがいいわ)
 (わかりました)

 二人の位置から、像の左足へと移動するフィリカ達が見える。

「さて、どうしたものかね。見えてるってよりは、俺らの位置が分かってるって感じだぞ」
「そうね。それにしてもよく、攻撃してくるって分かったわね」
「あぁ、普通あんな巨体が、離れて腕を振ろうとするなんておかしいだろ? だから、もしかしてと思っただけだ」
「そう。おかげで助かったわ」

 ミーナは、移動を終えた二人にもその情報を送ると、像の影から顔を出し、様子を見る。

「一定の大きさにしかならないのかしら?」
「最初と同じように戻ってるな」
「あと、組み込める石の大きさも限られてるようね」

 事実、ゴーレムはなくした右腕を、壊した石像の脚を巻き込まずに修復していた。

「じゃあ細かく壊したのを持ち去るってのはどうだ?」
「バカね。出来るわけないでしょ、あんな重たそうなもの」

 ミーナはジャックを叱責する。

「それは置いといて······修復については何か見てたかしら?」
「いや、逃げるので精一杯だった」
「そう······」

 彼女は、向こうにいるフィリカ達に尋ねる。
 ミーナはひとり頷く。

「······修復範囲は像と像の間ほどらしいわ。半径二メートルってとこかしら。時間はバラバラみたいよ。近くにあるパーツによって、引き寄せる速度も変わるみたい」
「なるほどな······」

 ミーナは相手のほうを見て、しばらく作戦を考えた。だが、それらしい策はこれといって浮かばない。

「全員で、吸収できる欠片を遠ざけるっていう、あなたの人海戦術も悪くないかもしれないわね」
「なに言ってんだ」

 ジャックは、ふっ、と笑う。
 作戦がまだ見つからない二人は、その後も攻撃に警戒しつつ、陰から敵を注視した。
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