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第7話 重なる影
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右から佑哉を拐(さら)っていったそれは、口の中からそれを宙へ放り投げては二、三度ついばんで呑み込んだ。血や残骸などは出なかったが、あいつは今喰われて死んだのだと、確かに刺さるように感じた。
「佑哉······」
手を伸ばしたまま呆然と、佑哉を呑み込んだその白いカモメを見上げた。空を流麗に舞うその姿は、頬の痛みを残した世界の出来事とは思えなかった。
全身の力が抜けるように右手が崩れ落ちた。
カモメは再度、降下していた。
それからその鳥は、俺から離れている人を一人、また一人と連れ去っては呑み込む。その中に、こちらに向かってくる一人の高校生ぐらいの少年が。
「はぁ、はぁ······」
その後ろには、あの巨大な鳥が迫っていた。なんとか逃げているが、足がもつれ、捕まるのも時間の問題だった。
「はぁ、はぁ······。た、助け――」
直後、魚のヒレを捕まれ彼は空へ連れ去られた。
泣き叫ぶ声が聞こえた。耳だけでそれを聞いていた。
その悲鳴もすぐに聞こえなくなった。
周りはもう誰も居らず、次は自分に間違いなかった。
だが、佑哉が喰われてから心の止まっていた――呆然とその惨状を傍観していた俺は、まだその場で固まっていた。しかしその中で風の音も聞こえず、自問自答し始めていた。
“何を考えてる······? もう、二人は喰われたんだぞ······? 俺もこのまま喰われりゃ楽だったろうに。喰われればやり直せるかもしれないのに。なのに······なのに、どうして··················俺は今、手を伸ばしてんだ?“
自我を感じ、右手の指先に震えを感じた。
その理由はすぐに分かった。
『助けて』
直前まであったはずの高校生の影が、不意に佑哉と重なったから。佑哉は決してそんなこと言わなかったが、また最期の意志に違いもあるが、それでも今『同じ場所』で、そこにあった影に――あいつと同じものを見た。もう一度、自分の目の前で命が奪われるような衝撃と錯覚を覚えた。
だから記憶が蘇り、己を感じ、その影がもう一度重なった。
だからそれを見た時、それをもう一度思い出した時、俺は――、
『じゃあ、後は頼んだ。お前は走り続ければいいから』
何も考えず、踵を返し走り出していた。
「佑哉······」
手を伸ばしたまま呆然と、佑哉を呑み込んだその白いカモメを見上げた。空を流麗に舞うその姿は、頬の痛みを残した世界の出来事とは思えなかった。
全身の力が抜けるように右手が崩れ落ちた。
カモメは再度、降下していた。
それからその鳥は、俺から離れている人を一人、また一人と連れ去っては呑み込む。その中に、こちらに向かってくる一人の高校生ぐらいの少年が。
「はぁ、はぁ······」
その後ろには、あの巨大な鳥が迫っていた。なんとか逃げているが、足がもつれ、捕まるのも時間の問題だった。
「はぁ、はぁ······。た、助け――」
直後、魚のヒレを捕まれ彼は空へ連れ去られた。
泣き叫ぶ声が聞こえた。耳だけでそれを聞いていた。
その悲鳴もすぐに聞こえなくなった。
周りはもう誰も居らず、次は自分に間違いなかった。
だが、佑哉が喰われてから心の止まっていた――呆然とその惨状を傍観していた俺は、まだその場で固まっていた。しかしその中で風の音も聞こえず、自問自答し始めていた。
“何を考えてる······? もう、二人は喰われたんだぞ······? 俺もこのまま喰われりゃ楽だったろうに。喰われればやり直せるかもしれないのに。なのに······なのに、どうして··················俺は今、手を伸ばしてんだ?“
自我を感じ、右手の指先に震えを感じた。
その理由はすぐに分かった。
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直前まであったはずの高校生の影が、不意に佑哉と重なったから。佑哉は決してそんなこと言わなかったが、また最期の意志に違いもあるが、それでも今『同じ場所』で、そこにあった影に――あいつと同じものを見た。もう一度、自分の目の前で命が奪われるような衝撃と錯覚を覚えた。
だから記憶が蘇り、己を感じ、その影がもう一度重なった。
だからそれを見た時、それをもう一度思い出した時、俺は――、
『じゃあ、後は頼んだ。お前は走り続ければいいから』
何も考えず、踵を返し走り出していた。
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