上 下
177 / 227
アルスフォード編

第七十一話 気づきと聞き分け

しおりを挟む
ガディとエルルは、魔法書の置いてある店を片っ端から探した。
しかし魔法書が偶然見つかりはすれど、関係のない魔法内容ばかり。
二人は途方に暮れる羽目となった。

「どうする……八方塞がりだぞ……」
「待って落ち着いて。何か打開策があるはず」

二人が顔を見合わせてしかめ面をしていれば、そこに子供が駆け寄ってくる。

「にーちゃん達、どこから来たの?」
「……トリティカーナ」
「トリティカーナ? めっちゃ遠いじゃん! 魔法使える? 使える?」
「あ、ああ」
「すごーっ! 使ってよ!」

子供から急かされ、ガディが水の魔法を利用して虹を作り出す。
子供はキラキラと目を輝かせた。

「うおーっ! きれーっ!」
「あっ、てっちゃんずるーい!」
「うわっ、おねーさんちょう美人!」
「イケメンッ!」

ワイワイと子供が集まってきた。
子供達にもみくちゃにされながらも、ガディとエルルは何度も魔法をせがまれた。
パフォーマンスとしていくつか披露していると、その中の内の一人が口を開く。

「あのねー、俺も魔法使えるんだっ。俺だけなんだぞ? すごいだろー」
「あ、ああ……」

トリティカーナでは、魔法が使えることは一般的だ。
しかしここ、アルスフォードでは、魔法の使える人口は極端に少ない。
少年のような存在は稀と言えた。

「見ててよー。ほら!」

少年がパッと手を広げると、陰絵のようなものが出現する。
それが奇妙な声で喋り出したものだから、ガディとエルルは非常に困惑した。

「ねえ、あなた」
「おねーちゃん、凄いだろ?」
「ええ、凄いわ。魔法書を読んだの?」
「魔法書……? 読んでないよ。俺が使えるの、光魔法と闇魔法だけだもん」

これまた珍しい属性だ。
エルルは更に追求する。

「陰絵が喋ってるのは?」
「んーと、光魔法!」
「光魔法で……?」

光魔法とは、かなり未知な部分の多い魔法属性である。
闇魔法と並んで謎の属性であり、その範囲は解明されていない。
単に明暗を操るだけではなく、それは多岐に渡って活躍する。
世界的に有名な魔法使いの中で、それらの属性のみを扱う者すらいるほどだ。
そういえばアレクは、光魔法の応用だと言って、空気振動の魔法を会得していた。

「そうね……応用って大事よね」
「エルル、何か掴んだか」
「ええ」

(魔力を捕まえる。そのためにはまず、細かい魔力の粒子を読み取らなくちゃならない)

三十年前の魔力。
それはもはや、残っているかもわからない代物。
しかし過去には必ずあったもの。

「ガディ」
「何だ」
「男は〔過去視〕、女は〔未来視〕だったわよね」
「……まさか」
「私達は、過去を視ることも、未来を視ることもできない。でも、それらに通ずることはできるんじゃないのかしら」

(そうだ。私達だって、エルミア様の子孫でーーアレクの兄と姉だ)

「ガディ。このネックレスについている魔力、〔過去視〕に通ずる力で蘇らせてみてよ」
「っ、言いやがったな……!」

無茶振りだ。できっこない。
否定の言葉はいくらでも言えた。
しかしガディは、胸の内に誤魔化しようのない高揚を覚えていた。

(俺達も進める……! もっと強くなれる!)

技の習得速度。
それらは個人の才能に依存しながらも、人によって異なる。
しかし、はっきりとわかっているのはーー見本があるのとないのとでは、歴然とした差が生まれる。

「下がってろ」
「おにーさん達、何かするの?」
「こっからショーでも見せてやるよ」
「やったね!」

ガディに促され、子供達は一歩下がる。
ガディはネックレスに向かって、一気に魔力を集中させた。

(思い出せ! アレクが〔過去視〕使ってた時の、あの異様な雰囲気を! 肌の色が変わるみたいな、あの違和感……あれが俺の成長を促すはずだ!)

魔力が可視化できるほどに濃く、大きく広がる。
普段はあまり有効活用されることのない、底の底ほどの魔力を引き出す。

(俺じゃアレクには及ばない! なら、その少しでもコピーしてみろ!)

「うおおおおおおっ!」

魔石のネックレスには、雑念が多すぎた。
造り手の魔力を引き出すには、あまりに酷すぎる有り様。
その雑念を、時を戻すことで取り払う。
ここでガディの天賦の才と、運命の女神が微笑んだ。

「見つけたっ!」

邪魔なものが取り払われ、ようやく生み出された
エルルはガディの期待に応えるが如く、逃すことなくそれを掴んだ。

「癖のある魔力ね……! だけど捕らえたわよっ!」

すぐさまエルルは、掴んだ魔力を保存するために自らの魔力へと混ぜる。
エルルの目には、製作者へと続く道が真っ直ぐに示されていた。
自らの勝ち取った勝利に酔いしれるように息を吐くと、子供達から歓声が上がる。

「すっげ! すっげ! 何だ今の!」
「ぶわって! ぶわーって!」

キャアキャアと騒ぐ子供達を前に、毒気が抜かれるような心地となる。

「……行くか」
「そうね」
「あれ? おにーちゃんとおねーちゃん、どこかに行くの?」
「ああ」
「そっかあ。ありがとー!」
「こちらこそ」

子供達の見送りの元、ガディとエルルは王都を出た。
二人は自らに〔身体強化〕をかけ、声掛けをする。

「行くぞっ」
「置いてかれないでよ?」
「馬力は俺の方が上だ」
「単純なスピードなら私のほうが先よ」

二人はグッと地面を蹴り、そのまま〔追跡〕の示すほうへと走り出した。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

実力主義に拾われた鑑定士 奴隷扱いだった母国を捨てて、敵国の英雄はじめました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,365pt お気に入り:16,603

赤ちゃん竜のお世話係に任命されました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:1,133

さようなら竜生 外伝

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:594

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:48,942pt お気に入り:2,117

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:107

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:2,848

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。