追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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超大規模依頼編

第十三話 朝が明けて

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その日は避難所の人達の好意で、アレク達は避難所に泊まらせてもらうこととなった。
「こんな狭いところで申し訳ない」と村長は口にしていたが、どちらにせよ野宿の予定だったので、ありがたいことには変わりない。
そして次の日、日が出る前に大悪魔が向かったであろう南のほうへ出発した。

「姉様達も同じ方向に進んでるのかな」
「そうだろうよ。アレクの姉はスキル持ちだ。正しい方向に進んでる」

隣に座って答えたラフテルに、アレクは「でも」と続ける。

「僕達の行く方向が間違ってたら台無しじゃない?」
「………」
「やっぱりどこで合流するかぐらい、決めておいたほうがよかったね」

ラフテルはわかりやすくため息をつくと、レンカに向かって視線をやった。

「何よ。私のせいだって言いたいわけ」
「おおかたそうだろ」
「コイツ」
「やめてくださいよ。ただでさえ揺れるの苦手なんですから……」

馬車の操縦士のハウンドが、迷惑そうにこちらへ振り返ってきた。
アレクは今にも喧嘩になりそうな二人の間に入った。

「ほら、ハウンドさんも言ってますしやめましょう?」
「そうだな。すまなかった」
「アンタよくわかんないわ。素直なんだか捻くれてんだか」

レンカはドカリと乱暴に座り込むと、頬杖をついて外の景色を眺め出す。
アレクはラフテルと話そうと思ったが、レンカが再び口を開いた。

「ねえ、チビ助」

ひょっとして今、呼ばれたのだろうか。
アレクはラフテルに確認を取る。

「チビ助って僕?」
「そうだろ」
「あんたしかチビ助はいないでしょ」
「僕そんなに小さくないです」
「何言ってんだか」

アレクの頭から靴先までを見て、レンカは馬鹿にするように笑った。
確かにレンカより身長は低いが、ないようであるプライドが傷つくのでやめていただきたい。

「あんたさ……案外やるのね」
「え」
「避難所の人達、全員治したでしょ。ミーシャさんみたい」
「ミーシャさんって」
「三年前、超大規模依頼に参加して亡くなった人。その人、治癒魔法が本当に得意だったの。優しくて、神様みたいな人だった」

ポツリポツリと語るレンカの声と、砂埃の音が車内を満たす。

「疑ってて悪かったわ。あんたの実力は本物だし、確実にあいつらと血が繋がってる」
「あ、ありがとうございます……」

レンカに謝罪されるとは思っていなかったので、アレクはどういう顔をしていいのかわからない。
すると、ハウンドが他愛のない一言を溢すように言った。

「レンカさん、エルルさんのこと好きですもんね」
「……は?」
「え?」

空気が凍るとはこのことだろうか。
ピシリと固まったレンカに、アレクは驚きのあまり何度も言葉を詰まらせる。

「え、え、だって、え? レンカさん、姉様のこと、嫌いなんじゃ……」
「レンカさん、エルルさんのことが好きだからああやって構うんですよ。僕、かなり前から見てきましたけど、微笑ましいと思ってまーー」
「わああああああああ!」

レンカの叫びがハウンドの声を遮る。
レンカは真っ赤になってハウンドに飛びかかった。

「あんた何でそれをっ……いや、別に好きじゃないから!」
「く、苦しいですレンカさん……」

そんなレンカの様子を見て、ラフテルは納得して頷く。

「なるほど。あれは好意の裏返しだったわけか。勉強になった」
「ラフテル、今それじゃないと思う」
「だからぁっ、好きじゃないって!」
「し、死ぬ……」

とうとうハウンドの顔色が悪くなってきたので、アレクはレンカを止めにかかることにする。

「まあまあ、その辺に……」

アレクがレンカに触れた、次の瞬間。
バチン!! とアレクの脳内に電流が走った。

「なっ」

ごう、と流れてくる情報の数々。
レンカは目を見開いてこちらを見ている。

「あんた……私の何を覗き見たの!!」

その言葉を最後に、アレクの意識は途切れた。





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