追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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アルスフォード編

第四十五話 涙ながらの願い

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「むっ、むっ、無理ですよぉ! 超大規模依頼中のっ、ガディ様とエルル様、レオ様に会うなんて!」
「無理じゃない。やるんだ。アレクを匿ってもらおう」
「匿うなんてより一層無茶なんです! 第一、超大規模依頼で出掛けてらっしゃるでしょう?」
「探そう。ギルドにいるかも」
「もー!」

聞き分けのないラフテルに、ナオは頬を膨らませて地団駄を踏む。
今度は困ったことをする弟を嗜めるような声音で、ナオはしっかりと現実を突きつけた。

「たとえ、ガディ様達にアレク様の現状が伝わったとして……それを解決する力がないから、屋敷にアレク様がいるんじゃないんですか」
「っ」
「思い出してください。あなた達もですが……ガディ様達も、子供なんですよ。レオ様は大人ですけど、他所の子供を構う暇なんてありません」

ラフテルは己の唇を噛み締め、静かにうつむく。
そんなラフテルに代わって、ナオがアレクに問いかけた。

「アレク様。アレク様は、お兄様達に屋敷を連れ出されたことはないんですか?」
「ある……」
「その時、どうなりました?」
「連れ戻されちゃって……怒られました。いっぱい、叩かれて」

辛い過去を思い出し、アレクの体が震え出す。
ナオも何も鬼ではない。
こんなに可愛らしいアレクを虐めたいわけではないのだ。

「ごめんなさい。ちょっと落ち着きましょうか」
「はい……」

アレクを椅子に座らせると、ナオはラフテルに目をやった。
どうやら一丁前に考えを巡らせているらしいラフテルに、ナオは呆れ顔である。

「いいですか。あなたはまだ無力です。自分じゃできることも少ないんです」
「うっ」
「それでも……アレク様を助けたいと思いますか」

ナオの試すような言いように、ラフテルは迷いなく頷いた。

「アレクを見捨てたくない」
「……はあ、しょうがないですねっ」

ナオはため息をつくも、すぐさま明るい表情に切り替えて笑った。

「わかりました! 仮にもご主人様のお守り人形マリオネットです。何とかしてみせましょう!」
「……! ありがとう、ナオ!」

感極まり、ラフテルがナオに抱きつく。
ナオは少しよろけながらも、ラフテルを受け止めた。

「さて、アレク様。よく聞いてください」
「は、はい」
「今から全力でお兄様達を追いかけます。ついてきますか」
「ええっ、でも、迷惑じゃ」
「こんなこと言った私が悪かったです。無理やりでも連れていきますっ」
「えええ~……」

あまりの強引さに、アレクは動揺しながらも嬉しそうであった。
ナオは外へと通じるドアを開け広げると、目を瞑って何かを唱える。
するとナオの体が光の粒となり、バイクのような形へ変化した。

『乗ってください! 飛ばしますよ!』
「う、嘘……! ナオさんが!」
「ナオはウチのお守り人形マリオネットなんだ。このくらい簡単さ」
「凄いっ」

ラフテルは興奮気味のアレクを後ろに乗せ、しっかりとハンドルを握り込んだ。
せっかく風呂へと入ったのに、また雨に濡れてしまう。
しかしラフテルにはもはやどうでもよかった。

「アレク! しっかり掴まってろよっ!」
「うん!」

ブォオンッ! と大きな音を立てて、バイクーーナオが走り出す。
過ぎゆく風の荒々しさに、アレクは思わずラフテルの腰を掴む手を強めた。
その感触に、ラフテルは思わず笑みをこぼす。

「なんだ……案外強いじゃないか」
「?」
「なんでもない」

バイクの風圧で声が聞こえなかったアレクが、不思議そうにラフテルを見上げる。
ラフテルはそれをいなすと、もっとナオのスピードを上げた。
ナオに乗っていけばあっという間にナハールの街へ辿り着き、ギルドまでは早かった。

「ここにいるといいんだが……」
『待ってますので、行ってきてください』
「わかった」

ナオをギルドの壁に立てかけ、アレクを連れてラフテルはギルドに入る。
いきなりずぶ濡れの子供が入ってきたので、ギルドは見慣れぬ影に騒然とした。

「おい! 坊主! ここに何のようだ? 冒険者希望ならやめとけ」
「ガディとエルルという者を知らないか」

二人の名前をラフテルが出せば、騒がしかったギルドが水を打ったかのように鎮まる。

「……あの双子か。二人なら、依頼でいないよ」
「その依頼というのはどこでやってるんだ」
「あんた達……そうか、まだ知らないのか」
「?」

反応の悪さにラフテルとアレクが首を傾げれば、話しかけてきた者がこんなことを口にした。

「超大規模依頼は十日前に終わってるよ」




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