追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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アルスフォード編

第四十八話 根強い自虐

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アレクはラフテル達と別れ、女性に言われた子供を探し続けていた。
もはや兄と姉に会うのは二の次となっており、アレクの心に、女性の叫びが響き続ける。

「助けなきゃ……助けなきゃ……!」

燃え盛る空気が痛い。
肺に入る度、身体中が焼け切れそうになる。
島中が燃え、建物が崩壊した様をまざまざと見せつけられ、アレクはその凄まじさに顔を歪めた。

「こんなに酷いんだ……魔物の被害って……」

アレクが魔物を討伐する際には、必ずガディとエルルが近くにいた。
それにクーヴェルの庇護下にあったのもあり、危険が及ぶ前に魔物を退治できたのだ。
しかし、力無い無辜むこの民の合う残酷さは、幼いアレクにとって大きな衝撃を残した。

「!」

建物の下敷きになり、必死になってこちらへ手を伸ばす子供が見える。
アレクは子供に慌てて駆け寄り、声をかけた。

「しっかりして! 絶対……絶対助けるから!」
「痛いよぉ……痛い、苦しいよぉ」

弱々しく泣き続ける子供に治癒魔法をかけようとするも、子供の様子を見て断念する。
子供の足に、大きな木の破片が突き刺さっていた。
このまま治癒してしまえば、破片を含んで傷口が塞がってしまう。
とにかく子供を、建物の下から引っ張り出さなくては。

「もう少しだけ辛抱して……」
「うぅ」

魔法を唱え、子供を潰している建物をどかしてみせる。
障害物がなくなったところで、どこからか現れた魔物が攻撃を仕掛けてきた。

「キィイイイッ!」
「あっ!」

魔物が大きく口を開け、炎の球を発射する。
アレクは咄嗟に子供を抱え込んだ。

「うわぁあああああああっ!!」

爆発音と共に、軽い体が吹き飛ばされる。
子供を抱えたまま地面に転がるが、アレクは子供の無事を確認した。

「大丈夫……?」
「お、お姉ちゃん、背中」
「このくらい、へっちゃらさ」

アレクの背中は、炎の球を直で食らったことで焼け爛れてしまった。
しかし子供を不安にさせまいと、アレクは無理やりにでも笑って見せる。

「それに……このくらいの痛みなら、まだ」

治癒魔法を使うのには、多大な集中力が必要とされる。
大怪我を負うと痛覚が正面に現れ、治癒魔法を使えなくなることこそが、ヒーラー役の欠点であった。
アレクは何とか歯を食い縛り、簡易的に唱えた治癒魔法で軽く背中を治癒する。

「……よしっ」
「キィイイイッ!」

魔物が再び攻撃をしてくる。
対処しようとアレクが振り向いた瞬間、魔物が真っ二つに切り裂かれた。

「あーー」
「無事か! アレク!」
「ラフテル!」

剣を構えたラフテルが、アレクの前に着陸する。
子供の傷口を見て、現状を把握したらしい。

「アレク。押さえてるから、やれ」

子供を拘束し、ラフテルはアレクにそう促した。
アレクは力強く頷くと、子供に向かってそっと囁く。

「ごめん……痛いけど、我慢してね。大丈夫、絶対治すから」
「おっ、お姉ちゃん。怖い」
「手、握っててあげる」

泣き出しそうな子供の手を握ると、アレクは子供の足からそっと木片を引き抜いた。

「いたぁい~~っ!」
「エクストラヒール!」

子供が痛みに泣き叫んだところで、アレクは治癒魔法を展開した。
子供の足が光に包まれ、完璧に治癒される。

「どう? 動ける?」
「……! 痛くないや!」
「よかった。お母さんのところに送っていくよ」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「ごめんね、僕男なんだ」
「え!」

恒例となったやり取りをしつつ、アレクは子供を背負おうとする。
しかしアレクの体は小さく、年的には子供とそう変わらない。
子供を背負えず、どうするべきかと悩んでいるところで、ナオが現れた。

「私がこの子を連れていきます」
「ナオさん……」
「アレク様。ご主人様を、お願いします」

ナオはそう言って子供を背負うと、かなりのスピードで走っていった。
アレクの出したボートで待っている、母親の元へ向かったのだろう。
一方、先程別れを告げたアレクは、少し気まずい思いをしながらもラフテルの顔を見る。

「ラフテル……来てくれたんだね」
「……魔物を倒すぞ、アレク」
「う、うんっ」

島の全域を確認したわけではないので、どのくらい魔物がいるかはわからない。
しかし空を見る限りでも、翼を持つ魔物が何匹も飛び回っていた。
アレクは早速魔法を展開すると、空へ向かって雷魔法を打ち出した。

「サンダーシュート!」

ピシャアンッ! と雷が打ち出され、直接攻撃を受けた魔物が空から落ちてくる。
ラフテルが地面を蹴って駆け出し、それらの魔物を両断した。

「アレク……お前、凄いな!」
「ええっ、僕はそんなっ……ラフテルが凄いんだよ」

互いに褒め合い、二人はミル島の奥へと突き進む。
その時だった。
洪水のような勢いで水がこちらにやってくる。
あまりに急なことに対応できず、アレクとラフテルはそのまま水に撒かれた。

「ごぼぼぼぼっ」

(マズい……溺れる……!)

そんなラフテルの手を辛うじて掴み、アレクは水中から顔を出した。

「げほっ! えっほ」
「ラフテル、しっかりして! このまま抜け出すから!」
「お前何で平気なんだ……」
「慣れてる!」

アレクは地面から木を生やすと、自身とラフテルを上へと押し上げた。
洪水はそのまま島の外へと続き、島に残った魔物を海へと押し流している。

「兄様だ……」
「へ?」
「多分、兄様だ。水魔法得意だもん」
「お前の兄、無茶苦茶だな……」
「普段ならこんなことしない。兄様……大丈夫かな」

精神的に参っている。
ギルドにいた男がそう言っていた。
もしかしたら、周りに気遣うほどの余裕すらない状況なのかもしれない。

「ラフテル、ごめんね」
「急になんだ」
「僕なんかのために、こんなことに付き合わせて」
「あのな……なんかなんかって言うけど、俺はアレクを助けたいって、自分で思ってここに来たんだぞ」
「でも、僕なんて迷惑かけてばっかりだし。ラフテルにも、こんな怪我させて」
「俺がお前のせいなんて思ってないことに、いい加減気づけ」
「ラフテルは……」
「しつこいぞ」

やがて水が引いていき、足場ができる。
アレクとラフテルは一旦木から降りた。

「いいかアレク。お前は凄い奴だ。俺が保証する」
「……僕は、凄くもなんともないよ。落ちこぼれだ」

アレクの強い自虐に、ラフテルはどうしたものかと考える。
こんなことをアレクに言ってほしかったわけではない。

「わかった。ここから「なんか」とか言ったら叩くからな」
「ええ! 叩くって……」
「とにかく、兄と姉を探すぞ」
「兄様と姉様、僕なんかと会って嬉しいかな……いてっ!」
「一ポイント。もっと叩くぞ」
「ごめんって……」

そんなやり取りをしながらも、アレクはラフテルに心を開きつつあった。
しかし島中を探すも、アレク達はガディとエルルに会うことは叶わなかった。

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