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留年回避編
第百八話 体力テストの基準
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体力テスト。
それぞれの競技には得点の基準があり、元よりシオンは基礎的な体力がなかった。
この短期間でどう伸ばしたかを説明するには、少々時間がかかる。
「シオン! 君にはこれをやろう!」
教師であるジンが、シオンに初日に手渡したあるもの。
それを受け取ったシオンは、困惑気味に顔を上げた。
「なんですか? これ……」
「それは制御装置。つければ普段感じている重力の五倍ほどの圧力がかかる」
「えっ……」
ベルトのようなそれに、そんな力があるらしい。
ジンは相変わらずの凶悪な笑顔を浮かべた。
「それをつけて訓練しなさい! そうすればなんとかなる!」
「えぇ~……」
その日からシオンと制御装置の日々が始まった。
しかし、そもそも生活すら危うくなる代物。
制御装置という名だけあって、人体に害を及ぼすものではない。
シオンにはどういう仕組みかはわからなかったが、とにかく動けない。
初日は本当に、その場から一歩進めることすらできなかったのだ。
「む、無理ですせんせぇ~」
「頑張れ!」
「先生~……」
半泣きのシオンを、なんとジンは二時間放置した。
二時間経った頃、ようやくシオンは一歩を踏み出せたのである。
「や……やった! 歩けた!」
「よし! 今日はこれでお終いにしよう。制御装置をつけるのは午後の訓練だけだから、朝はアレクと同じ、体力付けのメニューをこなしてもらうぞ!」
「は、はい!」
「今日はこれで解散とする!」
「ありがとうございました! ……先生、一つ聞いてもいいですか?」
「何かね」
「先生はその笑顔、わざとですか?」
「………」
「……………」
「………わざとではなぁい!」
「すっ、すみませぇん」
わざとじゃなかった。
見掛け倒しがすぎるので、正直やめてもらいたい。
しかしわざとじゃないなら、ただただ可哀想であった。
それはさておき、こんな調子でシオンは一ヶ月を過ごしたのだ。
「し、シオンさんすっごい! どうしたの! 何があったの!」
全ての競技を終えたシオンに、アリーシャが大急ぎで駆け寄る。
以前のシオンとは段違いの成績であった。
「ジン先生のお陰です」
「ああ、ジン先生ね! あの人本当に教えるの上手いなぁ。でも本当に満点取っちゃうとは思わなかった」
「留年じゃなくてよかったです……」
シオンとアリーシャとの会話に、アレク達も入り込む。
「そうですよ! シオン、凄く頑張ってたんです!」
「俺達も負けてられねーよな」
「そうよね……追い越されるのも時間の問題かしら」
口々に言う彼らであったが、シオンの心情は、三人への尊敬で一杯であった。
(あれだけ頑張ったのに、届く気がしない……三人とも、本当に素の身体能力が高いんだ。私は普通より運動できないし、もっとやらなきゃ。……早く、追いつきたいな)
「とりあえず、今日のテストは終わり! みんな帰っていいよ~」
アリーシャの言葉をきっかけに、生徒達がパラパラと帰っていく。
アレク達も横に並び、戻ることにした。
「あとはユリーカの上演だけだね」
「でももう三千人は達成してるんでしょ?」
「本当に来るのかしら……」
先行きが不安な様子で、ユリーカはどこか遠い目をしていた。
それもそうだ。
チケットを買って行った謎の少年、メノウの態度からして、信頼できないのは当然のことである。
「明日の命運をあいつに託すっていうのも嫌ね……」
ユリーカはメノウが気に入らないらしい。
不思議そうにするシオンとライアンを置いて、アレクは乾いた苦笑いをした。
◆ ◆ ◆
「きちんと集めたか?」
「はい。信者二千人、集め終わりました」
「よし。それでいい」
「彼の方はどういった反応で……?」
「寧ろ喜んでいたよ。天使の役に立つなら、と」
「それはよきことですな。では明日、手筈通りに」
それぞれの競技には得点の基準があり、元よりシオンは基礎的な体力がなかった。
この短期間でどう伸ばしたかを説明するには、少々時間がかかる。
「シオン! 君にはこれをやろう!」
教師であるジンが、シオンに初日に手渡したあるもの。
それを受け取ったシオンは、困惑気味に顔を上げた。
「なんですか? これ……」
「それは制御装置。つければ普段感じている重力の五倍ほどの圧力がかかる」
「えっ……」
ベルトのようなそれに、そんな力があるらしい。
ジンは相変わらずの凶悪な笑顔を浮かべた。
「それをつけて訓練しなさい! そうすればなんとかなる!」
「えぇ~……」
その日からシオンと制御装置の日々が始まった。
しかし、そもそも生活すら危うくなる代物。
制御装置という名だけあって、人体に害を及ぼすものではない。
シオンにはどういう仕組みかはわからなかったが、とにかく動けない。
初日は本当に、その場から一歩進めることすらできなかったのだ。
「む、無理ですせんせぇ~」
「頑張れ!」
「先生~……」
半泣きのシオンを、なんとジンは二時間放置した。
二時間経った頃、ようやくシオンは一歩を踏み出せたのである。
「や……やった! 歩けた!」
「よし! 今日はこれでお終いにしよう。制御装置をつけるのは午後の訓練だけだから、朝はアレクと同じ、体力付けのメニューをこなしてもらうぞ!」
「は、はい!」
「今日はこれで解散とする!」
「ありがとうございました! ……先生、一つ聞いてもいいですか?」
「何かね」
「先生はその笑顔、わざとですか?」
「………」
「……………」
「………わざとではなぁい!」
「すっ、すみませぇん」
わざとじゃなかった。
見掛け倒しがすぎるので、正直やめてもらいたい。
しかしわざとじゃないなら、ただただ可哀想であった。
それはさておき、こんな調子でシオンは一ヶ月を過ごしたのだ。
「し、シオンさんすっごい! どうしたの! 何があったの!」
全ての競技を終えたシオンに、アリーシャが大急ぎで駆け寄る。
以前のシオンとは段違いの成績であった。
「ジン先生のお陰です」
「ああ、ジン先生ね! あの人本当に教えるの上手いなぁ。でも本当に満点取っちゃうとは思わなかった」
「留年じゃなくてよかったです……」
シオンとアリーシャとの会話に、アレク達も入り込む。
「そうですよ! シオン、凄く頑張ってたんです!」
「俺達も負けてられねーよな」
「そうよね……追い越されるのも時間の問題かしら」
口々に言う彼らであったが、シオンの心情は、三人への尊敬で一杯であった。
(あれだけ頑張ったのに、届く気がしない……三人とも、本当に素の身体能力が高いんだ。私は普通より運動できないし、もっとやらなきゃ。……早く、追いつきたいな)
「とりあえず、今日のテストは終わり! みんな帰っていいよ~」
アリーシャの言葉をきっかけに、生徒達がパラパラと帰っていく。
アレク達も横に並び、戻ることにした。
「あとはユリーカの上演だけだね」
「でももう三千人は達成してるんでしょ?」
「本当に来るのかしら……」
先行きが不安な様子で、ユリーカはどこか遠い目をしていた。
それもそうだ。
チケットを買って行った謎の少年、メノウの態度からして、信頼できないのは当然のことである。
「明日の命運をあいつに託すっていうのも嫌ね……」
ユリーカはメノウが気に入らないらしい。
不思議そうにするシオンとライアンを置いて、アレクは乾いた苦笑いをした。
◆ ◆ ◆
「きちんと集めたか?」
「はい。信者二千人、集め終わりました」
「よし。それでいい」
「彼の方はどういった反応で……?」
「寧ろ喜んでいたよ。天使の役に立つなら、と」
「それはよきことですな。では明日、手筈通りに」
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