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第6話 さよならは笑顔で
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言われて初めて気付いた。周囲の皆は、自分の置かれた不可思議な状況に動揺して辺りを見回すだけで、確かに誰も、不調な様子はなかった。
「ってことは、何か理由があるってのか?」
「そう考えるのが妥当かもしれない」
「なるほど。けど、それって?」
「いや······それは、俺もまだ······」
走りながら、今は別の魚にターゲットを変えたカモメにやや警戒しつつ思慮を巡らせる。しかし、俺が見たそれらしい記憶場面と言えば、佑哉が彼女に近寄って背負っただけでそれ以外にはない。また、その瞬間を見てないが、倒れた時の証言を振り返っても“握手をした“ということぐらい。
「まさか、お前の手で毒された訳じゃあるまいしな······」
鼻で笑って、ぼそりと冗談をひとりごつ。仮にもし、そんなもので死ぬんなら俺だってとっくに死んでいる。なんせ俺等は転移した後『これは夢なんじゃないか』と、互いの頬を一度、割りと強めに叩きあっているのだから。痛かったのは記憶に新しい。
そんな忘れたはずの左頬のヒリヒリを思い出しながら、走りながらも鼻で溜め息をついて、なんだろうなぁ、と思慮を巡らす。だが、頭は冴えているのに答えが見つからない。
すると、
「手······いや、まさかな······」
と、言ってこちらを見る佑哉。そして、こちらの顔を見るなりしばらくしてから口元の引きつった顔。それは徐々に濃くなっていった。
「んだよ、その顔」
「い、いや、慶介······。俺はもしかしたら――彼女は、俺が殺したかもしれない」
「は? 今更、何言ってんだ。お前が投げたのは俺も見てたっての――」
「いや違う、そうじゃなくてな······」
「――? 何が言いたい?」
そして、同じペースで隣を走る――息が上がりつつある佑哉は言いづらそうに、目を左右へ泳がせてからこう尋ねた。
「お前さ······さっきまで苦しそうじゃなかったっけ?」
寝耳に水だった。
言われるまで気付かなかったが、佑哉の言う通り、いま俺の呼吸は恐ろしいほどに落ち着いていたのだ。
「そういえば、確かに······。ってか、今はお前のほうが苦しそうだよな」
佑哉は答えなかった。だが代わりに、この状況ながらも小馬鹿に笑う俺のことなど相手にする余地もないほど、深く――深く頭を落としてガクリと落胆を見せた。
「あああぁ······うそだろおぉ······」
「なんだ? 俺に走りで負けたのがショックか?」
「そのほうがよっぽどマシだっての······」
「――?」
チラと横目で睥睨してみせた佑哉は、それから両手で髪を掻き乱しては嘆息。会社で一度だけ見たことがある――佑哉がメールを見て、浮気が女の子にバレたのが発覚した時みたいな反応だった。いや、それ以上に見える。
すると、
「慶介······俺、死ぬわ」
「は? いやいや、意味わかんないんだけど」
「責任を取って、自決しようと思う」
「役員みたいに言うなよ。ってか、全然意味わかんないから」
「いや、だからな、あの子を殺したのは間違いなく俺なんだよ。苦しめたのも俺なんだって」
突如、足を止める佑哉。
少し遅れて俺も止まった。振り返ると――、
「じゃ、後は頼んだ。お前は走り続ければいいから」
佑哉は清々しいほどの笑顔で、右手を掲げていた。
それに流石に“駄目だ““嘘ではない“とようやく直感的に思った俺は、
「待てっ、佑哉――」
反射的に右手を伸ばした。――が、直後、強烈な風圧が押し寄せると共に、佑哉は巨大な黄色いくちばしに拐(さら)われていった。
「ってことは、何か理由があるってのか?」
「そう考えるのが妥当かもしれない」
「なるほど。けど、それって?」
「いや······それは、俺もまだ······」
走りながら、今は別の魚にターゲットを変えたカモメにやや警戒しつつ思慮を巡らせる。しかし、俺が見たそれらしい記憶場面と言えば、佑哉が彼女に近寄って背負っただけでそれ以外にはない。また、その瞬間を見てないが、倒れた時の証言を振り返っても“握手をした“ということぐらい。
「まさか、お前の手で毒された訳じゃあるまいしな······」
鼻で笑って、ぼそりと冗談をひとりごつ。仮にもし、そんなもので死ぬんなら俺だってとっくに死んでいる。なんせ俺等は転移した後『これは夢なんじゃないか』と、互いの頬を一度、割りと強めに叩きあっているのだから。痛かったのは記憶に新しい。
そんな忘れたはずの左頬のヒリヒリを思い出しながら、走りながらも鼻で溜め息をついて、なんだろうなぁ、と思慮を巡らす。だが、頭は冴えているのに答えが見つからない。
すると、
「手······いや、まさかな······」
と、言ってこちらを見る佑哉。そして、こちらの顔を見るなりしばらくしてから口元の引きつった顔。それは徐々に濃くなっていった。
「んだよ、その顔」
「い、いや、慶介······。俺はもしかしたら――彼女は、俺が殺したかもしれない」
「は? 今更、何言ってんだ。お前が投げたのは俺も見てたっての――」
「いや違う、そうじゃなくてな······」
「――? 何が言いたい?」
そして、同じペースで隣を走る――息が上がりつつある佑哉は言いづらそうに、目を左右へ泳がせてからこう尋ねた。
「お前さ······さっきまで苦しそうじゃなかったっけ?」
寝耳に水だった。
言われるまで気付かなかったが、佑哉の言う通り、いま俺の呼吸は恐ろしいほどに落ち着いていたのだ。
「そういえば、確かに······。ってか、今はお前のほうが苦しそうだよな」
佑哉は答えなかった。だが代わりに、この状況ながらも小馬鹿に笑う俺のことなど相手にする余地もないほど、深く――深く頭を落としてガクリと落胆を見せた。
「あああぁ······うそだろおぉ······」
「なんだ? 俺に走りで負けたのがショックか?」
「そのほうがよっぽどマシだっての······」
「――?」
チラと横目で睥睨してみせた佑哉は、それから両手で髪を掻き乱しては嘆息。会社で一度だけ見たことがある――佑哉がメールを見て、浮気が女の子にバレたのが発覚した時みたいな反応だった。いや、それ以上に見える。
すると、
「慶介······俺、死ぬわ」
「は? いやいや、意味わかんないんだけど」
「責任を取って、自決しようと思う」
「役員みたいに言うなよ。ってか、全然意味わかんないから」
「いや、だからな、あの子を殺したのは間違いなく俺なんだよ。苦しめたのも俺なんだって」
突如、足を止める佑哉。
少し遅れて俺も止まった。振り返ると――、
「じゃ、後は頼んだ。お前は走り続ければいいから」
佑哉は清々しいほどの笑顔で、右手を掲げていた。
それに流石に“駄目だ““嘘ではない“とようやく直感的に思った俺は、
「待てっ、佑哉――」
反射的に右手を伸ばした。――が、直後、強烈な風圧が押し寄せると共に、佑哉は巨大な黄色いくちばしに拐(さら)われていった。
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