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アルスフォード編

第八十話 傲慢

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ルイーズは、アレク達を自身の部屋へと案内した。
ルイーズの部屋は研究品だらけであり、足の踏み場がないほどに荒らされている。

「ふむ……つまり、この髪と目にかかる魔法はカラーリングで、本来は紫なんだな?」

ルイーズはガーベラに似ていた。
いい意味でも、悪い意味でも。
彼女ほどの自由人、破天荒を、ナオは知らない。
この状況も必然と言えるのかもしれない。

「実物の天族を見るのは初めてでな、是非とも実験を……」
「は、離してください~!」
「アレクが! アレクがやられる!」
「薄汚い手を離せ変態野郎が!」
「やっぱり目を離したのがいけなかったのよそうね変態ってどこにでも沸いてくるものだもの」
「ガディさんとエルルさんが怖い~!」
「ねえこれどういう仕組み?」

ーーカオス。
その一言に尽きる。
アインバイル家きっての変人は、いとも簡単にこの状況をぐちゃぐちゃにしてしまった。
ナオが恐る恐る「あの~……」と声をかける。
全員聞いちゃいない。
そこで、横にいたラフテルがブチギレた。

「姉上!! いい加減にしてくれ!! 俺の恩人だって言ってるだろ!!」

そのあまりの大声に、ピタリと全員の動きが止まる。
ルイーズは珍しいものを見るかのように、ラフテルを凝視した。

「おお。怒った」
「姉上……俺だって怒る。ひとまずアレクを離せ」
「貴重な実験体だぞ?」
「やめろ」

渋々、といった様子で、ルイーズはアレクを離す。

「た、助かった」
「じゃあこいつはどうだ? こいつ、変な魔力をしている」

ルイーズが次に捕まえたのはアリスだった。
急に手を掴まれたアリスが、警戒のあまり髪の毛を逆立たせる。

「フーッ!」
「あ、アリス!」
「とにかく、駄目と言ったら駄目だ! 触るの禁止!」

ラフテルに禁止宣言を出され、ルイーズはいじけて背を向ける。

「何なんだ。これこそ人類の発展に繋がるというのに」
「やめてくれ本当に。つまみ出すぞ姉上」
「当主権限で?」
「……まだ当主じゃない」
「ほぼ当主みたいなものだろ」

勢いよく白衣を翻すと、ルイーズは回転椅子に深く腰掛けた。
こちらを見下ろす姿はやけに様になっている。

「で? 客人達よ。何が目的だ」

アレクは前に出て、ルイーズにことの事情を説明した。

「……というわけで、ガブリエルを探しているんです」
「ふぅん。ガブリエルの構造は知らないが、設計図ならあるぞ。ナオのもな」
「えっ」

咄嗟にナオは、自身の体を隠すように抱きしめた。

「流石にそれは恥ずかしいといいますか……」
「人形の基準ってわかんないものだな!」

ライアンの発言に、ユリーカはデリカシーのなさを感じ取ったらしい。
すぐさまライアンの口を塞いだ。
もう慣れたものである。

「じゃあナオのはいいか。おい! 持ってこい!」

ルイーズの指示に従って、部屋に設置してあった機械が動き出す。
それを見たアレクが、思わずおお、と声を上げた。

「何だアレク。初めて見るか?」
「は、はい。アルスフォードって凄い」
「お前達はどこから来たんだ」
「トリティカーナです」
「ああ、あの魔法ばっかの」

どこか小馬鹿にするような物言いだったが、ラフテルが「姉上」と嗜めるように呼んだ。
ルイーズはわかりやすく首を竦める。

「わかっているさ。トリティカーナも素晴らしい国だ。だが私は、見ての通り科学者でね」
「はあ……」
「気が向いたらこちらに住んでみるといい。居心地が良いし、毎日が楽しい」
「それは姉上だからだろ。トリティカーナの魔道具もなかなかだぞ」
「お前とレオは、昔から魔法が好きだな」

レオ、という、死んだ兄の名を出され、ラフテルが微妙な表情となる。

「兄様は……そうだな、魔法が好きだったな」
「フン」

レオに関する話題は、姉弟共にあまりしない。
掘り下げないことが互いの共通認識であった。

「む、あったな」

機械がルイーズに向けて、紙束を差し出した。
ルイーズは紙束を受け取ると、表紙についているホコリを軽くはらう。

「これは昔の設計図の写しだ。ガーベラ本人が手がけたものは劣化していて、読めたものではなかったからな。ほら」
「ありがとうございます!」

設計図を手渡され、早速アレクはそれらを広げてみる。

「……なんか難しくてよくわからない」
「誰かわかる?」
「……」

科学に全く精通していない人間ばかりだ。
設計図を読み解くことは難しい。
しかもこれは、かの天才科学者ガーベラのもの。
それを読み解くことができる者など、この場で一人だけだろう。

「ルイーズさん」
「?」
「解説、お願いします」
「……愚鈍だな。だが、それがお前の可愛らしいところか?」
「姉上」
「怒るなよラフテル。ただの戯れだ」

椅子から立ち上がると、ルイーズは設計図をそのまま床に撒き散らす。

「いいか、一から全て説明してやる。耳の穴かっぽじってよく聞け」
「この人本当に貴族令嬢なんですか」
「そのはずなんだけどな……」
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