追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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アルスフォード編

第八十三話 ブラコン野郎

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「あ、アレクです。よろしくお願いします!」
「や~ん、かわいい~!」
「ほらこっち!」
「社長凄い子連れてきたねぇ。どっから攫ってきたの?」
「落ちてた」
「ウケる」

アレクは早速準備室に通され、知らない人達にもみくちゃにされる。
皆口々にアレクを褒め、ペタペタと体中を触りまくった。

「なるほど、サイズこのくらいね。じゃああれがいいかしら」
「ほら、アレク君。メイクするからここ座って!」

化粧台の前に座らされ、ヘアバンドを渡される。
恐る恐るそれをつければ、前髪がなくなって丸い額が現れる。
化粧師である女性が、アレクの顔を化粧水を含ませたコットンで拭いていく。

「うわっ、肌キレー。逸材だわこの子」
「ガブリエルさんと撮影でしょ? こりゃイイわ」

そんな会話を横目に、アレクはここで初めてガブリエルと撮影を行うことを知る。
会えるとは聞いていたが、まさか同じ仕事を行うことになるとは思いもしなかった。
下地を塗られながら、アレクは化粧師の女性に尋ねる。

「あの」
「なぁに?」
「ガブリエルさんの髪の毛って、紫ですか?」
「え? プラチナブロンドだけど」
「そうなんですね」
「紫の髪は見たことないなぁ。そんな人いるの?」
「聞いたことがあって」

(ガブリエルさんも、カラーリングしてるんだ)

髪と目の色を変える魔法。
これは、アレク達には必須の魔法となる。
紫の髪と瞳は、普通に生きていくには目立つ代物だ。
すると、アレクを連れてきた責任者が驚いた顔をして、こちらに確認を取る。

「その話、どこから聞いたんですか?」
「え? ただ、噂として……」
「そんな噂になってたのか。あの子の髪、本当は紫なんですよ。本人の希望でカラーリングしてますけどね」
「へ~! ガブリエルさんって、そんな髪の色だったんだ!」

化粧師の女性が、興味深げに頷く。
これにはアレクも驚いた。
本来の色を、こんなにも容易く言っていいものなのだろうか。

「目ぇ瞑って~」
「は、はい」

言われるが目を閉じれば、アイシャドウが塗られる。
アレクにはよくわからなかったが、何やら目元が華やかになった気がした。

「んでライン引いて~、睫毛上げて~」

テキパキと作業をこなしていく女性に、アレクは緊張で体をこわばらせたままである。
それに気づいたのか、責任者がアレクに声をかける。

「気楽に行きましょう。硬い表情じゃ、お客は惹かれない。私は君の、意志の強そうな瞳に可能性を感じたのです」
「そうだよ~! ほらっ、評判サイコーの口紅塗ってあげる!」

軽く指で、紅を滑らせる。
鏡の前に立つ自分は、まるで別人のようだった。

「うわっ、化けたねえ。元がよかったのも事実だけど」
「性別がわからなくなった。まあ、今回のコンセプトは天使。テーマ的にちょうどいい」

天使というワードに、心臓が跳ねる。
こちらは本物の天使であるため、コンセプトもなにもない。
はっはっと笑いながら、責任者は続けた。

「しかも提案したのはガブリエルさんだ。彼女がこんな案を持ち出すなんて、今までに一度もなかったことだよ。これは運命でも感じてしまうね」

その後、アレクは衣装や髪型を整え、撮影の準備を終えた。

「さあ、行きましょーう!」

テンションの高い女性に連れられ、アレクはそのまま撮影場に向かう。
そこにはカメラマンやスタッフと共に、ラフテル達が待っていた。
ナオはアレクを見つけると、目を輝かせて褒め称える。

「アレク様、すっごく綺麗です! 普段は可愛らしいので、雰囲気が変わりました!」
「僕もそう思う。似合うかな……?」
「似合います!!」

そこで、ラフテルが後ろから出てきて、アレクの手を取る。

「やっぱりアレクは綺麗だな。俺が見込んだだけある」
「なんかちょっと照れるね、それ」
「大丈夫だ、自信を待て」

ラフテルに励まされ、アレクは頷く。
一方、普段の双子からは考えられないほど反応のない彼らに、アレクは不思議に思う。
こういう時真っ先に飛びついてきそうなものだが。

「兄様、姉様?」

ガディ、エルル。
この二人は双子として生を受け、互いに対の存在として育ってきた。
細かな性格は違えど、本質的な部分は同じ。
つまり、両者はまごうことなくブラコンであった。

「無理……尊い……」
「死ぬ」

二人して限界オタクの出来上がりである。
口元を押さえて、最早泣きそうなまでの勢いでアレクを凝視していた。

「カメラ持ってくればよかった……」
「待って、アルスフォードのカメラってトリティカーナのより進んでるわよね? 写真もらえないかしら」
「撮りますよー」

撮影者の声掛けで、アレクがカメラの前に立つ。
アレク達トリティカーナの人間にとって、カメラというものはあまり馴染みがない。
こちらの国ではカメラは魔道具として扱われ、使用制限のあるものレアモノだ。
しかしアルスフォードはそもそも形状が違う。
精密な機械の如くごちゃついた構造に、大きなレンズが突出していた。

「ガブリエルさん入ります!」

誰かの声かけで、顔を上げる。
そこには、背の高く、抜けるような白さを持つ女性がいた。
女性はアレクを見つけると、酷く優しげに微笑んだ。

「待っていたよ、アレク。。とりあえず今は、撮影を済ませようか」
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