189 / 227
アルスフォード編
第八十三話 ブラコン野郎
しおりを挟む
「あ、アレクです。よろしくお願いします!」
「や~ん、かわいい~!」
「ほらこっち!」
「社長凄い子連れてきたねぇ。どっから攫ってきたの?」
「落ちてた」
「ウケる」
アレクは早速準備室に通され、知らない人達にもみくちゃにされる。
皆口々にアレクを褒め、ペタペタと体中を触りまくった。
「なるほど、サイズこのくらいね。じゃああれがいいかしら」
「ほら、アレク君。メイクするからここ座って!」
化粧台の前に座らされ、ヘアバンドを渡される。
恐る恐るそれをつければ、前髪がなくなって丸い額が現れる。
化粧師である女性が、アレクの顔を化粧水を含ませたコットンで拭いていく。
「うわっ、肌キレー。逸材だわこの子」
「ガブリエルさんと撮影でしょ? こりゃイイわ」
そんな会話を横目に、アレクはここで初めてガブリエルと撮影を行うことを知る。
会えるとは聞いていたが、まさか同じ仕事を行うことになるとは思いもしなかった。
下地を塗られながら、アレクは化粧師の女性に尋ねる。
「あの」
「なぁに?」
「ガブリエルさんの髪の毛って、紫ですか?」
「え? プラチナブロンドだけど」
「そうなんですね」
「紫の髪は見たことないなぁ。そんな人いるの?」
「聞いたことがあって」
(ガブリエルさんも、カラーリングしてるんだ)
髪と目の色を変える魔法。
これは、アレク達には必須の魔法となる。
紫の髪と瞳は、普通に生きていくには目立つ代物だ。
すると、アレクを連れてきた責任者が驚いた顔をして、こちらに確認を取る。
「その話、どこから聞いたんですか?」
「え? ただ、噂として……」
「そんな噂になってたのか。あの子の髪、本当は紫なんですよ。本人の希望でカラーリングしてますけどね」
「へ~! ガブリエルさんって、そんな髪の色だったんだ!」
化粧師の女性が、興味深げに頷く。
これにはアレクも驚いた。
本来の色を、こんなにも容易く言っていいものなのだろうか。
「目ぇ瞑って~」
「は、はい」
言われるが目を閉じれば、アイシャドウが塗られる。
アレクにはよくわからなかったが、何やら目元が華やかになった気がした。
「んでライン引いて~、睫毛上げて~」
テキパキと作業をこなしていく女性に、アレクは緊張で体をこわばらせたままである。
それに気づいたのか、責任者がアレクに声をかける。
「気楽に行きましょう。硬い表情じゃ、お客は惹かれない。私は君の、意志の強そうな瞳に可能性を感じたのです」
「そうだよ~! ほらっ、評判サイコーの口紅塗ってあげる!」
軽く指で、紅を滑らせる。
鏡の前に立つ自分は、まるで別人のようだった。
「うわっ、化けたねえ。元がよかったのも事実だけど」
「性別がわからなくなった。まあ、今回のコンセプトは天使。テーマ的にちょうどいい」
天使というワードに、心臓が跳ねる。
こちらは本物の天使であるため、コンセプトもなにもない。
はっはっと笑いながら、責任者は続けた。
「しかも提案したのはガブリエルさんだ。彼女がこんな案を持ち出すなんて、今までに一度もなかったことだよ。これは運命でも感じてしまうね」
その後、アレクは衣装や髪型を整え、撮影の準備を終えた。
「さあ、行きましょーう!」
テンションの高い女性に連れられ、アレクはそのまま撮影場に向かう。
そこにはカメラマンやスタッフと共に、ラフテル達が待っていた。
ナオはアレクを見つけると、目を輝かせて褒め称える。
「アレク様、すっごく綺麗です! 普段は可愛らしいので、雰囲気が変わりました!」
「僕もそう思う。似合うかな……?」
「似合います!!」
そこで、ラフテルが後ろから出てきて、アレクの手を取る。
「やっぱりアレクは綺麗だな。俺が見込んだだけある」
「なんかちょっと照れるね、それ」
「大丈夫だ、自信を待て」
ラフテルに励まされ、アレクは頷く。
一方、普段の双子からは考えられないほど反応のない彼らに、アレクは不思議に思う。
こういう時真っ先に飛びついてきそうなものだが。
「兄様、姉様?」
ガディ、エルル。
この二人は双子として生を受け、互いに対の存在として育ってきた。
細かな性格は違えど、本質的な部分は同じ。
つまり、両者はまごうことなくブラコンであった。
「無理……尊い……」
「死ぬ」
二人して限界オタクの出来上がりである。
口元を押さえて、最早泣きそうなまでの勢いでアレクを凝視していた。
「カメラ持ってくればよかった……」
「待って、アルスフォードのカメラってトリティカーナのより進んでるわよね? 写真もらえないかしら」
「撮りますよー」
撮影者の声掛けで、アレクがカメラの前に立つ。
アレク達トリティカーナの人間にとって、カメラというものはあまり馴染みがない。
こちらの国ではカメラは魔道具として扱われ、使用制限のあるものレアモノだ。
しかしアルスフォードはそもそも形状が違う。
精密な機械の如くごちゃついた構造に、大きなレンズが突出していた。
「ガブリエルさん入ります!」
誰かの声かけで、顔を上げる。
そこには、背の高く、抜けるような白さを持つ女性がいた。
女性はアレクを見つけると、酷く優しげに微笑んだ。
「待っていたよ、アレク。見えていた。とりあえず今は、撮影を済ませようか」
「や~ん、かわいい~!」
「ほらこっち!」
「社長凄い子連れてきたねぇ。どっから攫ってきたの?」
「落ちてた」
「ウケる」
アレクは早速準備室に通され、知らない人達にもみくちゃにされる。
皆口々にアレクを褒め、ペタペタと体中を触りまくった。
「なるほど、サイズこのくらいね。じゃああれがいいかしら」
「ほら、アレク君。メイクするからここ座って!」
化粧台の前に座らされ、ヘアバンドを渡される。
恐る恐るそれをつければ、前髪がなくなって丸い額が現れる。
化粧師である女性が、アレクの顔を化粧水を含ませたコットンで拭いていく。
「うわっ、肌キレー。逸材だわこの子」
「ガブリエルさんと撮影でしょ? こりゃイイわ」
そんな会話を横目に、アレクはここで初めてガブリエルと撮影を行うことを知る。
会えるとは聞いていたが、まさか同じ仕事を行うことになるとは思いもしなかった。
下地を塗られながら、アレクは化粧師の女性に尋ねる。
「あの」
「なぁに?」
「ガブリエルさんの髪の毛って、紫ですか?」
「え? プラチナブロンドだけど」
「そうなんですね」
「紫の髪は見たことないなぁ。そんな人いるの?」
「聞いたことがあって」
(ガブリエルさんも、カラーリングしてるんだ)
髪と目の色を変える魔法。
これは、アレク達には必須の魔法となる。
紫の髪と瞳は、普通に生きていくには目立つ代物だ。
すると、アレクを連れてきた責任者が驚いた顔をして、こちらに確認を取る。
「その話、どこから聞いたんですか?」
「え? ただ、噂として……」
「そんな噂になってたのか。あの子の髪、本当は紫なんですよ。本人の希望でカラーリングしてますけどね」
「へ~! ガブリエルさんって、そんな髪の色だったんだ!」
化粧師の女性が、興味深げに頷く。
これにはアレクも驚いた。
本来の色を、こんなにも容易く言っていいものなのだろうか。
「目ぇ瞑って~」
「は、はい」
言われるが目を閉じれば、アイシャドウが塗られる。
アレクにはよくわからなかったが、何やら目元が華やかになった気がした。
「んでライン引いて~、睫毛上げて~」
テキパキと作業をこなしていく女性に、アレクは緊張で体をこわばらせたままである。
それに気づいたのか、責任者がアレクに声をかける。
「気楽に行きましょう。硬い表情じゃ、お客は惹かれない。私は君の、意志の強そうな瞳に可能性を感じたのです」
「そうだよ~! ほらっ、評判サイコーの口紅塗ってあげる!」
軽く指で、紅を滑らせる。
鏡の前に立つ自分は、まるで別人のようだった。
「うわっ、化けたねえ。元がよかったのも事実だけど」
「性別がわからなくなった。まあ、今回のコンセプトは天使。テーマ的にちょうどいい」
天使というワードに、心臓が跳ねる。
こちらは本物の天使であるため、コンセプトもなにもない。
はっはっと笑いながら、責任者は続けた。
「しかも提案したのはガブリエルさんだ。彼女がこんな案を持ち出すなんて、今までに一度もなかったことだよ。これは運命でも感じてしまうね」
その後、アレクは衣装や髪型を整え、撮影の準備を終えた。
「さあ、行きましょーう!」
テンションの高い女性に連れられ、アレクはそのまま撮影場に向かう。
そこにはカメラマンやスタッフと共に、ラフテル達が待っていた。
ナオはアレクを見つけると、目を輝かせて褒め称える。
「アレク様、すっごく綺麗です! 普段は可愛らしいので、雰囲気が変わりました!」
「僕もそう思う。似合うかな……?」
「似合います!!」
そこで、ラフテルが後ろから出てきて、アレクの手を取る。
「やっぱりアレクは綺麗だな。俺が見込んだだけある」
「なんかちょっと照れるね、それ」
「大丈夫だ、自信を待て」
ラフテルに励まされ、アレクは頷く。
一方、普段の双子からは考えられないほど反応のない彼らに、アレクは不思議に思う。
こういう時真っ先に飛びついてきそうなものだが。
「兄様、姉様?」
ガディ、エルル。
この二人は双子として生を受け、互いに対の存在として育ってきた。
細かな性格は違えど、本質的な部分は同じ。
つまり、両者はまごうことなくブラコンであった。
「無理……尊い……」
「死ぬ」
二人して限界オタクの出来上がりである。
口元を押さえて、最早泣きそうなまでの勢いでアレクを凝視していた。
「カメラ持ってくればよかった……」
「待って、アルスフォードのカメラってトリティカーナのより進んでるわよね? 写真もらえないかしら」
「撮りますよー」
撮影者の声掛けで、アレクがカメラの前に立つ。
アレク達トリティカーナの人間にとって、カメラというものはあまり馴染みがない。
こちらの国ではカメラは魔道具として扱われ、使用制限のあるものレアモノだ。
しかしアルスフォードはそもそも形状が違う。
精密な機械の如くごちゃついた構造に、大きなレンズが突出していた。
「ガブリエルさん入ります!」
誰かの声かけで、顔を上げる。
そこには、背の高く、抜けるような白さを持つ女性がいた。
女性はアレクを見つけると、酷く優しげに微笑んだ。
「待っていたよ、アレク。見えていた。とりあえず今は、撮影を済ませようか」
0
お気に入りに追加
10,426
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……


双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。