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ユニコーン編
第百十六話 ヒョウの魔物
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アリスはこちらの世界にいる間、ふと自分の故郷のことを思い出すことがある。
悪魔にのみ適応した世界である魔界は、アリスにとっては非常に息のしやすい場所であった。
「いいですか? 姫さま。自由におやりなさいな。この世は自由に生きるからこそ美しいのです」
彼女は自由を愛する悪魔であった。
魔王ですら支配できなかった彼女は、こちらの世界に来て、その生を相変わらず謳歌しているのだろうか。
「!」
ヒョウのような、しなやかな体躯を持つ魔物であった。
魔物はこちらの存在を確認すると、速やかに敵意を示して襲いかかってきた。
「ウッドウォール!」
アレクが木の魔法を唱え、防御壁を張る。
魔物がそれに突進し、凄まじい土煙を起こした。
「ぐるるるるるっ!」
「わっ」
魔物の発する気迫に、少年も怖気付いたらしい。
一歩後ずさった瞬間、少年に魔物が襲いかかった。
「っ、エアクッション!」
ユリーカが咄嗟に、庇うようにして風魔法を唱える。
生み出した魔法と共に、ユリーカが弾き飛ばされた。
「ユリーカ!」
シオンの焦った声が響く。
アリスは何か考え込んでいるようであった。
ライアンは剣を構え、少年に声をかける。
「俺が右から叩くから、左から頼む」
「あ……」
「行くぞっ」
ライアンが前に飛び出す。
少年も後から続いた。
剣を振り、魔物に向かって飛び込む。
「おりゃあああっ!」
「がうっ!」
魔物のしなやかな体躯に攫われぬよう、ライアンが身を捻りながら攻撃を加える。
しかし硬い。
この手のタイプは防御力を犠牲にしてスピードを出すものが多いが、この魔物は例外らしい。
「っ」
少年は魔物とライアンの攻防を見て、その場でたじろいでいた。
(付け入る隙がない……! 補助っつったって、どこに切り込めばいいのかわからない!)
自分の実力不足を祟り、少年は魔物を仰ぎ見る。
(どこか……何か俺が役に立てることは)
その時、魔物の後ろに扉を見つけた。
「あれは……」
魔物の横を通り過ぎようとした瞬間、魔物の爪の攻撃が飛んでくる。
それをアレクが防いだ。
「行って!」
「あ、ああ!」
そのまま走り抜ける。
扉には、少年の見覚えのある紋様が刻まれていた。
「どこかで見たことある……! どこなんだ……!」
必死になって少年は考え込む。
見覚えのある紋様。
あれは、どこで見たものだったか。
「!」
思い出した。
村長の家にあったタペストリーが、似たような紋様をしていた。
少しずつ違う。
触ってみれば、動かせるようだった。
「これを並び替えれば、扉が開くのか?」
「がぁああっ!」
魔物がまるで少年の行動を防ごうとするように、こちらに向かって襲いかかってくる。
少年が身構えた瞬間、小さな閃光のようなものが魔物を退けた。
「大丈夫!?」
「あ、うん」
シオンがこちらに駆け込んできた。
先程の光は、どうやらシオンの放った魔力弾だったらしい。
「扉開けるの手伝う」
「お前」
アリスが少年の横に立った。
扉をそっとなぞると、納得したように頷く。
「リリスの力が入ってる。これをどうにかしないと開かない」
「わかった……そっちは任せたぞ。俺はこれを、正しい形に直す」
「ん。お兄さん達は、私達を守ってね」
アリスがアレクに、自身を守るように伝える。
アレクは迷うことなく返事をした。
「絶対守るから安心して! アリス達はそっちをお願い!」
魔物が牙を剥くと、アレク達の頭上に紫色の液体が降り注ぐ。
慌てて飛び退けば、地面が音を立てて溶けた。
「毒……!」
「やっべ、これ当たったら即死じゃん」
「痛そうね」
そこで、シオンが三人よりも後ろに下がって、補助魔法をかける。
「魔力よ、私の呼びかけに答えその力を示せ……コネクト・バフ!」
パッとアレク達の体が光り輝き、たちまち力が湧いてきた。
シオンは三人に効果を伝える。
「最近習得した付与魔法……魔力を底上げして、防御力と瞬発力を上げるの! 毒くらいなら、一回は防げると思う! でもこれをやってる間、私は動けないし、すぐ切れちゃうから……」
「わかった。すぐ終わらせる」
アレクが前を向いて言うものだから、シオンは顔を赤くして首を縦に振る。
「遺跡の耐久度を考えると、そんなに大きな魔法は使えないな……」
「じゃあ俺の剣で立ち回るから、二人共サポートしてくれよ」
「サポートだけじゃなくてちゃんと攻撃するわよ」
悪魔にのみ適応した世界である魔界は、アリスにとっては非常に息のしやすい場所であった。
「いいですか? 姫さま。自由におやりなさいな。この世は自由に生きるからこそ美しいのです」
彼女は自由を愛する悪魔であった。
魔王ですら支配できなかった彼女は、こちらの世界に来て、その生を相変わらず謳歌しているのだろうか。
「!」
ヒョウのような、しなやかな体躯を持つ魔物であった。
魔物はこちらの存在を確認すると、速やかに敵意を示して襲いかかってきた。
「ウッドウォール!」
アレクが木の魔法を唱え、防御壁を張る。
魔物がそれに突進し、凄まじい土煙を起こした。
「ぐるるるるるっ!」
「わっ」
魔物の発する気迫に、少年も怖気付いたらしい。
一歩後ずさった瞬間、少年に魔物が襲いかかった。
「っ、エアクッション!」
ユリーカが咄嗟に、庇うようにして風魔法を唱える。
生み出した魔法と共に、ユリーカが弾き飛ばされた。
「ユリーカ!」
シオンの焦った声が響く。
アリスは何か考え込んでいるようであった。
ライアンは剣を構え、少年に声をかける。
「俺が右から叩くから、左から頼む」
「あ……」
「行くぞっ」
ライアンが前に飛び出す。
少年も後から続いた。
剣を振り、魔物に向かって飛び込む。
「おりゃあああっ!」
「がうっ!」
魔物のしなやかな体躯に攫われぬよう、ライアンが身を捻りながら攻撃を加える。
しかし硬い。
この手のタイプは防御力を犠牲にしてスピードを出すものが多いが、この魔物は例外らしい。
「っ」
少年は魔物とライアンの攻防を見て、その場でたじろいでいた。
(付け入る隙がない……! 補助っつったって、どこに切り込めばいいのかわからない!)
自分の実力不足を祟り、少年は魔物を仰ぎ見る。
(どこか……何か俺が役に立てることは)
その時、魔物の後ろに扉を見つけた。
「あれは……」
魔物の横を通り過ぎようとした瞬間、魔物の爪の攻撃が飛んでくる。
それをアレクが防いだ。
「行って!」
「あ、ああ!」
そのまま走り抜ける。
扉には、少年の見覚えのある紋様が刻まれていた。
「どこかで見たことある……! どこなんだ……!」
必死になって少年は考え込む。
見覚えのある紋様。
あれは、どこで見たものだったか。
「!」
思い出した。
村長の家にあったタペストリーが、似たような紋様をしていた。
少しずつ違う。
触ってみれば、動かせるようだった。
「これを並び替えれば、扉が開くのか?」
「がぁああっ!」
魔物がまるで少年の行動を防ごうとするように、こちらに向かって襲いかかってくる。
少年が身構えた瞬間、小さな閃光のようなものが魔物を退けた。
「大丈夫!?」
「あ、うん」
シオンがこちらに駆け込んできた。
先程の光は、どうやらシオンの放った魔力弾だったらしい。
「扉開けるの手伝う」
「お前」
アリスが少年の横に立った。
扉をそっとなぞると、納得したように頷く。
「リリスの力が入ってる。これをどうにかしないと開かない」
「わかった……そっちは任せたぞ。俺はこれを、正しい形に直す」
「ん。お兄さん達は、私達を守ってね」
アリスがアレクに、自身を守るように伝える。
アレクは迷うことなく返事をした。
「絶対守るから安心して! アリス達はそっちをお願い!」
魔物が牙を剥くと、アレク達の頭上に紫色の液体が降り注ぐ。
慌てて飛び退けば、地面が音を立てて溶けた。
「毒……!」
「やっべ、これ当たったら即死じゃん」
「痛そうね」
そこで、シオンが三人よりも後ろに下がって、補助魔法をかける。
「魔力よ、私の呼びかけに答えその力を示せ……コネクト・バフ!」
パッとアレク達の体が光り輝き、たちまち力が湧いてきた。
シオンは三人に効果を伝える。
「最近習得した付与魔法……魔力を底上げして、防御力と瞬発力を上げるの! 毒くらいなら、一回は防げると思う! でもこれをやってる間、私は動けないし、すぐ切れちゃうから……」
「わかった。すぐ終わらせる」
アレクが前を向いて言うものだから、シオンは顔を赤くして首を縦に振る。
「遺跡の耐久度を考えると、そんなに大きな魔法は使えないな……」
「じゃあ俺の剣で立ち回るから、二人共サポートしてくれよ」
「サポートだけじゃなくてちゃんと攻撃するわよ」
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