追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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超大規模依頼編

第十四話 過去視の暴走

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ザザッザッザーーーー



ノイズのような雑音が入り混じり、その映像は始まった。
見えるのは、今より幼い兄と姉の姿。

「今回の超大規模依頼に参加する、ガディ・ムーンオルトとエルル・ムーンオルトだ」
「よろしくお願いします」

二人揃って頭を下げると、そこへヨークが面白そうに突っかかってくる。

「へえ。英雄家の双子か。最近SSSランクに昇格したってのにご苦労なこった」
「ちょっと。こんなお子様が戦えるわけ」

レンカの声だ。
鋭く刺々しい態度にムッとしたようで、エルルが反撃する。

「私達がお子様なら、あなたもそうだと思うけど? そんなに年離れてないでしょ」
「馬鹿ね、四つは年上よ」
「四つだけじゃない」

わあわあと言い合いを始めた二人だったが、「やめなさい」と誰かが仲裁に入った。

「こんな言い争いは無駄よ。どうか仲良くしてちょうだい。そのほうが私、嬉しいわ」
「ミーシャさん……」

あれがミーシャさんなんだ。
そう思った瞬間、アレクは己の意識を自覚した。

(え、あれ!? どうなってるの!?)

動揺も束の間、自分の体が透けていることにも気づく。
アレクの声も彼らには聞こえていないようだ。

(これってもしかして……過去視の暴走)

アレクの天族としての力を抑えていた精霊王が出て行った影響で、暴走しているのかもしれない。
アレクには過去視の制御はまだできないのだ。
一旦冷静になって辺りを見回せば、ここはどうやらギルドの一室であるようだった。
そして集められているのは、恐らく三年前の超大規模依頼に挑んだ者達。
そうなれば、注目がいくのはミーシャだ。
ミーシャは二十代ほどの、僧侶の女性であった。
穏やかな顔つきをしており、見ているこちらに安心感を与える。
すると、今まで動かなかったヨークが体を傾けて、レンカ達に釘を刺した。

「おい、俺の奥さんに迷惑かけるなよ。もし何かしたらただじゃすまさねえ」
「はいはい。わかったってば」

(奥さん!?)

まさかヨークの妻がミーシャであるとは知らなかった。
唖然とするアレクだったが、また新しい者が出てくる。

「今回の依頼内容について話すから、みんな席について!」
「悪いなレオ。よろしく頼む」

レオ、という名前には聞き覚えがある。
確かラフテルの兄だ。
ラフテルの淡々としたイメージとは違って、優男らしい見た目をしている。
ラフテルと同じように、超大規模依頼の助っ人としてやってきたのだろうか。

「えー、今回の超大規模依頼の内容は、天気の魔物の討伐! 天候を操って攻撃してくるらしいよ」
「その前に。ハウンドはどうしたんです」

手を上げたのは、これまたアレクの知らない人物だった。
魔導書を片手に眼鏡をしている、賢そうな男だ。
レオは呆れた様子でその問いに答えた。

「ハウンドなら、この前の依頼で足折って欠席だよ」
「何やってるんだか……自分、心配になってきましたよ」
「まあまあ。君がいるなら大丈夫だろ、アザール」

レオが笑いかけると、アザールと呼ばれた男は「そうですかね」と恥ずかしそうに言う。
そこでアレクは気づいた。
メンバー同士の空気がギスギスしていない。
確かにレンカは変わらずガディやエルルに厳しいが、今ほどの刺々しさは感じなかった。

「みんな気張っていこう。僕らは世界を救う勇者様だ。あ、ガディ君とエルルちゃん。君達、超大規模依頼初めてだよね? そんな緊張しなくていいよ。僕らが守ってあげるから」

どうやらレオがリーダー格らしい。
統率を取り、尚且つ二人に対するフォローも忘れていない。
ガディとエルルはどう反応していいのかわからないらしく、お互い顔を見合わせて困っていた。
そんな二人を見て、「う~ん」とレオは唸る。

「やっぱり僕って、励ますの向いてないみたい。ミーシャさんお願い」
「任せて!」

ミーシャは喜んで前に出ると、二人を思い切り抱きしめた。
突然のスキンシップに二人は目を白黒させる。

「おチビちゃん達! 大丈夫、きっと上手くいくわ! 私を信じて!」
「……チビっていうほど小さくないんですけど」
「あら、私から見たら子供はみぃんなおチビちゃんなのよ」

おチビちゃん、と呼ぶが、ミーシャには馬鹿にする様子はない。
寧ろ慈しむ者としての総称なのだとわかる。
それをガディとエルルも察したのか、黙ってされるがままにしている。

「ねえ、あなた達には守りたいものがあるんでしょう?」
「「!」」
「そうじゃなきゃここまで上がってこれないわ。あなた達の大切なものってなに?」
「……アレク」
「弟です」
「素敵ね。弟さんのためにも帰らなくちゃ」

ニコニコと愛嬌たっぷりに笑うミーシャに、アレクも胸が温かくなる。
だが、そこでふと思い出す。

(ミーシャさんは、死んじゃうんだよね……)

心臓が嫌な音を立てる。
そこで場面は切り替わりーー誰かが地に伏しているのが見えた。
魔導書が無惨に引き裂かれ、眼鏡は割れて粉々に。
それらを身につけていたアズールが、そばにいるミーシャに向かって途切れ途切れに何かを言っている。

「すみません……自分は役不足、だったようで」
「待って、待って……! 今、治癒魔法を」

必死になって治癒魔法を使おうとするミーシャの手を、血だらけになったアザールが止める。

「ミーシャさん……治すなら、どうか、あなたの愛しい人を」

アズールの横には、今にも死んでしまいそうなほどにボロボロになったヨークがいる。
魔力量的に回復できるのはどちらかだけ。
治癒魔法が使えるガディ、エルルはその場にいない。
ミーシャは涙をボロボロと流しながら、「ごめんなさい」と呟く。

「ごめんなさい……! 役不足は私もよ……!」
「いいんです。これが、自分達、冒険者ですから」

アズールはそれだけ言い残すと、静かに目を閉じた。
場面はまた、切り替わる。

「あんた達がもたついてたせいでアズールが死んだんじゃない! あんた達のせいよ!」

レンカがガディ達を責め立てる。
ガディ達は反論せず、レンカをじっと見つめていた。
ミーシャがそれを止めに入る。

「やめてレンカちゃん! 私のせいなのよ!」
「ミーシャさんっ……だって、こいつらが天気の魔物相手に気絶するから!」
「やめなよ……こんなことしたって、虚しいだけだ」

レオが力ない声で言った。
重々しい空気がその場を満たす。

「リベンジだ。行くぞ」

そう言ったヨークに、すぐさま全員頷いた。
場面はまた、切り替わる。

「っ、嘘だろ、おい……」

ヨークの絶句と共に始まる映像。
ヨークの前には、無惨な姿で死んでいるレオがいる。

「ちくしょう、何だってんだよ……こんな、こんなはずじゃ」

場面はまた、切り替わる。

「ミーシャさんっ、ミーシャさんっ……」
「ごめんなさっ、ごめんなさいっ……」

掠れた声で泣くガディとエルルの前に、ミーシャが倒れていた。
ミーシャは二人を見て安心したように微笑むと、動かなくなった。

「ーーっ」

慟哭が、空へと響く。

場面がまた、切り替わる。
場面がまた、切り替わる。
場面がまた、切り替わる。
場面がまた、切り替わる。
場面が、場面が、場面が、場面がーー
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