追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

文字の大きさ
上 下
214 / 227
留年回避編

第百八話 体力テストの基準

しおりを挟む
体力テスト。
それぞれの競技には得点の基準があり、元よりシオンは基礎的な体力がなかった。
この短期間でどう伸ばしたかを説明するには、少々時間がかかる。

「シオン! 君にはこれをやろう!」

教師であるジンが、シオンに初日に手渡したあるもの。
それを受け取ったシオンは、困惑気味に顔を上げた。

「なんですか? これ……」
「それは制御装置。つければ普段感じている重力の五倍ほどの圧力がかかる」
「えっ……」

ベルトのようなそれに、そんな力があるらしい。
ジンは相変わらずの凶悪な笑顔を浮かべた。

「それをつけて訓練しなさい! そうすればなんとかなる!」
「えぇ~……」

その日からシオンと制御装置の日々が始まった。
しかし、そもそも生活すら危うくなる代物。
制御装置という名だけあって、人体に害を及ぼすものではない。
シオンにはどういう仕組みかはわからなかったが、とにかく動けない。
初日は本当に、その場から一歩進めることすらできなかったのだ。

「む、無理ですせんせぇ~」
「頑張れ!」
「先生~……」

半泣きのシオンを、なんとジンは二時間放置した。
二時間経った頃、ようやくシオンは一歩を踏み出せたのである。

「や……やった! 歩けた!」
「よし! 今日はこれでお終いにしよう。制御装置をつけるのは午後の訓練だけだから、朝はアレクと同じ、体力付けのメニューをこなしてもらうぞ!」
「は、はい!」
「今日はこれで解散とする!」
「ありがとうございました! ……先生、一つ聞いてもいいですか?」
「何かね」
「先生はその笑顔、わざとですか?」
「………」
「……………」
「………わざとではなぁい!」
「すっ、すみませぇん」

わざとじゃなかった。
見掛け倒しがすぎるので、正直やめてもらいたい。
しかしわざとじゃないなら、ただただ可哀想であった。
それはさておき、こんな調子でシオンは一ヶ月を過ごしたのだ。






「し、シオンさんすっごい! どうしたの! 何があったの!」

全ての競技を終えたシオンに、アリーシャが大急ぎで駆け寄る。
以前のシオンとは段違いの成績であった。

「ジン先生のお陰です」
「ああ、ジン先生ね! あの人本当に教えるの上手いなぁ。でも本当に満点取っちゃうとは思わなかった」
「留年じゃなくてよかったです……」

シオンとアリーシャとの会話に、アレク達も入り込む。

「そうですよ! シオン、凄く頑張ってたんです!」
「俺達も負けてられねーよな」
「そうよね……追い越されるのも時間の問題かしら」

口々に言う彼らであったが、シオンの心情は、三人への尊敬で一杯であった。

(あれだけ頑張ったのに、届く気がしない……三人とも、本当に素の身体能力が高いんだ。私は普通より運動できないし、もっとやらなきゃ。……早く、追いつきたいな)

「とりあえず、今日のテストは終わり! みんな帰っていいよ~」

アリーシャの言葉をきっかけに、生徒達がパラパラと帰っていく。
アレク達も横に並び、戻ることにした。

「あとはユリーカの上演だけだね」
「でももう三千人は達成してるんでしょ?」
「本当に来るのかしら……」

先行きが不安な様子で、ユリーカはどこか遠い目をしていた。
それもそうだ。
チケットを買って行った謎の少年、メノウの態度からして、信頼できないのは当然のことである。

「明日の命運をあいつに託すっていうのも嫌ね……」

ユリーカはメノウが気に入らないらしい。
不思議そうにするシオンとライアンを置いて、アレクは乾いた苦笑いをした。

◆ ◆ ◆

「きちんと集めたか?」
「はい。信者二千人、集め終わりました」
「よし。それでいい」
「彼の方はどういった反応で……?」
「寧ろ喜んでいたよ。天使の役に立つなら、と」
「それはよきことですな。では明日、手筈通りに」

しおりを挟む
感想 449

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。