追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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留年回避編

第百ニ話 可愛い弟

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次の日。
約束通り購買で待っていてくれたアレクに、可愛いもの好きな本能がキュンとする。
しかし、今からするのは、仕事関連の相談である。
公私混同はしないと決めたキノロンは、存外真面目であった。

「アレク君」
「あ、昨日ぶりですね。えっと……」
「キノロンっていうの。よろしく」
「よろしくお願いします、キノロンさん」

ぺこりと頭を下げるアレク。
もう何しても可愛い。
ブラコンになるガディとエルルの気持ちがわかる。
そこに理性が怒鳴り散らした。

(何してるのキノロン! あなたには愛しい弟がいるでしょう!)

「はっ!」

危ない。キノロンには、何にも変え難い可愛い弟がいるのだった。
キリリと表情を持ち直したキノロンは、アレクに申し訳なさそうに眉を下げる。

「ごめんね、呼び出しちゃって」
「いいですよ。それで、相談って?」
「会長と副会長の件でちょっとね」

アレクを購買の横にあるベンチに座らせ、早速キノロンは、双子の一週間の様子を話して聞かせた。
全てを聞き終えたアレクは、呆れと同情が混じったような顔をしている。

「兄様と姉様、そんなことしてたんですね」
「うう、どうしたらいいかな。頼るのは筋違いってわかってるんだけど、ボク達も困ってて」
「そうですね……連絡用水晶なら許されるかな」

連絡用水晶。
大陸中でメジャーに用いられている通信機器であり、離れた相手と連絡を取ることができる優れものだ。
欠点として、高価であることが挙げられるが、アレク達の財力では買うことなど余裕の代物である。
しかし普段から持ち歩くという発想がないため、アレクは現在連絡用水晶は持ち合わせていない。

「家に帰って連絡してみます。それでちゃんとお仕事するよう、伝えておきますね」
「よ、よかった。本当にありがとう」

キノロンには、まるでアレクが神様のように思えてしょうがない。
これで双子が仕事するようになるなら万々歳だ。
あとアレクが可愛い。
その日はアレクと別れ、清々しい気持ちでキノロンは眠りについた。





おかしい。
昨日となにも変わっちゃいない。
相変わらず双子は屍のように地面と溶けて同化していた。
キノロンはアレクの元へと走った。

「あ、アレク君! 昨日となにも変わってない……!」
「実は兄様と姉様、連絡用水晶持ってなかったみたいで」

そんなことあるのか。
キノロンは崩れ落ちた。
実際双子はそういった物を持つのが面倒だと感じるタチであるので、持っていないことが多い。
ちなみにアレクが連絡用水晶を持っている理由としては、委員会などのやり取りやその他諸々を危惧したからである。

「役に立たなくてごめんなさい……」

しゅん、とへこむアレクに、キノロンの罪悪感が刺激される。
なんとかして挽回せねば。
キノロンは必死に頭を回した。

「わ、わかった! ボクの連絡用水晶使えばいいよ!」
「持ってるんですか?」
「うん!」

(離れた弟と連絡を取るために!)

キノロンの実家はかなり太かった。
連絡用水晶など余裕である。

「連絡用水晶の使い方は流石にわかるよね?」
「もちろんですよ」

よかったこれで救われる。
「頼んだよ」とアレクに言って、キノロンは生徒会室へと向かった。
死んだ目で仕事を進める双子に、連絡用水晶を手渡す。

「会長、副会長。弟くんに連絡してあげてください」

まるで枯れかけの植物に水を与えたような、そんな目の輝きであった。
ガディとエルルは即座に連絡用水晶を受け取り、水晶を覗き込む。
魔力を注ぐことによって相手と連絡を取れるアイテムなので、生徒会室に大量の魔力が充満した。

『あ、兄様? 姉様?』
「「アレク!」」
『うわ、聞いてた通りだね……』
「聞いてた通りってどういうことだ」
『二人が可哀想なことになってるって、キノロンさんから教えてもらったんだよ』

二人は齧り付かんばかりに、水晶を食い入るように眺める。
愛しい弟が喋ってくれている。
それだけで二人の体力は回復した。

『二人共、ちゃんと仕事して。みんな困ってるでしょ』
「う、でも」
「力が出ないのよ」
『そんなこと言わない! 仕事してくれないと、僕……二人のこと、嫌いになっちゃうから!』

がーーーーんっという効果音が聞こえてきそうなほど、二人は思い切りショックを受けた。
どうやらキノロンは間違っていなかったらしい。

「やる。絶対やる」
「仕事頑張る」
『その意気だよ! 二人がお仕事頑張ってるカッコいいところ、僕好きだなぁ』

アレク君、慣れてるなこれ。
キノロンは心の中でそっと思った。
チョロい双子はアレクの発言で簡単にやる気を出し、仕事に取り掛かる。
先程とはスピードが段違いだ。

「キノロン! アレク君! 本当にありがとうっ……!」

生徒会メンバーから、涙ながらにお礼を言われる。
連絡用水晶の先で、アレクがまだ繋がっていた。

『いえ! また何かあったらいってください』
「もうアレク君、生徒会入らない? 歓迎するよ?」
『僕には魔法研究委員会があるんで』
「最近頭角表してるし、忙しいかぁ」

勧誘に失敗したことは残念そうだったものの、双子のストッパーを得たメンバーは胸を撫で下ろした。
しかし、これから先、とうとう限界を迎えた双子がボイコットすることを、メンバーはまだ知らない。
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