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アンナside

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私、アンナ・リズリーはリズリー家の一人娘として生まれた。
リズリー家は国の闇を背負う一家である。
王家が光だとすれば、リズリー家は影。
そうして国は成り立って来たらしい。
でも、私にはそんな重い責務を背負う覚悟などなかった。
自信なさげに赤い髪で顔を隠して、ひたすらにうつむいていた。
両親から叱責されようが、お構い無し。
他人に縛られる人生なんてまっぴらだ。
だから私は、見た目に反してわがままな子だと言われて育った。
でも、私の人生を劇的に変えることが五歳の頃にあった。
その日は他の貴族の子達と集まって、お勉強会をする日だった。
でも面倒で、やりたくなくて、脱走した。
それで庭園に隠れたのだが。

「あっ、あなた、誰?」

庭園には天使がいた。
柔らかそうな淡い金色の髪に、澄んだ空のような碧眼。
すっごく可愛い子だった。
私はその可愛さに思わず緊張した。

「わっ、私、アンナ!」
「アンナ……アンちゃんね! 私はイリーシャ!」
「イリーシャちゃん……」
「でも長くて言いずらそう。じゃあ、リアって呼んでよ!」

リアはお嬢様のような見た目に反して、活発な子だった。
それが凄く私には眩しく見えて。

「リアは、何でここに?」
「ん~、お父様がきぞく? の子達とお勉強しろって言うんだけど、何か嫌で。だってドレス着せられるんだよ? 窮屈じゃない!」

そう言うリアの服装は、薄い青のワンピースだった。
確かに楽そうだ。
リアは私と同じ集まりに呼ばれたなら、他の貴族の子なのかもしれない。
そう思って、私はリアに尋ねた。

「リアはさ、どこのきぞくの子?」
「きぞく? う~ん……私のお父様は、王様だよ」
「ええ!? じゃあ、王女様!?」
「うん。イリーシャ・ルンナ・イクストーム。それが私の名前」
「わわっ、私はっ、アンナ・リズリーです」

慌てて敬語に切り替えると、リアはむっとした表情で大声を出す。

「何で丁寧になるの? アンちゃんは、私のお友達でしょ?」
「……えっ?」
「えっ?」

互いにポカンと顔を見合わせる。
リアは恥ずかしそうにうつむいた。

「ご、ごめん。お友達って思ってたの、私だけだった?」
「そんなこと! でも、王女様とお友達なんて」
「ならいいね! よろしく、アンちゃん!」

それから私達は、庭園で遊んだ。
すぐに従者に捕まえられて、貴族達の集まりに連れ戻されたけれどね。
そこで私は思ったんだ。
リアになら、仕えても構わない。
この子になら私の人生を預けられるって。
それから積極的に行動した。
見た目も明るくしたし、勉強も活発にした。
でも……リアとはそれっきりだった。

◆ ◆ ◆

物事がわかるようになってきた十五歳。
私はわからないほうが幸せであったであろうことも知ってしまった。
1つ。国王様が病気で伏せっていて、跡継ぎを代わりに指名するはずの大臣が投獄されたのは、濡れ衣であったこと。
2つ。それを仕組んだのは、王妃であること。
3つ。このままだったら、玉座を巡っての血みどろの争いが勃発すること。
ふざけるなと思った。
王女として末席に名を束ねるリアがいるというのに。
リアは兄姉と争うことを望んでいるのだろうか。
リアに会おうと思ったが、私達リズリー家が王宮を訪れる機会は少ない。
それができないまま、父は私に願った。

「頼むアンナ……このままでは、お前も殺されてしまう。我ら一族は、深すぎる闇を知ってしまった。理解しすぎた。だから……逃げてくれ。学院で平和に暮らしてくれ」

そう言って、私の了承もないまま、無理やり学院に押し込んだ。
今では誇りに思っていたリズリーを、フォレットに変えて。
その先に、仕えようと思っていた彼女がいるとは予想外だった。
でも。
リアは、私のことを覚えていなかった。
私は一目でリアだってわかったのに。
悲しくて悲しくて、つい、いじわるをしてしまった。
顔を見れば、ごめんなさい、よりも、簡単に悪口が溢れていく。
お父様が寄越した従者の子は、私のことを何よりも考えてくれたけど、私に逆らったりはしなかった。
私を止めるのは、誰一人としていなかった。
私はお父様と連絡を取りつつ、王宮の状態を把握していった。
そんなある日、悪夢のような手紙が来た。

「国王様はあと1年も持たないだろう。1年経てば、我ら一族は残された正妃に処分されてしまう。その前に、正式にお前はアンナ・フォレットとして生きなさい。私達のことはもう忘れろ」

あまりに酷い内容だった。
私に誇りを捨てて生きろというのか。
私に力があれば良かったのに。
生き抜くための頭だけでは足りない。
魔法がもっと使えれば、何かできたかもしれないのに。
例えば、王子様の従者になって、協力するから一族を見逃してくれ、と頼むとか。
方法はいくらでもあった。
でもその可能性は潰されていく。
なぜか?
私が未熟だからだ。
ここからは情けない話で、私はずっといじめてきたリアに頼った。
リアは快く了承してくれたけれど、何て私は図々しい女なのだろう、と思った。
リアは今、国王様を治す唯一の手段として、『治癒魔法』を会得しようと必死になった頑張っているのは知っていた。
それに私はすがろうと、今までしてきたことを棚に上げてリアに頼み込んだのだ。
その優しさに甘えることしかできない私を、どうか許して欲しい。
私がリアを守るから。
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