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超大規模依頼編
第十二話 『とぅとぅとぅ』
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一方、アレク達と離れたヨーク、ガディ、エルルは、エルルの探索スキルを駆使しつつ先へ進んでいた。
「大丈夫なのかアレクそもそも何なんだこの超大規模依頼ってやつは本来ならギルドランクSSS保持者しか受けられない依頼だぞ」
「あああもう怖い今からでも追いかけるべきなのかしらそれとも」
「アレクが悪漢に襲われでもしたらどう責任取ってもらおうかいやまずこれは誰に請求するほうがいいかそもそも関わった奴ら全員」
「決めたわやっぱり追いかけるべきねハウンドとレンカが一緒だしラフテルとかいう胡散臭い奴も信用ならないし」
「うるっせえええええええ!! 耳元でブツブツブツブツと!! 病気かテメェら!!」
ヨークがとうとうキレて、馬車をひっくり返す勢いで怒鳴った。
すぐさま二人はヨークを鋭く睨む。
「原因はお前だぞヨーク」
「私達をアレクから引き離すから」
「だから弟の疑念を晴らすためだっつってんだろ! 聞き分けぐらいもてや!」
「はあ……最悪」
「不安で眠れない」
「こいつらっ」
操縦席からヨークが立ち上がったので、車体が大きくガタンと傾く。
馬が混乱して「ヒヒィン!」と大きく嘶き、なぜか急スピードで走り出す。
「えっ、ちょっ、待っ」
「ブルヒィイいい」
「てめぇらのせいだぞぉおおお」
「知るかボケ」
ヨークの指示もろくに届かず走り続ける馬に、車体が四方八方にガタンガタンと勢いよく揺れる。
車酔いする人だったら一気に死んでいたことだろう。
そんな車体に揺られながらも、ガディとエルルが思うのは弟のことのみ。
(確かにアレクは強い。もう俺達の庇護が必要ないくらい)
(でも……今回は訳が違う。そもそもアレクが参加してるのも、ラフテルとかいう奴が助っ人としてこの国に来てるのも)
(三年前の超大規模依頼で、半数のSSSランクを失ったから)
「……やっぱり出てく!」
「おいコラ待て責任取れやボケナス! こうなったらてめぇらも道連れーー」
「止まって!」
ヨークの声を、エルルが遮った。
エルルが車体から飛び出して馬に飛び乗ると、手綱を引いて止めさせる。
次の瞬間、馬のすぐ前に岩が落ちてきた。
「あ?」
「っ、危ない」
エルルが気づかなければ、馬車もろとも潰れていたところだ。
しかしまだ油断ならない。
「次来るわよ! 掴まって!」
エルルが操縦士となり、馬に乗ったまま馬車を操作していく。
岩は次々と降り注ぎ、どれも馬車スレスレのところへ落ちていった。
「どこの誰が攻撃してきてるのかわからんが……ここは俺の出番だな」
ヨークが車体から身を乗り出すと、そのまま空中に向かって飛び出した。
「おらぁ!」
そのまま降ってきていた岩をいくつも拳で粉砕し、馬車の上に着地する。
ガディがヨークに向かって叫んだ。
「ヨーク! そのまま頼む! 俺は攻撃してきてる奴を探す!」
「任された!」
ガディは岩の飛んでくる方向へ目を凝らすが、こういうのはエルルの得意分野である。
肝心のエルルは馬車の操作をしているので、ここはガディが何とかするしかない。
(しかしどうする……俺は相手方の魔力を辿ることもできない。こうなったら)
今度はガディが馬車から降り、岩の飛んでくる方向へ向かって走る。
岩は馬車へと向かっているので、近づいてくるガディには当たらない。
ガディはそのまま岩の出どころへ走り寄ると、岩をこちらへ打ち出しているであろう魔物に向かって短剣を振り翳した。
「ギ!?」
「死ね」
短剣は見事魔物の頭部に突き刺さり、岩はすぐさま打ち止めとなった。
ガディはそのまま魔物を持って馬車の元へ戻る。
「無事か」
「平気よ」
魔物を地面に投げ出すと、ヨークが嫌そうな顔をした。
「タコみてぇな魔物だが……クッセェな」
「こいつが岩を口から打ち出してた」
「へえ。で、エルル嬢ちゃんはこれ見て何かわかるのか」
ヨークに問われ、エルルがスキルを展開する。
「……!」
「どうだ」
「農村にあった魔力を感じる」
「なるほど。つまり、大悪魔の差し金っつーことだな」
「それはまだわからない」
「何でだよ」
否定されたヨークが不思議そうに首を傾げると、エルル自身も戸惑った様子で答える。
「大悪魔っぽい魔力が農村にそもそもなかったから」
「……ぽいって」
「三年前の討伐対象は、もっと大きな気配をしてた。いや、それどころじゃなくて……スキルを使わなくてもわかるレベル。それが農村になかった」
「相手はスキルを遮る力があるんじゃないか」
「私もそう思ってる。今は大悪魔の手下らしき魔力を追ってるだけなのよ」
「こいつもその一匹なのか」
「そうね」
「じゃあやっぱり大悪魔の差し金じゃねえか」
「だから、大悪魔が意図してこっちの寄越してきたものかわからないのよ」
言い合いを続ける二人をよそに、ガディは落とされた岩を眺める。
ただの岩のように見えるが、落とされる速度がかなり速かった。
凡そ見積もってB、もしくは低めのAランクほどの魔物か。
「……何か引っかかるな」
「何が?」
「聞いてたのか」
エルルが横から顔を出したので、ガディは唸りつつも言う。
「前回みたいな……こう、わかりやすい脅威がない。確かに被害は甚大。だが、本当に超大規模依頼に指定するほどのものだったのか?」
「そこは私も思ってるわよ。なんか気持ち悪い……」
そこでエルルが空を見上げたので、ガディは「エルル?」と名前を呼ぶ。
「とぅとぅとぅ」
「……変な鳴き声」
「鳥のことか?」
「ええ」
独特な鳴き声をしている鳥が、空を飛んでいる。
エルルがその鳥を風魔法で仕留めた。
「何でわざわざ仕留めたんだ」
「嫌な予感したし。大悪魔に見張られてるのかもしれない」
「……なるほどな」
「大丈夫なのかアレクそもそも何なんだこの超大規模依頼ってやつは本来ならギルドランクSSS保持者しか受けられない依頼だぞ」
「あああもう怖い今からでも追いかけるべきなのかしらそれとも」
「アレクが悪漢に襲われでもしたらどう責任取ってもらおうかいやまずこれは誰に請求するほうがいいかそもそも関わった奴ら全員」
「決めたわやっぱり追いかけるべきねハウンドとレンカが一緒だしラフテルとかいう胡散臭い奴も信用ならないし」
「うるっせえええええええ!! 耳元でブツブツブツブツと!! 病気かテメェら!!」
ヨークがとうとうキレて、馬車をひっくり返す勢いで怒鳴った。
すぐさま二人はヨークを鋭く睨む。
「原因はお前だぞヨーク」
「私達をアレクから引き離すから」
「だから弟の疑念を晴らすためだっつってんだろ! 聞き分けぐらいもてや!」
「はあ……最悪」
「不安で眠れない」
「こいつらっ」
操縦席からヨークが立ち上がったので、車体が大きくガタンと傾く。
馬が混乱して「ヒヒィン!」と大きく嘶き、なぜか急スピードで走り出す。
「えっ、ちょっ、待っ」
「ブルヒィイいい」
「てめぇらのせいだぞぉおおお」
「知るかボケ」
ヨークの指示もろくに届かず走り続ける馬に、車体が四方八方にガタンガタンと勢いよく揺れる。
車酔いする人だったら一気に死んでいたことだろう。
そんな車体に揺られながらも、ガディとエルルが思うのは弟のことのみ。
(確かにアレクは強い。もう俺達の庇護が必要ないくらい)
(でも……今回は訳が違う。そもそもアレクが参加してるのも、ラフテルとかいう奴が助っ人としてこの国に来てるのも)
(三年前の超大規模依頼で、半数のSSSランクを失ったから)
「……やっぱり出てく!」
「おいコラ待て責任取れやボケナス! こうなったらてめぇらも道連れーー」
「止まって!」
ヨークの声を、エルルが遮った。
エルルが車体から飛び出して馬に飛び乗ると、手綱を引いて止めさせる。
次の瞬間、馬のすぐ前に岩が落ちてきた。
「あ?」
「っ、危ない」
エルルが気づかなければ、馬車もろとも潰れていたところだ。
しかしまだ油断ならない。
「次来るわよ! 掴まって!」
エルルが操縦士となり、馬に乗ったまま馬車を操作していく。
岩は次々と降り注ぎ、どれも馬車スレスレのところへ落ちていった。
「どこの誰が攻撃してきてるのかわからんが……ここは俺の出番だな」
ヨークが車体から身を乗り出すと、そのまま空中に向かって飛び出した。
「おらぁ!」
そのまま降ってきていた岩をいくつも拳で粉砕し、馬車の上に着地する。
ガディがヨークに向かって叫んだ。
「ヨーク! そのまま頼む! 俺は攻撃してきてる奴を探す!」
「任された!」
ガディは岩の飛んでくる方向へ目を凝らすが、こういうのはエルルの得意分野である。
肝心のエルルは馬車の操作をしているので、ここはガディが何とかするしかない。
(しかしどうする……俺は相手方の魔力を辿ることもできない。こうなったら)
今度はガディが馬車から降り、岩の飛んでくる方向へ向かって走る。
岩は馬車へと向かっているので、近づいてくるガディには当たらない。
ガディはそのまま岩の出どころへ走り寄ると、岩をこちらへ打ち出しているであろう魔物に向かって短剣を振り翳した。
「ギ!?」
「死ね」
短剣は見事魔物の頭部に突き刺さり、岩はすぐさま打ち止めとなった。
ガディはそのまま魔物を持って馬車の元へ戻る。
「無事か」
「平気よ」
魔物を地面に投げ出すと、ヨークが嫌そうな顔をした。
「タコみてぇな魔物だが……クッセェな」
「こいつが岩を口から打ち出してた」
「へえ。で、エルル嬢ちゃんはこれ見て何かわかるのか」
ヨークに問われ、エルルがスキルを展開する。
「……!」
「どうだ」
「農村にあった魔力を感じる」
「なるほど。つまり、大悪魔の差し金っつーことだな」
「それはまだわからない」
「何でだよ」
否定されたヨークが不思議そうに首を傾げると、エルル自身も戸惑った様子で答える。
「大悪魔っぽい魔力が農村にそもそもなかったから」
「……ぽいって」
「三年前の討伐対象は、もっと大きな気配をしてた。いや、それどころじゃなくて……スキルを使わなくてもわかるレベル。それが農村になかった」
「相手はスキルを遮る力があるんじゃないか」
「私もそう思ってる。今は大悪魔の手下らしき魔力を追ってるだけなのよ」
「こいつもその一匹なのか」
「そうね」
「じゃあやっぱり大悪魔の差し金じゃねえか」
「だから、大悪魔が意図してこっちの寄越してきたものかわからないのよ」
言い合いを続ける二人をよそに、ガディは落とされた岩を眺める。
ただの岩のように見えるが、落とされる速度がかなり速かった。
凡そ見積もってB、もしくは低めのAランクほどの魔物か。
「……何か引っかかるな」
「何が?」
「聞いてたのか」
エルルが横から顔を出したので、ガディは唸りつつも言う。
「前回みたいな……こう、わかりやすい脅威がない。確かに被害は甚大。だが、本当に超大規模依頼に指定するほどのものだったのか?」
「そこは私も思ってるわよ。なんか気持ち悪い……」
そこでエルルが空を見上げたので、ガディは「エルル?」と名前を呼ぶ。
「とぅとぅとぅ」
「……変な鳴き声」
「鳥のことか?」
「ええ」
独特な鳴き声をしている鳥が、空を飛んでいる。
エルルがその鳥を風魔法で仕留めた。
「何でわざわざ仕留めたんだ」
「嫌な予感したし。大悪魔に見張られてるのかもしれない」
「……なるほどな」
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