追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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留年回避編

第九十八話 見出した適正

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一時間ほどで作業が終了し、残りの時間でポーション造りをすることになった。

「まずは薬草をすり潰しま~す。はいっ、どうぞ」

ハンナに言われるがまま、ポーションの元となる薬草をすり潰す。
薬草独特の匂いが鼻を突いて、その青臭さにアレクは顔を顰める。

「ふふ、少しキツめの匂いでしょう? こういうのがよく効くんです」
「な、なるほど……」
「次に、すり潰した薬草をこして、汁を抽出します」

ガーゼを張った瓶を差し出され、アレクは潰した薬草をガーゼの上に乗せた。
そのままスプーンで押し潰すようにして押し込めば、汁が瓶へと溜まっていく。

「あとはこの汁を聖水と混ぜて、煮詰めていきまーす」

聖水の瓶を渡され、アレクはその蓋を取り外す。
ここで純粋な疑問が湧いた。

「この聖水って、どうやって作ってるんですか?」
「……知らないんですか?」

あまりに当たり前すぎて、一般常識として疑われることのない知識だ。
それをアレクが聞いてきたものだから、ハンナはポカンと口を開ける。
こういうことは最近少なかったが、まだまだアレクは知らないことが多い。
素直に頷けば、少々困惑しつつも説明してくれた。

「聖水って、教会で作るんです。聖職者さんが祈りを込めて、教会から祝福を得る。そうすれば、聖水は完成します。この聖水はこうやってポーションにも使えますし、魔物祓いにも使えます」
「魔物祓い?」
「はい。まあ、寄ってこさせないようにするだけだったり、直接ダメージを与えたり、作る人によってまちまちですけどね」

ハンナの解説を聞きつつ、聖水を薬草の汁と混ぜ合わせる。
それらが混ざってマーブル色になるのを、アレクはドキドキしながら見守った。
やがて、透き通った薄い青緑になると、ハンナが瓶の中身を鍋へと移してくれた。

「これを火にかけるんですけど、火加減が大事なんです! ゆっくり一定のスピードで、ぐーるぐーる混ぜるんですよ」
「こうですか?」
「そう! 上手ですね」

鍋を混ぜ合わせること十分、中身が煮立つ前に、とろみが出た段階で火から下す。

「最後に治癒魔法をかけて完成です」
「聖属性を待ってなきゃ作れないんですね」
「はい。ポーションって、消毒の効果もかねて利用する人も多いですからね。この液体が傷を癒しつつ、魔法の効果を押し留めてくれるんですよ。その分早く劣化しやすいんですけどね……」

アレクは鍋の液体に向かって、軽く治癒魔法をかけた。
治癒魔法は、聖属性を持っていなければ使えない。
今まで特に疑問など抱いていなかったのだが、ひょっとしてこの属性は、天族が使っていた元来の魔法と近いものなんだろうか。

(名前に聖ってついてるしなぁ)

「できました! どうですか? ハンナ先生」

できあがったポーションをハンナに見せる。
反応がないため、失敗してしまったかと不安に思った。
しかし、それはどうやら違ったらしい。

「す、素晴らしいですよこれ! アレク君、才能あり……いや、天才です!」

ポーションを抱えて喜ぶハンナの姿に、アレクはほっと胸を撫で下ろす。
なんとなく自分はこういうものが向いていると思っていたが、ハズレではなかったらしい。

「将来、調合師になるといいですよ。大成します。私が保証します」
「か、考えておきます!」

圧が凄い。
瞳孔ガン開きだ。
逃げるようにしてアレクは保健室を出た。

カーン、カーン、カーン

「あ」

ここで鐘の音が耳に届く。
授業開始の合図である。

「アリーシャ先生に怒られる……」

こういう時に限って寝坊しないのが彼女だ。
アレクは急いで教室へと向かう。
その時だった。

「そこの君! 廊下は走らない!」
「は、はいっ!」

ぴしゃりと叱られ、思わずその場で足を止める。
恐る恐る顔を上げると、そこには厳しげな表情を浮かべた男性がいた。

「君は……アレク・サルト君だね?」
「そうですけど」
「やはり! なるほど!」

何やら大声を出して、男性は一人で納得していた。
アレクの肩をがしりと掴み、男性はアレクに告げる。

「君の性根も叩き直してやる」
「え?」
「授業が終わったら職員室に来なさい。私の名はジンだ」

「じゃあ!」と背中を勢いよく叩かれ、ジンと名乗った職員は去っていった。
思わずその去り姿を、アレクは食い入るように見つめる。

「…………性根?」

僕、そんな悪いことしたっけ。
冷や汗をかきつつ、アレクは自身の行動を振り返った。


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