追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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超大規模依頼編

第二十ニ話 悪夢の再来

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わん、と、声が辺り一帯へ響く。
魔物達はその声を聞いてたちまち弾け飛んで行く。
ハウンドは魔物に荒らされた通路を駆けながら、大悪魔の元へ急いでいた。

「っ、そろそろマズくなってきた」

なるべく魔物の被害は事前に抑えたい。
町への被害は最小限に。
復興に時間がかかれば、民が苦しむ羽目になる。

「僕、再生の魔法使えないし……ああ、不甲斐ない」

ハウンドが嘆いていれば、ビュン、と凄い速度で何かがこちらへ飛んでくる。
それを避ければ、何かは一軒家へ突っ込んでいってしまった。
もうもうと上がる煙の中に、大悪魔の姿が見える。
壊されたくないと思った矢先に家はガラガラと崩れ、ハウンドは思わず口角をひくつかせる。

「あら、ハウンドじゃない」
「お前どこにいたんだ」

遅れてレンカとラフテルがこちらへやってくる。
どうやらどちらかが大悪魔を吹き飛ばしたようだった。
苦情の一つでも言いたいところだが、大悪魔が起き上がりハウンドへ襲い掛かる。

「近寄るな!」

ハウンドの声は即座に大悪魔を蝕み、体内を破壊する。
ぶしゅ、と耳から出た血に、大悪魔は至極不快そうな顔をした。

「っ……ハウンド! 範囲設定どうにかなんないの!?」

レンカがハウンドへ確かめるも、できるわけがない。
申し訳なさそうにハウンドは体を縮ませるばかりだ。

「す、すみません……」
「しょうがないわねっ、私が出る!」
「レンカ、前に出すぎるな。お前今片腕だぞ」
「うるさいわね堅物」

そんな言い合いを続ける三人に、大悪魔が構うことなく指を振り下ろす。
現れた新手の魔物の群勢に、ハウンドがすぅと息を吸い込んだ。

「いっ」

反射的にレンカが耳を塞いだ瞬間、ハウンドの叫びが魔物に直撃する。
魔物を消し飛ばしたハウンドに、ラフテルは感心して素直に褒める。

「ハウンドの攻撃は広範囲だな。便利だ」
「周りへの被害も出ますけどね……」

すると大悪魔が上空へ飛び、こちらを見下ろして「もういい」と言った。

「面倒だ。纏めて仕留めてしまおう」
「そんなこと言って、余裕ないんじゃないの?」

レンカが挑発をして笑う。
バカにするように八重歯を見せて、大悪魔に向かって高らかに。

「天気の魔物のほうがだんっぜん強かったわ。アンタには拍子抜け」

ピキリ、と大悪魔の額に青筋が浮かぶ。

「……そんなことをほざいていられるのは、今の内だと思い知るがいい」

大悪魔が何かを唱えた。
レンカの周りが一気に真っ暗になる。

「……闇魔法でも使ったのかしら」

警戒しつつ、視線を辺りに配らせる。
何もない。
恐ろしいほどに静かだ。

「レンカ」

誰かに名前を呼ばれ、振り返る。

「……は?」

そこには、死んだはずの仲間がいた。
レンカが救えなかった、過去の仲間が。

「どうした。ボーッとして。もうすぐ到着するぞ」
「え、アンタ、何で、ここどこ」
「何でって……今日はAランクの魔物の討伐依頼受けただろ? それに今は馬車で移動中。どうした、おかしいぞ」

おかしいのはそっちだ。
そう言おうとしたレンカだったが、どうしてそれがおかしいのかわからなくなってしまった。

「あ……えと、ごめん」
「気を引き締めろよ。俺達まだAランクに上がったばかりなんだから」
「うん」

何だか今日は調子が良くない。
レンカは自分の足を抱えて丸まった。





「ーー!」

辺りが真っ暗になったことに対して、ハウンドは酷く動揺した。

「うわっ、急になに。こわ……魔法か何か?」

手探りで何かないか探してみる。
ハウンドは声のスキルしか使えない。
とりあえず叫んでみるか、と息を吸い込む。

「ーー兄さん?」

我に返る。
こちらを妹が覗き込んでいた。
ここはどこだ。
なぜ妹は生きてここにいるのか。

「兄さん……どうしたの? 何か気になることでもあった?」
「あ、いや」
「それより、また仕事場で無茶したんだって? ダメだよ、働き詰めは。私のことなんて気にしないで」

そう言う妹に、ハウンドはすかさず否定を口にする。

「僕とお前の二人なんだぞ。僕らは魔法が使えないんだし……真っ当に働いて稼ぐしかないさ」
「第一! 搾られる一方のブラック工場なんて、やっていけないよ。労働者を下に見てる。やっぱり冒険者やろう」
「駄目だ! 何も技術がない僕らが冒険者なんて、そんな簡単にやっていいはずがないだろ!」

頭ごなしに否定するハウンドに、むっとして妹は頬を膨らませる。

「兄さん! このままじゃ何も変わらないのよ!」
「いいさ、このままでも。僕とお前が生きていけるだけの稼ぎはある」
「年々稼ぎは減ってるのに! 兄さん使い潰されて死んじゃうよ!」

ハウンドは妹の手を取ると、宥めすかすように言った。

「いいか? 兄さんは死なない。お前を残して死ねるもんか」
「……兄さん」
「もうご飯にしよう。今夜は奮発したからいいもの食べられるぞ」

ハウンドの言葉に、ゆっくりと妹が頷く。
これでいい。
妹と二人、協力して生きていけば、辛いことだって耐えられる。
少なくともこの時点では、ハウンドはそう思っていた。

◆ ◆ ◆

「レンカッ、ハウンド……!?」

大悪魔が何か唱えたと思えば、急に意識を失ってしまった二人にラフテルは呼びかける。
しかし二人からの反応はない。
そこへ大悪魔の興味深げな声が響いた。

「ほう。先程から貴様、魔法に耐性があるようだな」
「……何をした!」
「軽い精神魔法だよ。せいぜいトラウマを引っ掻き回すくらいだ。まあ悪夢からは戻ってこられないだろうが」
「っ!」

ラフテルは剣を握りなおすと、大悪魔と対峙する。

「二人へかけている魔法を解け……!」
「よかろう。貴様がこの我に勝てたのならな!」






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