呪いの小包

りんくる

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1カバンを蹴飛ばす無視男の末路

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「疲れた」
やっと仕事が終わったとホッとして乗る満員電車。一駅また一駅と停まるたびに人が多くなっていく。
私はあえなく荷物を足元に置いた。私の前にはイヤホンを付けたデブハゲの中年男性。仕事帰りなのかスーツを着ている。周りのことなんて気にしないのかイヤホンの音漏れがしている。ロック系らしく電子ギターの音がガンガンなっている。となりのOL風の女性が迷惑そうに身じろぎするのにも無視を貫く。
私も音楽を聴きたいけど、音漏れして周りから白い目で見られたくないしなぁ……
そもそも電車で椅子に座っている人物とは違い、たっている人間は身じろぎをするのも難しい。
あきらめて待つと、また次の駅名がアナウンスされる。目の前の男はドアが開く前に目の前の私に勢いよくぶつかってきた。
「いた」
思わず声が出るが、イヤホンをしているせいか全く聞こえていないみたいだ。よけられれば良かったのだが、満員電車で動けるわけもない。男はそのまま進んでいこうとする。
「あっ」
足元に置いていた荷物を取ろうとしたが持ち手に男の足が引っ掛かった。そのまま男は私のバックを蹴っ飛ばしながら降りて行った。
一度ならまだわかる。あの男は二度も私のバックを蹴っ飛ばしたのだ。周りを顧みない行動に怒りをにじませ男の背をにらんだ。周りは見て見ぬふり。そんな態度にも腹が立ったがまだいい。でもあの男は許さない。私が立つ前に座っていたため顔は覚えた。私は平和主義の上コミュ障だ。だから男を追いかけて文句を言うなんてことはできない。悔しくて心の中で地団駄を踏んだ。

家に帰っても怒りは収まらない。家族とご飯を食べて、家事をして自分の部屋に入った。私は鍵付きの机の引き出しを開き、にやりと笑った。




おとこは駅を出て歩道を歩く。今日は課長に怒鳴られて無茶苦茶していた。ストレス解消のために周りの声も雑音も聞こえないように大音量で好きなロック音楽聞いてやったし、さんざん客相手に気を使ったんだ、帰りはもう気を遣おうなんて考えたくない。俺が歩く経路上に障害物があるのが悪い。出るときに何か蹴飛ばした気がするけどいろいろ言われたりとかしてめんどくさいからそのままでいいか。もう会うこともないし。相手年下だし。何も言えないだろ。そんなことを思って仕事カバンの中に入ってるタバコを取り出そうとしたら、その手には先ほど蹴飛ばされたカバンがあった。中身を確認しようと開けると中には教科書やノートが入っていた。
「ん?なんだこれ?」
こんなものを持ってきた記憶がない。一番上に乗っていたノートを手に取る。そこには女の子らしい丸っこい字でこう書かれていた。
『お前みたいなクズのせいで人生台無しになった!死ね!』
おとこはその文を見て青ざめた。急いで他の物を確認すると中に入っていたものはどれもひどい言葉が書かれているものばかりだった。
「なんなんだよ!」
悪態をつくが当然、返事はない。代わりに背後から声をかけられた。
「あれぇ?どうしたんですかぁ?」
振り返るとそこには派手な格好をした女がいた。その隣には同じく派手で胸を強調した服を着た男が立っている。二人ともニヤニヤしながらこちらを見つめていた。男をそそる格好なのになぜだか冷や汗をかき始めた。
「えっと……」
突然現れた知らない人に戸惑いを見せると二人はますます楽しそうに笑う。
「あーもしかしてぇ?なんかありましたぁ?もしかしてそれってあなたのぉ?」
「ち、違う!これは俺のものじゃない」
「あらそうなんですねぇ。でもあなたが落としたんじゃないですかぁ?」
「そ、それは……」
言い淀んでいると女は男に向かって言った。
「本当の持ち主の人困ってるんじゃない。」
「なっ、こ、これは俺のカバンだ。」
泥棒と間違えられては困る。とっさにそう言いつくろった。すると女は
さらに口角を上げる。
「へぇ、どう見たって女もののカバンだけど。」
「なっ」
そこまで言われても反論できない。確かに自分が蹴っ飛ばしてしまったものだ。だけど、どうしてそれがここにあるのかわからない。
「まっ、泥棒はうそつきだからね。警察に通報しよっかな」
「なっ、ふざけんな。これは、俺がとったんじゃない!!本当だ!!」
本当に100番通報をし始める女にとっさに止めようとして腕をつかもうとした。が、なぜか手がすり抜け、車道へと大きく出てしまう。
「なっ」
驚きに声を上げた時には遅かった。ちょうど信号が青に変わり、車が通り過ぎていく。
「うわっ、」
叫ぶが車は止まらない。
クラクションの音、ヘッドライトの光で目がくらむ。
ドンッという音と共に腰のあたりを激痛が襲った。
「うげっ」
車はそのまま速度を落とさず走り去っていった。コンクリートにたたきつけられた俺は

痛みで動けなかった。
当て逃げされたのだと分かった。
クスクスと女の声がする。
俺は怒りに任せて怒鳴ろうとしたが、イヤホンのロック音楽の音で我に返る。
何で、周りの音が聞こえないように大音量で流しているのに女の声が聞こえたんだ?
「ああ、気づいちゃった?」
そういえば腕をつかもうとしてその腕をすり抜けたような。
考えれば考えるほどヤバい・・・・・
女の顔は目の前に迫っていたので思わず目を背ける。
しかしそむけた先にもっと恐ろしいものが目に映った。
「うぎゃあああ、あ、足が」
腰から下がまるでせんべいのようにぺしゃんこになっていた。
状況を理解したとたん先ほどよりも激しい痛みに襲われて気を失った。





『次のニュースです。昨日の夜11時ごろ当て逃げが発生しました。被害者の男性は心肺停止の重傷。犯人はまだ見つかっていません。周囲の防犯カメラの映像には・・・・』
「何ぼーっとしてるの。今日もお仕事でしょ。早く朝ごはん食べちゃいなさいよ。」
「はーい」

朝のニュース番組を流し見しているとお母さんが小言を言ってきた。私は食パンに目玉焼きをのっけてもそもそ食べる。
ニュースの映像が切り替わり、男性が布をかぶせられ担架で運ばれるところが遠めから映し出される。そんな様子ににんまり笑う。





(私のカバンを蹴っ飛ばすから同じ目に合うんだよ。)



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