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超大規模依頼編

第十話 聞き込みと共に

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避難所を訪ねると、そこにいる人々の視線が一気にこちらに向いた。
部外者が入ってきたので当然だが、ジロジロと遠慮なく向けられる視線が居心地悪く、アレクはそっと目線を地面にやった。

「ここに、破壊された農村の村長はいるかしら」

レンカの問いに、一人の老人が出てくる。
老人が村長らしく、周りの人々はざわつきながらも道を開けた。

「これはこれはお若い方達。ワシらに一体何の御用でしょうか」
「詳細を聞きにきたの。私達はギルドの者よ。大悪魔討伐のために情報提供してほしい」

すると、その場にいる者の顔色が変わった。
事件当時のことを思い出しているのか、皆訝しげにレンカを凝視する。

「……ギルドの依頼ですかな」
「そうよ」
「大悪魔の討伐で」
「そう」
「申し訳ありませんが、それはできかねます」
「は?」

断られるとは思っていなかったため、レンカは少々間抜けな顔を晒す。
村長は続けて言った。

「ワシらに大悪魔は呪いを授けていきましたので……話せばワシらが死ぬことになります」
「呪いって」
「ちょっと調べさせてもらってもいいですか」

そこで顔を出したアレクに、村長は驚いて目を丸くする。

「坊ちゃんも、大悪魔の討伐に来たのですか」
「はい。僕は状態異常を調べるスキル持ちです。見せてもらってもいいですか」
「……わかりました」

差し出された村長の手を受け取り、アレクは村長の体を調べにかかる。

「!」

確かにモヤのようなものが村長の心臓の部分に渦巻いている。
このようなものを見るのは初めてなため、アレクに緊張が走った。
一旦村長から手を離し、他の人にも許可を取って触れさせてもらう。
触れた全員が同じような状態だったため、アレクは思わず絶句した。

「何かわかったのか」

後ろからラフテルが声をかけてきたため、アレクは頷く。

「うん。みんな呪いにかかってる」
「治せるか」
「できるよ。ちょっと離れてもらっていい?」

アレクは全員から距離を取ると、解呪の呪文を口にした。

「カースキャンセル!」

パッと光が避難所全体を走り、全員分の呪いが打ち消える。
すると、どこから共なく歓声が上がった。

「母さんが! 母さんが起きた!」
「よかった、よかった……!」

呪いが解けたことによって、どうやら意識を失っていた者が起き始めたらしい。
アレクに向けられていた視線は、刺々しいものから一転して柔らかいものとなる。

「ああ、ありがとうございます……!」

口々に礼を言う村人達に、レンカは自慢げに笑った。

「これで情報を話せるわよね」
「何でレンカさんが威張ってるんですか……」

ポソ、と呟き程度にハウンドがツッコミを入れると、レンカの睨みが飛んでくる。
即座に「なんでもないです」と言って、ハウンドは引っ込んでいった。
村長はレンカに向かって一歩歩み寄る。

「わかりました、知っていることを全て話しましょう。その前に、おこがましいのですが、お願いを一つしてもよろしいでしょうか」
「いいでしょう」
「この度の大悪魔の件で、負傷した者がいます。治癒魔法を使える方がいらっしゃいましたら、対応をしていただきたいのです」

この中で治癒魔法を使えるのはアレクだけだ。
レンカは振り返ると、「できるわよね」とだけアレクに確認する。
アレクにとって治癒魔法は造作のないことだ。

「できます」
「そ。じゃあ私が話聞いてるから、あんたは治癒魔法お願い」

レンカの態度はそっけないが、任せてもらえるということは、少しは信頼してもらえているのだろうか。
そんなことを考えながら、アレクは負傷者への治療へ回った。
次々と傷を治していくアレクに、周りの人々は感動して目を輝かせる。

「凄い……! こんなにすぐ傷が治るなんて」
「あんなに小さな子が」
「やっぱり普通の村人とは違うのかしら」

口々に囁かれる言葉に慣れつつも、アレクは作業を進めていく。
すると、アレクの肩をラフテルが叩いた。

「アレク……何か手伝えることはあるか?」

気遣ってくれているらしい。
この優しさがラフテルらしいな、と思いつつ、アレクは一つ頼み事を任せた。

「水を井戸から持ってきてほしいんだ。あと掃除用具もお願い。ここの掃除もしたいし、清潔にするのが一番だから」
「わかった」

ラフテルはすぐさま避難所から出て行った。
作業を進めていると、次にハウンドが覗きにやってくる。

「……器用なものですね。腐敗した傷には浄化の魔法も兼ねての治癒魔法をかけるとは」
「わかるんですか?」
「まあ、目は肥えていますので。あなたの前任者の治癒魔法士がかなりの実力者だったんですよ」

前任者。
三年前の超大規模依頼で、恐らく命を落としたと思われる者。
ヨークと最初に会った時、エルルが守れなかったと言っていた人のことだろうか。
それが気になりつつも、アレクはハウンドの態度に違和感を感じる。

「なんか……戦闘中と今とじゃぜんぜん違いますね」
「え?」
「今のほうが落ち着いてるっていうか」
「ほんとすみません」

突然ハウンドが頭を下げたため、アレクは「ええ?」と声を上げた。

「僕、臆病で……どうしても怖気付いちゃうんです。僕なんかがSSSランクになれたのも、何でかわからないし」
「でもなったっていうことは、ハウンドさんには実力があると思います。声のやつ凄かったですし」
「うるさかったですよねほんとすみません」
「凄い早口」

アレクが笑うと、ハウンドの強張った表情が幾分か柔らかくなる。

「……この能力で、たくさんの人に迷惑をかけました。本当に、申し訳ない」

ハウンドはかなりネガティヴらしい。
その後もブツブツと自己嫌悪を続けるため、アレクは苦笑いをする。

「おじちゃん、何かできないのー?」
「えっ」

そこで、避難所にいた子供の一人がハウンドの服の裾を掴む。
それをきっかけにわらわらと子供達が集まってきた。

「おじちゃん何か面白いことしてよー」
「おじちゃんだけ何もやってないじゃん」
「お、おじちゃん……」

自分がおじちゃん呼ばわりされたことが相当ショックらしく、陰鬱な空気を纏いながらハウンドはうつむく。
子供達は構わず続けた。

「ここに来てから、何もない!」
「面白いことないし、外に出ても行く場所ないし」

子供達の文句も最もだ、
しかし彼らはこの町の者にとっては部外者であり、子供が仕事の邪魔をしたとなれば迷惑がかかる。
両親はそう考えて、子供達をあまり避難所から出していないのだろう。
アレクが同情気味で子供達の言葉を聞いていると、「仕方ないですね」とハウンドは立ち上がった。

「一回だけですよ」

そう言って、ハウンドは童謡を口ずさみ始めた。
トリティカーナでは有名な童謡だ。
誰もが知っているそれは、アレクの耳にも簡単に入り込んでくる。

「わ……」

思わず作業の手が止まりかけてしまうほど、ハウンドの歌は素晴らしいものであった。
聞いていてなんだかフワフワするというか、とても良い心地になる。
子供達も一緒になって歌を歌い出し、避難所は一気に賑やかになった。

「ハウンドさん……」

やはり、ハウンドの声には何かしらの効果があるに違いない。
とても恵まれた能力だと思うが、本人の言う通り苦労する点も多かったのだろう。
すると、子供のうちの一人でアレクへと抱きついてきた。

「綺麗なお姉ちゃん!」
「僕、男だよ」
「えっ」
「ごめんね」

最近は女性に間違われることも減ったが、小さな子にはまだまだ見分けがつかないらしい。
子供は恥ずかしそうに顔を赤らめた後、何かを差し出してきた。

「これ、あげるね」
「これは?」
「大悪魔のツノ」
「えっ!?」

差し出された象牙のようなものを落としそうになって、アレクは慌ててそれを抱え込む。
子供はキャラキャラと楽しそうに笑った。

「大悪魔がね、落としていったんだ」
「こんなものが……」
「凄いでしょ。みんなに内緒にしてたけど、お兄ちゃんへのお礼」
「うん。ありがとうね」

ツノを渡してくれた子供へ礼を言うと、嬉しそうに子供は他の子供達のところへ戻って行った。

「これ、レンカさんに渡さないとな」

そう思った矢先、レンカの声が飛んできた。

「それどういうことよ!?」

キン、と響く声に、また何かあったのかとアレクは怪訝な表情を浮かべた。
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