隣のやくざをストーカーしてます

りんくる

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夏祭りからしばらくたったある昼下がり私はいつもの通り、リモートで授業を聞き流しながら双眼鏡で彼を見つめる。
「うわぁ、今日も怒鳴ってる怒鳴ってる。部下?のひと半泣きだよ。」
なんて言って怒ってるのかな。
知りたいけどやくざの事務所に盗聴器を仕掛けるわけにもいかない。仕掛けることに万が一成功しても逸人さんが許してはくれないだろう。
双眼鏡は高性能なもので指の爪一つ一つまでしっかり見える。
その時、やくざの事務所に不似合いな黒髪がきれいな女が入ってくるのが見えた。
(あれ、だれ。)
逸人さんと親しげに話す様子に少しだけイラっとした。ちょっと距離近すぎないか。そんなに片寄せあっちゃって。
(逸人さんは私だけのモノなのに、許せない。)
その光景に釘付けになる。
逸人さんは女の頭を撫でたり、肩に手を置いたりしてスキンシップが多い。
それに、あの表情はなんですか。まるで恋人に向けるような優しい顔してませんか。
そして、二人は一緒にどこかに行ってしまった。
私は慌てて後をつける。
(私だってまだあんなことしたことないのに。)
逸人さんはなぜか女の部屋に消えていった。
私はそのあと、部屋の外で張り込むことにした。
「ああ、もう、突撃しちゃおうかな、これって浮気だよね!!私というものがありながら逸人さんひどい」
私はあらぶってきた感情を落ち着けるように持ってきた逸人さんが使っているのと同じ銘柄の香水だ。
スプレー式のそれをプシュッと自分の手のひらに出して心を落ち着ける。
(私、落ち着いてきたかも。冷静になれてる。)
私はそわそわしだしている自分に喝を入れるように頬を叩いた。
(よし、ここは尾行を続けよう。)

マンションタイプで入口はオートロック式でマンションの住人じゃないので入ることはできない。
(いつ出てくるかな、やっぱり夜なのかな。そんなの許せない。)
私は待ち続ける。
一時間くらい待っただろうか。やっと逸人さんが出てきた。あの女はいない。
私は急いで後を追う。
(おかしいなどんどん狭い路地に入っていく。)
それなのに早まっていく逸人さんの足。少しは知っているような状態で追いかける。
するといきなり逸人さんが立ち止まった。
急なことに前かがみになる。
「おい、何でおれのことつけてきてんだ、は?何してんだお前」
逸人さんはさっと振り返ってどすの利いた声で振り向いたと同時に間抜けた声を上げる。
「あっ・・・」
お互いの視線が交差する。
「お前、何でここにいるんだよ。」
「えーと、散歩です。散歩」
「んなわけねえだろ!!なんでつけてきてんだよ。」
「だってきれいな女の人と歩いているのを見て、つい」
「つい、じゃねえよ、ったく」
逸人さんは乱暴に頭を掻く。
「送っていくから家に帰るぞ」
「嫌です。家に帰りたくありません。」
わたしはいやいやと駄々をこねる子供の用に地べたに座る。ここから動かないぞという意思表示をする。
「おい、駄々こねんな。俺はまだ仕事中なんだぞ。」
「女の人と昼間からいちゃついてたくせに。」
「はあ、なにいってんだよ、おくってっただけだ。」
「うそ、部屋に入って一時間くらい出てこなかった。」
「それは・・・」
逸人さんは口ごもる。
「・・・・・今日、うちに来てくれたらおとなしく家に帰ります。」
「・・・・・・・・はあ、わかったよ。お前んちに言ってやるから」
やった。
 これで今日のお泊まりは決定だね。決定というか私がそうゆうふうに仕向けるんだけど。
私は嬉しさでいっぱいになって立ち上がる。
「逸人さん大好きです!!」
「うるさい、行くぞ。」
私は逸人さんの背中に飛びつく。
逸人さんのこうゆうとこ大好きだ。
**********************

「ねえ、それで女の人は誰なんですか?」

仕事帰の帰りに約束通り逸人さんは来てくれた。もう来たんだからいいだろという逸人さんの腕をつかんで無理やり家にあげた。今日のメニューも和食だ。アジの開きをメインにしたあっさり系。逸人さんがジャンクフードが好きなのはわかっているけれど昼間の食生活を見ていると夜もジャンクにするわけにはいかなかった。一応、逸人さんがとまっていってくれた日の朝ごはんとお弁当は持たせているけれど食生活が心配なことに変わりはない。

食卓について開口一番ド直球な言葉を投げかける。
「ああ、あいつはな、前にうちの組の金をちょろまかして逃げた奴の彼女だ。仕事関係だからこれ以上きくな。」
「あの女の人と何してたの!!」
逸人さんの言葉と被り気味に問いただす。逸人さんの額に青筋が浮かび上がる。
(怒ってる、でも聞かないと安心できないよ)
「・・・・それはお前には関係がない。」
ちょっと目を皿しげに言った逸人さんが怪しすぎてギャン泣きする。
「嘘つき!!私と言うものがありながら、他の女に手を出したんですね!!!!」
私は涙腺崩壊させながら喚き散らす。
「お前なぁ・・・」
逸人さんはため息をつく。そして私の目線に合わせるようにしゃがみこむ。
「うわーん、きっとわだしにもいえないようなぁいやらしいことしてたんだぁあああああーー」
「おま、でケエ声でなんてこと言ってやがる。」
逸人さんの顔が真っ赤になる。
「だって、だってぇえ、いぢわるじまずぅうう」
私は子供のように泣く。
「わかったよ、話してやるから。だからそんな顔するな。」
(やった!!)
逸人さんは優しい声で諭してくれる。
「お前、その泣いてる顔を何とかしろ。化粧が崩れて大変なことになってるぞ。」
逸人さんはポケットからハンカチを出して私に差し出す。
私はそれを受け取って涙を拭く。
(逸人さんのハンカチだぁ!!でも涙服のもったいない。できれば完璧な状態で持ち帰りたいな。)
私はそんなことを思いつつもブランドの入ったタグとハンカチの色をしっかり目に焼き付ける。
「・・・ありがとうございます。」
「落ち着いたみたいだな」
「さあ、早く話してください。」
「単なる体調不良の介抱だ。」
「えっ?それだけですか?」
「そうだ、それ以上のことはしていない。」
「本当に本当ですか?」
「しつこいぞ。」
「わかりました。信じます。疑ってすいません。」
確かにシャワーのにおいもしなかったし服も乱れてる様子はない。
「よかった。逸人さんがあの女とセックスしていなくて
。」
ぶふっ、みそ汁を勢いよく吐き出す。
「あーもう、何やってるんですか、汚いですよ」
「お前が、へんなこと、言うからだろ。」
ゴホゴホと期間に入ってしまったのか苦しそうに咳をする逸人さんの背中をさする。
(ボディタッチ、不自然じゃないよね。ん、やっぱりいい筋肉ついてるよな)
私はそんなことを考えながらも逸人さんが落ち着くまで背をさすり続ける。

「・・・・・・もういい」
逸人さんは落ち着いたようで大きく息をしている。
もっとさすっていたかったが名残惜し気にて手を放す。
「・・・・・ねえ逸人さん。」
「なんだよ、改まって。」
「私となら、セックスしてくれるんですか?」
逸人さんはさらに口に含んでいたお茶を吹き出した。
いつも口に何かが入っているときに爆弾発言かましやがってと台布巾でお茶をふき取りながら静かに怒る。
「お前なぁ、ふざけたこと言ってんじゃねえぞ。」
「私はいたって真面目です。」
私は逸人さんの目をまっすぐ見つめる。逸人さんも真剣に向き合ってくれる。
「はあ、そうだな、お前の嫁の貰い手に困ったときに考えてやるよ。」
逸人さんが少しだけ笑っている。
(えへへ、今はまだお預けだけどいつか必ず・・・)
「じゃあ、約束のチューして下さい!!」
「調子に乗るな!!」

調子に乗った私と手加減しつつも本気で嫌がっていない逸人さんのいつもの攻防が始まった。
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