追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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超大規模依頼編

第三十八話 商売相手

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新学期が始まり、アレク達は初等部から中等部へと学年が上がった。
何が変わったかと問われれば制服の色と、学業の難易度だろう。
定期的に行われる筆記テストを済ませた後、アレク達はテストについて話し合っていた。

「今回難しかったねー」
「え、アレク君も?」
「『も』ってことは……ユリーカも?」
「ええ」

ユリーカが真面目な顔をして頷いたので、アレクは大層驚いた。
ユリーカはアレク達の学年一の秀才であり、常に勉強を欠かさない勤勉な人物だ。
アレクも最初は一番の立ち位置にいたが、家にいた頃とは違い、勉強以外にやることが増えたので、最近は勉強を疎かにしがち。
とうとう前々回ほどのテストで、ユリーカに成績を抜かれ、現在はほどほどの順位に落ち着いている。

「ユリーカが難しかったのなら、本当に難易度上がってるんだろうなぁ……」
「うう、私全然わかんなかった」
「大丈夫よシオン。昨日あれだけ一緒に勉強したんだし」

凹みがちなシオンを慰めるユリーカが、「問題は」と続けて机に突っ伏したライアンを見つめる。

「ライアンよね」
「……大丈夫そう?」
「俺、多分赤点」
「やっぱり?」
「やっぱりってなんだよ」

ガバリと顔を上げ、ライアンは泣きそうな顔をしてテストへの苦情を連ねる。

「大体、教科書に載ってない問題出すなよ! 鬼か!? 俺、ノートしか勉強してなかったのに!」
「教科書に乗ってない問題なんて出たっけ」
「出たぞ! マンドラゴラのとこ!」
「あぁ~……」

確かに、ライアンの言うところは教科書に載っていなかった。
授業でマンドラゴラを扱う際に、担任のアリーシャが説明をしていたぐらいである。
実質満点を取らせないための、教師陣が用意した予防線のようなものだろう。

「でも、ライアン体力テスト凄く点数いいよね? 総合だったら何とかなるんじゃない?」
「……それ以上に基準値満たしてないんだぞ」
「ごめん」

筆記テストの後に行った体力テストでは、アレクが一番を押さえたものの、ライアンも次いで二番を取る成績だったはずだ。
しかしそれでも賄いきれなかったらしく、結果はまだ出ていないものの、ライアンは後ろ向きであった。
ライアンの懸念事項は、どうやら委員会にあるらしい。

「赤点取ったら委員会出れないじゃん! 絶対面倒な役割押しつけられる……!」
「そういえば、そろそろ委員会の時期だったわね」

アレク達の学年が上がったということは、新入生が入ってくるということ。
委員会の新たなメンバーを募集せねばならない。

「シオンの所の園芸委員はどう?」
「わ、私? 私はまあ、学園の庭園の手入れするくらいだから、そんなに人数必要としてないかな……ユリーカは? 演劇委員だったよね」
「私はこの時期から、文化祭でやる演目決めかな。去年は一騒動あってやれてないけど、今年こそはって先輩達が意気込んでるのよね。だから新入生はガバガバ捕まえるんじゃないかな」
「俺ら体育委員は実力重視だからなー。重いもの運ばなきゃならないし。最近先輩にパシられてばっかだぞ!」
「お疲れ様。アレク君は?」
「僕はどうだろうな。今年は人数絞ると思う」

そんな会話をしていた矢先に、アレクに向かって誰かが話しかけてきた。

「アレク君! ちょっといい?」
「あれ、ヴィエラちゃん」

アレクと同じ、魔法研究委員会に所属しているヴィエラだ。
他クラスからこちらにやってきたらしい。
焦った様子にアレクは首を傾げる。

「どうしたの?」
「あのね……! 私達の委員会に、交渉に来た商会がいるの!」
「交渉?」
「ロースウェスト商会じゃなくて、うちの商会と取引しないかって!」
「……ええええええ!」
「今っ、ベッキー先輩が対応してる! 行かなきゃ!」
「わ、わかった! ちょっと行ってくる!」

アレクとヴィエラが教室を飛び出して行くのを見届け、ライアンはポツリと一言呟いた。

「なーんか、大変そうだよなぁ」
「そうね。それはそうとライアン。今のうちに面倒見てあげるから、勉強するわよ」
「……マジで言ってる? 俺もう帰りたいんだけど」
「Bクラスに下がって、私達と一緒にいられなくなるわよ」
「お願いしますユリーカ様」

手のひらを返して頭を下げたライアンに、「よろしい」とユリーカは言った。

「シオンはどうする?」
「私も一緒にいようかな……生物学なら教えられそう」
「生物学嫌いだから頼むっ!」
「い、いいよ」
「よっしゃあ!」

ガッツポーズを取ったライアンは、早速ノートとペンを持って彼女らと向き合った。

◆ ◆ ◆

魔法研究委員会の委員長、ベッキーことレベッカは、委員会の教室に商会の者を招いていた。
とりあえずお茶を出し、商会の者の前に座ると、彼女も優雅にお茶を啜った。

「いつか、来るとは思っていましたわ」
「ええ。お久しぶりでございます。まさか話題の新薬を開発した学生が、レベッカ様だとは思いませんでした」
「いいえ、わたくしではありません。今は卒業なされましたが、わたくしの先輩が新薬を開発しましたの」
「おっと、失礼しました」

交渉に来た商会の男は、糸目を更に細めて笑った。
レベッカも愛想笑いを浮かべてみせるも、その場の雰囲気はよろしくない。
糸目の男は早速レベッカに話題を切り出す。

「単刀直入に言わせていただきます。レベッカ様。私達の商会と取引してくれはしませんか」
「………」
「学園長殿からお話は聞いています。かなり不当な取引に応じているそうではないですか。もうくだらない借金など、返し終えたのでしょう? あの商会と取引する利益などないはずです」
「お言葉ですが」

饒舌な男の口を、レベッカの一言が塞ぐ。

「あなたと取引して、こちらが無事でいられるとは思っておりませんのよ」
「ほう……それはどういう意味で?」
「そのままですわ。あなたはいささか優秀すぎる。気づけばその不当な取引とやらを、更に悪化させた結果でしてしまいそうですわ」
「ご冗談を」

レベッカの挑発的な態度を、男は軽く笑ってみせた。
そこでアレクとヴィエラが教室に到着する。

「失礼します! 魔法研究委員会所属、ヴィエラ・ケラトニウスと、アレク・サルトです!」
「ああ、お邪魔してるよ。レベッカ様。あなたの後輩で?」
「ええ。二人共、とてもいい子ですのよ」
「それは何より」

早くもその場の険悪さに気がついたアレクとヴィエラが、顔を見合わせる。

「どういう状況なんだろ……」
「悪い人なのかな……」
「あんなベッキー先輩初めて見た」

すると、糸目の男がアレク達に向かって口を開いた。

「自己紹介が遅れました。私、ルーウェン商会のラビンと申します。レベッカ様の婚約者です」
「「……婚約者!?」」

アレクとヴィエラの声が仲良く揃って響いた。
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