20 / 55
アンナside
しおりを挟む
私、アンナ・リズリーはリズリー家の一人娘として生まれた。
リズリー家は国の闇を背負う一家である。
王家が光だとすれば、リズリー家は影。
そうして国は成り立って来たらしい。
でも、私にはそんな重い責務を背負う覚悟などなかった。
自信なさげに赤い髪で顔を隠して、ひたすらにうつむいていた。
両親から叱責されようが、お構い無し。
他人に縛られる人生なんてまっぴらだ。
だから私は、見た目に反してわがままな子だと言われて育った。
でも、私の人生を劇的に変えることが五歳の頃にあった。
その日は他の貴族の子達と集まって、お勉強会をする日だった。
でも面倒で、やりたくなくて、脱走した。
それで庭園に隠れたのだが。
「あっ、あなた、誰?」
庭園には天使がいた。
柔らかそうな淡い金色の髪に、澄んだ空のような碧眼。
すっごく可愛い子だった。
私はその可愛さに思わず緊張した。
「わっ、私、アンナ!」
「アンナ……アンちゃんね! 私はイリーシャ!」
「イリーシャちゃん……」
「でも長くて言いずらそう。じゃあ、リアって呼んでよ!」
リアはお嬢様のような見た目に反して、活発な子だった。
それが凄く私には眩しく見えて。
「リアは、何でここに?」
「ん~、お父様がきぞく? の子達とお勉強しろって言うんだけど、何か嫌で。だってドレス着せられるんだよ? 窮屈じゃない!」
そう言うリアの服装は、薄い青のワンピースだった。
確かに楽そうだ。
リアは私と同じ集まりに呼ばれたなら、他の貴族の子なのかもしれない。
そう思って、私はリアに尋ねた。
「リアはさ、どこのきぞくの子?」
「きぞく? う~ん……私のお父様は、王様だよ」
「ええ!? じゃあ、王女様!?」
「うん。イリーシャ・ルンナ・イクストーム。それが私の名前」
「わわっ、私はっ、アンナ・リズリーです」
慌てて敬語に切り替えると、リアはむっとした表情で大声を出す。
「何で丁寧になるの? アンちゃんは、私のお友達でしょ?」
「……えっ?」
「えっ?」
互いにポカンと顔を見合わせる。
リアは恥ずかしそうにうつむいた。
「ご、ごめん。お友達って思ってたの、私だけだった?」
「そんなこと! でも、王女様とお友達なんて」
「ならいいね! よろしく、アンちゃん!」
それから私達は、庭園で遊んだ。
すぐに従者に捕まえられて、貴族達の集まりに連れ戻されたけれどね。
そこで私は思ったんだ。
リアになら、仕えても構わない。
この子になら私の人生を預けられるって。
それから積極的に行動した。
見た目も明るくしたし、勉強も活発にした。
でも……リアとはそれっきりだった。
◆ ◆ ◆
物事がわかるようになってきた十五歳。
私はわからないほうが幸せであったであろうことも知ってしまった。
1つ。国王様が病気で伏せっていて、跡継ぎを代わりに指名するはずの大臣が投獄されたのは、濡れ衣であったこと。
2つ。それを仕組んだのは、王妃であること。
3つ。このままだったら、玉座を巡っての血みどろの争いが勃発すること。
ふざけるなと思った。
王女として末席に名を束ねるリアがいるというのに。
リアは兄姉と争うことを望んでいるのだろうか。
リアに会おうと思ったが、私達リズリー家が王宮を訪れる機会は少ない。
それができないまま、父は私に願った。
「頼むアンナ……このままでは、お前も殺されてしまう。我ら一族は、深すぎる闇を知ってしまった。理解しすぎた。だから……逃げてくれ。学院で平和に暮らしてくれ」
そう言って、私の了承もないまま、無理やり学院に押し込んだ。
今では誇りに思っていたリズリーを、フォレットに変えて。
その先に、仕えようと思っていた彼女がいるとは予想外だった。
でも。
リアは、私のことを覚えていなかった。
私は一目でリアだってわかったのに。
悲しくて悲しくて、つい、いじわるをしてしまった。
顔を見れば、ごめんなさい、よりも、簡単に悪口が溢れていく。
お父様が寄越した従者の子は、私のことを何よりも考えてくれたけど、私に逆らったりはしなかった。
私を止めるのは、誰一人としていなかった。
私はお父様と連絡を取りつつ、王宮の状態を把握していった。
そんなある日、悪夢のような手紙が来た。
「国王様はあと1年も持たないだろう。1年経てば、我ら一族は残された正妃に処分されてしまう。その前に、正式にお前はアンナ・フォレットとして生きなさい。私達のことはもう忘れろ」
あまりに酷い内容だった。
私に誇りを捨てて生きろというのか。
私に力があれば良かったのに。
生き抜くための頭だけでは足りない。
魔法がもっと使えれば、何かできたかもしれないのに。
例えば、王子様の従者になって、協力するから一族を見逃してくれ、と頼むとか。
方法はいくらでもあった。
でもその可能性は潰されていく。
なぜか?
私が未熟だからだ。
ここからは情けない話で、私はずっといじめてきたリアに頼った。
リアは快く了承してくれたけれど、何て私は図々しい女なのだろう、と思った。
リアは今、国王様を治す唯一の手段として、『治癒魔法』を会得しようと必死になった頑張っているのは知っていた。
それに私はすがろうと、今までしてきたことを棚に上げてリアに頼み込んだのだ。
その優しさに甘えることしかできない私を、どうか許して欲しい。
私がリアを守るから。
リズリー家は国の闇を背負う一家である。
王家が光だとすれば、リズリー家は影。
そうして国は成り立って来たらしい。
でも、私にはそんな重い責務を背負う覚悟などなかった。
自信なさげに赤い髪で顔を隠して、ひたすらにうつむいていた。
両親から叱責されようが、お構い無し。
他人に縛られる人生なんてまっぴらだ。
だから私は、見た目に反してわがままな子だと言われて育った。
でも、私の人生を劇的に変えることが五歳の頃にあった。
その日は他の貴族の子達と集まって、お勉強会をする日だった。
でも面倒で、やりたくなくて、脱走した。
それで庭園に隠れたのだが。
「あっ、あなた、誰?」
庭園には天使がいた。
柔らかそうな淡い金色の髪に、澄んだ空のような碧眼。
すっごく可愛い子だった。
私はその可愛さに思わず緊張した。
「わっ、私、アンナ!」
「アンナ……アンちゃんね! 私はイリーシャ!」
「イリーシャちゃん……」
「でも長くて言いずらそう。じゃあ、リアって呼んでよ!」
リアはお嬢様のような見た目に反して、活発な子だった。
それが凄く私には眩しく見えて。
「リアは、何でここに?」
「ん~、お父様がきぞく? の子達とお勉強しろって言うんだけど、何か嫌で。だってドレス着せられるんだよ? 窮屈じゃない!」
そう言うリアの服装は、薄い青のワンピースだった。
確かに楽そうだ。
リアは私と同じ集まりに呼ばれたなら、他の貴族の子なのかもしれない。
そう思って、私はリアに尋ねた。
「リアはさ、どこのきぞくの子?」
「きぞく? う~ん……私のお父様は、王様だよ」
「ええ!? じゃあ、王女様!?」
「うん。イリーシャ・ルンナ・イクストーム。それが私の名前」
「わわっ、私はっ、アンナ・リズリーです」
慌てて敬語に切り替えると、リアはむっとした表情で大声を出す。
「何で丁寧になるの? アンちゃんは、私のお友達でしょ?」
「……えっ?」
「えっ?」
互いにポカンと顔を見合わせる。
リアは恥ずかしそうにうつむいた。
「ご、ごめん。お友達って思ってたの、私だけだった?」
「そんなこと! でも、王女様とお友達なんて」
「ならいいね! よろしく、アンちゃん!」
それから私達は、庭園で遊んだ。
すぐに従者に捕まえられて、貴族達の集まりに連れ戻されたけれどね。
そこで私は思ったんだ。
リアになら、仕えても構わない。
この子になら私の人生を預けられるって。
それから積極的に行動した。
見た目も明るくしたし、勉強も活発にした。
でも……リアとはそれっきりだった。
◆ ◆ ◆
物事がわかるようになってきた十五歳。
私はわからないほうが幸せであったであろうことも知ってしまった。
1つ。国王様が病気で伏せっていて、跡継ぎを代わりに指名するはずの大臣が投獄されたのは、濡れ衣であったこと。
2つ。それを仕組んだのは、王妃であること。
3つ。このままだったら、玉座を巡っての血みどろの争いが勃発すること。
ふざけるなと思った。
王女として末席に名を束ねるリアがいるというのに。
リアは兄姉と争うことを望んでいるのだろうか。
リアに会おうと思ったが、私達リズリー家が王宮を訪れる機会は少ない。
それができないまま、父は私に願った。
「頼むアンナ……このままでは、お前も殺されてしまう。我ら一族は、深すぎる闇を知ってしまった。理解しすぎた。だから……逃げてくれ。学院で平和に暮らしてくれ」
そう言って、私の了承もないまま、無理やり学院に押し込んだ。
今では誇りに思っていたリズリーを、フォレットに変えて。
その先に、仕えようと思っていた彼女がいるとは予想外だった。
でも。
リアは、私のことを覚えていなかった。
私は一目でリアだってわかったのに。
悲しくて悲しくて、つい、いじわるをしてしまった。
顔を見れば、ごめんなさい、よりも、簡単に悪口が溢れていく。
お父様が寄越した従者の子は、私のことを何よりも考えてくれたけど、私に逆らったりはしなかった。
私を止めるのは、誰一人としていなかった。
私はお父様と連絡を取りつつ、王宮の状態を把握していった。
そんなある日、悪夢のような手紙が来た。
「国王様はあと1年も持たないだろう。1年経てば、我ら一族は残された正妃に処分されてしまう。その前に、正式にお前はアンナ・フォレットとして生きなさい。私達のことはもう忘れろ」
あまりに酷い内容だった。
私に誇りを捨てて生きろというのか。
私に力があれば良かったのに。
生き抜くための頭だけでは足りない。
魔法がもっと使えれば、何かできたかもしれないのに。
例えば、王子様の従者になって、協力するから一族を見逃してくれ、と頼むとか。
方法はいくらでもあった。
でもその可能性は潰されていく。
なぜか?
私が未熟だからだ。
ここからは情けない話で、私はずっといじめてきたリアに頼った。
リアは快く了承してくれたけれど、何て私は図々しい女なのだろう、と思った。
リアは今、国王様を治す唯一の手段として、『治癒魔法』を会得しようと必死になった頑張っているのは知っていた。
それに私はすがろうと、今までしてきたことを棚に上げてリアに頼み込んだのだ。
その優しさに甘えることしかできない私を、どうか許して欲しい。
私がリアを守るから。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる