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アルスフォード編
第七十六話 消えた繋がり
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時は進みーーアレク達へと移る。
ポルカによる妖精の布の調整が終わり、凄まじい速度でポルカは服を作っていく。
その間、待たされているアレク以外はお使いに出された。
特に再び遠くへのお使いを任されたラフテル達は、面倒臭そうにしていたが、ポルカに文句を言うことはできない。
皆が出ていった後、細かい調整を何度も繰り返し、ポルカはできた服をアレクに渡した。
「ほれ」
「うわぁ……綺麗!」
「早く着るといい」
「はい!」
ポルカに促されるがまま、アレクは渡された服へと袖を通す。
自分のためにあつらえた服。
それは思った以上に体に馴染んで、普段の何倍もの動きやすさを感じた。
「どっ、どうですかね……?」
「ほほぅ。いいのう、いいのう」
アレクが服を着てポルカの前に立てば、満足げにポルカは笑う。
「それの名前は、差し詰め……単純だが、『妖精の服』とでも言おうかのぅ。妖精達がお前さんのために編んだ、特別性の布じゃ」
「そうだったんですね……!」
「それは普段着の下にでも着るといい。伸縮自在じゃ」
「はい!」
その時、シオンとアリスが家へと戻ってきた。
ポルカに言われていた、木の実の調達が終わったらしい。
「わあ! アレク君、それ!」
「うん。ポルカさんが作ってくれたやつ」
「綺麗~!」
虹色の光沢を放つ布に、シオンは目を輝かせる。
一方、アリスは若干その布の存在感に引いていた。
「お兄さん……それ、凄いね」
「え? うん」
「なんて言うか……もう、うん。すっごい」
「そ、そんなに?」
「世界で一番凄い服なんじゃない?」
「それは言い過ぎだと思うけど」
「少なくとも、悪魔にとってはそうだと思う」
アリスは薄目でその布をチラリと見ると、すぐさまシオンの後ろに隠れてしまった。
「さて。木の実も貰ったことだし、パイでも作るかのぅ」
「パイ! 楽しみです!」
「やったあパイだ!」
アレクとシオンが手を合わせて喜ぶ。
心なしかアリスも嬉しそうだ。
それもそのはず、ポルカが作る手料理は絶品だ。
鼻歌を歌い出す勢いで喜んでいた、その時だった。
「ーーあ」
アレクが感じたのは、唐突なまでの違和感だった。
まるで確かにあった繋がりを、断たれたような感覚。
この違和感を何と表現すべきかはわからない。
しかし、確かに失われたと感じた。
「えっ……あっ……」
「アレク君? どうしたの?」
キョトンとして、横に並んでいたシオンが話しかけてくる。
「シオン……」
「……何かあった?」
心配げにこちらを見てくるシオンに、アレクは咄嗟にこんなことを口にする。
「スキャリー、呼んで」
「う、うん」
シオンが言われるがまま、召喚獣であるスキャリーを召喚する。
いつ見ても愛らしいウサギボディだ。
だが、スキャリーは主人とアレクを目にした瞬間、何かを訴えかけるように鳴き始めた。
「キュ! キュッキュッ……キューッ!」
「スキャリー? なに、何が」
「キューッ!」
スキャリーはどうやら、アレクに叫んでいるらしい。
いつもなら、通訳となる他の召喚獣がいる。
アレクの呼びかけに、彼らは応答しない。
違和感の正体がわかった気がした。
「アレク君!?」
アレクが弾かれたように、ポルカの家から飛び出した。
それをすぐさまアリスが追う。
「お兄さん! どこ行くの……っ!」
アリスが目を見開く。
アリスも気がついたのだろう。
「あっちから、天族の匂いがする!」
アリスが示す方向へと進めば、そこには血塗れの誰かが立っていた。
「……ティファン」
「やあ、久しぶり。こんな格好で悪いね」
ひらひらと力なく彼は手を振ると、視線をアレクからアリスに移す。
「悪魔の娘……こんなところにいたんだ」
「っ、ティファン!!」
憎々しげに、アリスはティファンに向かって叫ぶ。
しかし、ティファンはどこ吹く風といった様子で取り合おうとしない。
それどころか、アレクに会えたことによる歓喜に襲われている。
「アレク……ちょっとこっちに」
「行かない」
強い言葉で拒絶され、ティファンは寂しそうに手を下ろす。
アレクは声を震わせ、ティファンに問いかけた。
「ティファン……クリアを……リルを、サファを! どこにやったの!」
「これのことかい?」
ティファンが手にしているのは、淡い色味の玉。
そこから放たれる気配に、アレクは動揺する。
「それ……」
「うん。封印させてもらった。邪魔だったからね」
「このっ!」
アレクが玉を奪い返そうとすると、横から何かが飛んでくる。
「うっ!?」
がしりと体を拘束され、空へと浮上する。
アレクを誰かが捕まえていた。
「!?」
アレクは自身を捕らえている者の姿を見て、眩暈がした。
大きな鳥のような翼。
白色のそれは、力強く羽ばたいていた。
「羽……」
「キェーッ!」
どこからか甲高い声が響いたと思うと、アレク達に向かって魔物が突進してくる。
翼を持つ者は、その衝撃でアレクを落とした。
「くっ」
アレクは風魔法を展開し、クッションにすることで怪我を免れる。
アリスの手に、自身のツノが握られていた。
「ううぅ……!」
「アリス……」
アリスがツノで操作したであろう魔物達が、ティファン達を取り囲んでいる。
その鋭い眼光に、ティファンは肩を竦めた。
「しょうがないね。ベータ。連れていって」
「はっ」
「待て!」
ティファン達が逃げようとしたので、アリスが魔物をけしかけ足止めしようとする。
しかし、ベータと呼ばれた者がティファンを抱き上げ、早々に飛び去ってしまった。
「……うううううううっ!!」
「アリス!?」
アリスが何かに耐えるように唸る。
その目には涙が滲んでいた。
「ティファン……! お父様の仇! 絶対、絶対許せない!」
「………」
気づけば魔物達は消えていた。
アリスから放たれる圧倒的な覇気に、怯んだようだった。
アレクはアリスを抱き寄せ、ティファン達が飛び去ったほうを睨む。
「みんな……待ってて。僕が絶対、助けるから……!」
ポルカによる妖精の布の調整が終わり、凄まじい速度でポルカは服を作っていく。
その間、待たされているアレク以外はお使いに出された。
特に再び遠くへのお使いを任されたラフテル達は、面倒臭そうにしていたが、ポルカに文句を言うことはできない。
皆が出ていった後、細かい調整を何度も繰り返し、ポルカはできた服をアレクに渡した。
「ほれ」
「うわぁ……綺麗!」
「早く着るといい」
「はい!」
ポルカに促されるがまま、アレクは渡された服へと袖を通す。
自分のためにあつらえた服。
それは思った以上に体に馴染んで、普段の何倍もの動きやすさを感じた。
「どっ、どうですかね……?」
「ほほぅ。いいのう、いいのう」
アレクが服を着てポルカの前に立てば、満足げにポルカは笑う。
「それの名前は、差し詰め……単純だが、『妖精の服』とでも言おうかのぅ。妖精達がお前さんのために編んだ、特別性の布じゃ」
「そうだったんですね……!」
「それは普段着の下にでも着るといい。伸縮自在じゃ」
「はい!」
その時、シオンとアリスが家へと戻ってきた。
ポルカに言われていた、木の実の調達が終わったらしい。
「わあ! アレク君、それ!」
「うん。ポルカさんが作ってくれたやつ」
「綺麗~!」
虹色の光沢を放つ布に、シオンは目を輝かせる。
一方、アリスは若干その布の存在感に引いていた。
「お兄さん……それ、凄いね」
「え? うん」
「なんて言うか……もう、うん。すっごい」
「そ、そんなに?」
「世界で一番凄い服なんじゃない?」
「それは言い過ぎだと思うけど」
「少なくとも、悪魔にとってはそうだと思う」
アリスは薄目でその布をチラリと見ると、すぐさまシオンの後ろに隠れてしまった。
「さて。木の実も貰ったことだし、パイでも作るかのぅ」
「パイ! 楽しみです!」
「やったあパイだ!」
アレクとシオンが手を合わせて喜ぶ。
心なしかアリスも嬉しそうだ。
それもそのはず、ポルカが作る手料理は絶品だ。
鼻歌を歌い出す勢いで喜んでいた、その時だった。
「ーーあ」
アレクが感じたのは、唐突なまでの違和感だった。
まるで確かにあった繋がりを、断たれたような感覚。
この違和感を何と表現すべきかはわからない。
しかし、確かに失われたと感じた。
「えっ……あっ……」
「アレク君? どうしたの?」
キョトンとして、横に並んでいたシオンが話しかけてくる。
「シオン……」
「……何かあった?」
心配げにこちらを見てくるシオンに、アレクは咄嗟にこんなことを口にする。
「スキャリー、呼んで」
「う、うん」
シオンが言われるがまま、召喚獣であるスキャリーを召喚する。
いつ見ても愛らしいウサギボディだ。
だが、スキャリーは主人とアレクを目にした瞬間、何かを訴えかけるように鳴き始めた。
「キュ! キュッキュッ……キューッ!」
「スキャリー? なに、何が」
「キューッ!」
スキャリーはどうやら、アレクに叫んでいるらしい。
いつもなら、通訳となる他の召喚獣がいる。
アレクの呼びかけに、彼らは応答しない。
違和感の正体がわかった気がした。
「アレク君!?」
アレクが弾かれたように、ポルカの家から飛び出した。
それをすぐさまアリスが追う。
「お兄さん! どこ行くの……っ!」
アリスが目を見開く。
アリスも気がついたのだろう。
「あっちから、天族の匂いがする!」
アリスが示す方向へと進めば、そこには血塗れの誰かが立っていた。
「……ティファン」
「やあ、久しぶり。こんな格好で悪いね」
ひらひらと力なく彼は手を振ると、視線をアレクからアリスに移す。
「悪魔の娘……こんなところにいたんだ」
「っ、ティファン!!」
憎々しげに、アリスはティファンに向かって叫ぶ。
しかし、ティファンはどこ吹く風といった様子で取り合おうとしない。
それどころか、アレクに会えたことによる歓喜に襲われている。
「アレク……ちょっとこっちに」
「行かない」
強い言葉で拒絶され、ティファンは寂しそうに手を下ろす。
アレクは声を震わせ、ティファンに問いかけた。
「ティファン……クリアを……リルを、サファを! どこにやったの!」
「これのことかい?」
ティファンが手にしているのは、淡い色味の玉。
そこから放たれる気配に、アレクは動揺する。
「それ……」
「うん。封印させてもらった。邪魔だったからね」
「このっ!」
アレクが玉を奪い返そうとすると、横から何かが飛んでくる。
「うっ!?」
がしりと体を拘束され、空へと浮上する。
アレクを誰かが捕まえていた。
「!?」
アレクは自身を捕らえている者の姿を見て、眩暈がした。
大きな鳥のような翼。
白色のそれは、力強く羽ばたいていた。
「羽……」
「キェーッ!」
どこからか甲高い声が響いたと思うと、アレク達に向かって魔物が突進してくる。
翼を持つ者は、その衝撃でアレクを落とした。
「くっ」
アレクは風魔法を展開し、クッションにすることで怪我を免れる。
アリスの手に、自身のツノが握られていた。
「ううぅ……!」
「アリス……」
アリスがツノで操作したであろう魔物達が、ティファン達を取り囲んでいる。
その鋭い眼光に、ティファンは肩を竦めた。
「しょうがないね。ベータ。連れていって」
「はっ」
「待て!」
ティファン達が逃げようとしたので、アリスが魔物をけしかけ足止めしようとする。
しかし、ベータと呼ばれた者がティファンを抱き上げ、早々に飛び去ってしまった。
「……うううううううっ!!」
「アリス!?」
アリスが何かに耐えるように唸る。
その目には涙が滲んでいた。
「ティファン……! お父様の仇! 絶対、絶対許せない!」
「………」
気づけば魔物達は消えていた。
アリスから放たれる圧倒的な覇気に、怯んだようだった。
アレクはアリスを抱き寄せ、ティファン達が飛び去ったほうを睨む。
「みんな……待ってて。僕が絶対、助けるから……!」
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