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アルスフォード編
第九十ニ話 特訓成果
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「ティファンのせいって……」
「ティファンがあの子の、魔物としての機能を削いだんだよ。そのせいで私のこともわからないし、凶暴化してる」
「その機能って、どうやったら取り戻せるの?」
「私が、あの子に触れられれば」
願うようにして、アリスはユリーカを見上げる。
「お願い。あの子を助けて」
「……わかったわ。魔物を助けるなんて、変な感じだけどね」
ユリーカはアリスを地面に降ろし、グリフォンに向き直る。
グリフォンが狙っていた行商人を、ライアンが抱えて救出した。
「おい! おっちゃん無事か!」
「は、はい……ありがとうございます」
「あのロボット入ってろ!」
ライアンがロボットの近くに行商人を下ろし、腰に下げた剣を引き抜く。
「俺もポルカさんに剣、頼めばよかったかなぁ……まあ、ポルカさんの出す課題、できそうにないし。いつか頼もう」
そこで、シオンがライアンの隣に立った。
「ライアン! グリフォンを弱らせれば、どうにかなりそうだって」
「それ本当か?」
「うん。アリスちゃんが言ってた」
「そっか。じゃあ、合体技いくか」
「わかった!」
ライアンが剣を構える。
アリスとの修行で、二人で考えたものだ。
魔力がつき対策のしようもない時、二人が頼ったのは、最低限の〔身体強化〕のスキルと、己の体力であった。
そもそもシオンはサポート特化の人間であり、直接的な戦闘には向いていない。
だからこそ魔法が必須となるのだが、アリスとの修行では、そんな魔法という手段が没収され、ほとほと困り果てていた。
そんな二人に、アリスはこんなアドバイスを残したのだ。
『フワさんとガツさん、そんなに魔力多くないでしょ』
『え』
『まあ確かに……? でも、クラスでは多いほうだよ』
『それは人間の中ででしょ? ここからは、人間以外の種族がたくさん出てくる。そんなんじゃダメ』
『じゃあどうすればいいんだ!?』
『もっと体を使いなよ。人間なりに足掻いてみせて』
「難しいこと言うよなぁ!」
「ライアン!」
「わかってるって!」
ライアンが剣を構える。
一気に地面を踏み込み、そのままグリフォンに向かって突っ込んだ。
「ぐがぁ!」
「うおっ!」
ブレスーーもとい、衝撃波をグリフォンが飛ばし、間一髪のところでライアンが避ける。
それでもグリフォンは怯むことなく、立て続けに攻撃を仕掛けてくる。
パァンっ!
「が!?」
発砲音と共に、グリフォンの足に穴が空いた。
グリフォンが動きを止めた一瞬で、ライアンが思い切り切り掛かる。
「うおりゃっ!」
グリフォンの羽のほうを切り付け、切り傷を負わせた。
しかしその浅さに、ライアンは歯噛みする。
「ちくしょー、これじゃ止まってくれねえ!」
一方、それらを見ていたユリーカが、二人の変わりように目を見張る。
「二人共……凄く動けるようになってる……それに、シオンのあれは」
「魔力弾だよ」
アリスが横で、シオンの放った魔法について説明する。
「極微力の魔力を圧縮して、放つ。人間が使う銃と一緒。フワさんにも魔力なしの時の戦い方覚えてほしかったけど、それはまた次の機会に」
「す、凄い」
「やれるでしょ、カールさんも」
「……それ、私のこと?」
「前髪がカールしてるから」
「あなた変なあだ名つけるわよね」
そんな会話のキャッチボールをしつつ、ユリーカはグリフォンと向き合う。
(ちゃんと考えなきゃ……ライアンの一撃でも、グリフォンにダメージはぜんぜんいかない。じゃあ)
「アリスちゃん」
「なに?」
「ここら辺にいる魔物で、操れそうなのは?」
「……せいぜいBランク。すぐに散らされるよ?」
「構わないわ。抑え込めれば十分」
ユリーカはアリスに何かを囁く。
アリスはそれに、大きなため息で答えた。
「悪魔使いが荒いんだから……」
「よろしく!」
ユリーカが駆け出す。
アリスがツノを握り締め、魔物を呼び寄せた。
「みんな、お願い……!」
小さな魔物達が呼びかけに答え、グリフォンに集まる。
それを見て驚くシオンとライアンに、ユリーカが叫んだ。
「二人共! 全力でグリフォンに魔法で攻撃して!」
「ええ!?」
「いいから!」
「わ、わかったあ」
グリフォンが魔物達を蹴散らしている隙に、ライアンとシオンが魔法を発動する。
シオンがグリフォンの足元の地盤を割り、足を地面に埋める。
その瞬間、ライアンが炎魔法を発動した。
「フレイムタワー!!」
業火が巻き起こり、グリフォンを包む。
しかしこれにも微動だにせず、グリフォンは炎の中こちらを睨みつけたままだ。
そこにユリーカが走った。
「あれはまだ使えないーーだからっ!」
ユリーカが呪文を唱え出す。
「我が魔力よ、我が力に従いこの地に顕現せよ! 空から振りし見えぬ手に従え! グラビティ・フォール!」
長い詠唱の後、グリフォンが地面に叩き伏せられる。
「なにあれ!」
「魔法かっ!?」
「二人共っ……早くタコ殴りにして!」
「タコ殴り!?」
「いいよ、やる」
アリスがユリーカの後ろから出て、何やらブツブツと唱え出す。
十秒後、ユリーカの魔法が限界を迎えて解けた。
「やべーって!!」
「わーっ!?」
「抑えなきゃ抑えなきゃ!」
三人がかりで、グリフォンの動きをなんとかして止める。
二十秒が経過した。
グリフォンは三人を振り飛ばし、声高らかに叫ぶ。
「ぐわおおおおおおっ!!」
「も、もう無理だって!!」
「アリスちゃん!」
ーー三十秒経過。
「お帰り、我が眷属よ」
勢いを殺すように、アリスがそっとグリフォンに触れる。
アリスがそう呟いた瞬間、グリフォンが眩い光に覆われた。
そして、次に目を開いた瞬間、グリフォンは消え去っていた。
「え……」
「みんなありがとう」
アリスは呼び寄せた魔物達に礼を言う。
三人は状況が呑み込めず、まじまじとアリスを見つめた。
「ティファンがあの子の、魔物としての機能を削いだんだよ。そのせいで私のこともわからないし、凶暴化してる」
「その機能って、どうやったら取り戻せるの?」
「私が、あの子に触れられれば」
願うようにして、アリスはユリーカを見上げる。
「お願い。あの子を助けて」
「……わかったわ。魔物を助けるなんて、変な感じだけどね」
ユリーカはアリスを地面に降ろし、グリフォンに向き直る。
グリフォンが狙っていた行商人を、ライアンが抱えて救出した。
「おい! おっちゃん無事か!」
「は、はい……ありがとうございます」
「あのロボット入ってろ!」
ライアンがロボットの近くに行商人を下ろし、腰に下げた剣を引き抜く。
「俺もポルカさんに剣、頼めばよかったかなぁ……まあ、ポルカさんの出す課題、できそうにないし。いつか頼もう」
そこで、シオンがライアンの隣に立った。
「ライアン! グリフォンを弱らせれば、どうにかなりそうだって」
「それ本当か?」
「うん。アリスちゃんが言ってた」
「そっか。じゃあ、合体技いくか」
「わかった!」
ライアンが剣を構える。
アリスとの修行で、二人で考えたものだ。
魔力がつき対策のしようもない時、二人が頼ったのは、最低限の〔身体強化〕のスキルと、己の体力であった。
そもそもシオンはサポート特化の人間であり、直接的な戦闘には向いていない。
だからこそ魔法が必須となるのだが、アリスとの修行では、そんな魔法という手段が没収され、ほとほと困り果てていた。
そんな二人に、アリスはこんなアドバイスを残したのだ。
『フワさんとガツさん、そんなに魔力多くないでしょ』
『え』
『まあ確かに……? でも、クラスでは多いほうだよ』
『それは人間の中ででしょ? ここからは、人間以外の種族がたくさん出てくる。そんなんじゃダメ』
『じゃあどうすればいいんだ!?』
『もっと体を使いなよ。人間なりに足掻いてみせて』
「難しいこと言うよなぁ!」
「ライアン!」
「わかってるって!」
ライアンが剣を構える。
一気に地面を踏み込み、そのままグリフォンに向かって突っ込んだ。
「ぐがぁ!」
「うおっ!」
ブレスーーもとい、衝撃波をグリフォンが飛ばし、間一髪のところでライアンが避ける。
それでもグリフォンは怯むことなく、立て続けに攻撃を仕掛けてくる。
パァンっ!
「が!?」
発砲音と共に、グリフォンの足に穴が空いた。
グリフォンが動きを止めた一瞬で、ライアンが思い切り切り掛かる。
「うおりゃっ!」
グリフォンの羽のほうを切り付け、切り傷を負わせた。
しかしその浅さに、ライアンは歯噛みする。
「ちくしょー、これじゃ止まってくれねえ!」
一方、それらを見ていたユリーカが、二人の変わりように目を見張る。
「二人共……凄く動けるようになってる……それに、シオンのあれは」
「魔力弾だよ」
アリスが横で、シオンの放った魔法について説明する。
「極微力の魔力を圧縮して、放つ。人間が使う銃と一緒。フワさんにも魔力なしの時の戦い方覚えてほしかったけど、それはまた次の機会に」
「す、凄い」
「やれるでしょ、カールさんも」
「……それ、私のこと?」
「前髪がカールしてるから」
「あなた変なあだ名つけるわよね」
そんな会話のキャッチボールをしつつ、ユリーカはグリフォンと向き合う。
(ちゃんと考えなきゃ……ライアンの一撃でも、グリフォンにダメージはぜんぜんいかない。じゃあ)
「アリスちゃん」
「なに?」
「ここら辺にいる魔物で、操れそうなのは?」
「……せいぜいBランク。すぐに散らされるよ?」
「構わないわ。抑え込めれば十分」
ユリーカはアリスに何かを囁く。
アリスはそれに、大きなため息で答えた。
「悪魔使いが荒いんだから……」
「よろしく!」
ユリーカが駆け出す。
アリスがツノを握り締め、魔物を呼び寄せた。
「みんな、お願い……!」
小さな魔物達が呼びかけに答え、グリフォンに集まる。
それを見て驚くシオンとライアンに、ユリーカが叫んだ。
「二人共! 全力でグリフォンに魔法で攻撃して!」
「ええ!?」
「いいから!」
「わ、わかったあ」
グリフォンが魔物達を蹴散らしている隙に、ライアンとシオンが魔法を発動する。
シオンがグリフォンの足元の地盤を割り、足を地面に埋める。
その瞬間、ライアンが炎魔法を発動した。
「フレイムタワー!!」
業火が巻き起こり、グリフォンを包む。
しかしこれにも微動だにせず、グリフォンは炎の中こちらを睨みつけたままだ。
そこにユリーカが走った。
「あれはまだ使えないーーだからっ!」
ユリーカが呪文を唱え出す。
「我が魔力よ、我が力に従いこの地に顕現せよ! 空から振りし見えぬ手に従え! グラビティ・フォール!」
長い詠唱の後、グリフォンが地面に叩き伏せられる。
「なにあれ!」
「魔法かっ!?」
「二人共っ……早くタコ殴りにして!」
「タコ殴り!?」
「いいよ、やる」
アリスがユリーカの後ろから出て、何やらブツブツと唱え出す。
十秒後、ユリーカの魔法が限界を迎えて解けた。
「やべーって!!」
「わーっ!?」
「抑えなきゃ抑えなきゃ!」
三人がかりで、グリフォンの動きをなんとかして止める。
二十秒が経過した。
グリフォンは三人を振り飛ばし、声高らかに叫ぶ。
「ぐわおおおおおおっ!!」
「も、もう無理だって!!」
「アリスちゃん!」
ーー三十秒経過。
「お帰り、我が眷属よ」
勢いを殺すように、アリスがそっとグリフォンに触れる。
アリスがそう呟いた瞬間、グリフォンが眩い光に覆われた。
そして、次に目を開いた瞬間、グリフォンは消え去っていた。
「え……」
「みんなありがとう」
アリスは呼び寄せた魔物達に礼を言う。
三人は状況が呑み込めず、まじまじとアリスを見つめた。
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