追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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超大規模依頼編

第四話 知己

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後日、メンバー全員がギルドの前に集まり次第、ヨークから大悪魔の説明がされた。

「大悪魔の目撃情報……というか、被害が出始めたのは三ヶ月前。近隣の農村、果ては大きな街まで魔物達が一斉に襲い、壊滅させているらしい。ここで大切なのは、魔物達が協力して動いていたことだ」
「魔物が協力って、当たり前なんじゃないの」

口を挟んだレンカに、ヨークはその質問の解答をすぐに提示した。

「聞け。魔物が協力するのは、同じ種族どうしだった場合だ。例えば、ゴブリンとか、スライムとかな。しかしこれもレアケースなんだよ。対外、弱い魔物が群がってるだけだ。お前そのくらいわかってるだろ。だが……魔物は種族問わずの協力体制だった。ドラゴンまでいたんだぞ。強さの代表格と呼べる種族だ。それを操っていたのが、今回の討伐対象である大悪魔だ」
「……特殊な能力持ちか?」

ガディの言葉に、「まあ、十中八九そうだろうな」と、ヨークが気だるげに答える。
するとエルルがヨークに対して質問を重ねた。

「その大悪魔の特徴……魔力の質ってわかるかしら。そもそも私のスキルである〔追跡〕は、魔力の残滓を読み取るものなのよ。大悪魔がどんな魔力をしているかわからないと使えない」
「そうだな。だから今日は実際に破壊された農村に出向いて、エルルの嬢ちゃんには大悪魔の魔力を覚えてもらう」
「農村って、そもそもここから近いの?」
「今のところ、そこまでトリティカーナには被害が及んでいない。だからかなり遠くなる」

そこでアレクは一つ疑問を抱いた。

「トリティカーナに被害がそこまで出てないのに、何で動くことになったんだろ……」
「俺が説明しようか」

そこで横に並んでいたラフテルが、アレクに話しかけてくる。
突然話しかけられて驚いたアレクだったが、ラフテルはただ親切に声をかけただけだ。
躊躇いながらもアレクは頷いた。

「あ、じゃあ、お願いします」
「ああ。俺も他国の者だし、トリティカーナの中心人物より詳しい自信はないが……できる限りのことは話させてもらう。被害が最初に出始めたのは、東の小国から。やがてそこから広がっていき、とうとう大国ダンカートにまで届いた。それだけでは飽き足らず、北の大国、俺達の国であるアルスフォードを通って、今度はトリティカーナにまで侵入してきている」

四大大国の内三つもの国が被害に遭っているのなら、そもそもアレク達に声がかかるよりも前に対処がされていそうなものだが。
そんなアレクの考えを読んだかのように、すぐにラフテルが続ける。

「初めはダンカートが何とかしようとしたんだ。だが、魔物の大群には、魔法のような能力を持つものがかなり多かったらしい。ダンカートは武力国家として有名だが、同時に魔法使いが足りてない。対抗できず押し負け、多大な被害が及んだ」

そういえば、アレクがまだ学園に入ってばかりの頃、ダンカートの王女であるウィルスが魔法使いをスカウトしにこの国にやってきたことを思い出す。
彼女は確かに、自身の国に魔法使いが少ないことを発言していた。

「次にアルスフォード。俺達の家からも何人か貸し出された。だが、俺達も魔法国家じゃない。寧ろ非戦闘員の多い科学の国。太刀打ちはできなかった。そして、とうとうトリティカーナにまでお鉢が回ってきた」

ラフテルはそこで一息つくと、羨むようにアレクを眺めてくる。

「トリティカーナは、四大大国随一の魔法国家だ。戦闘員が多く、そういう方面では突出している。そとそも友好国であるダンカートが被害に遭った時点で、トリティカーナの国王は腰を上げるつもりだったが……今回で決定打が打たれたらしい。アルスフォードから俺も派遣されたしな」
「つまり、世界中が大変なことになってるから、そんなに被害が出てなくても動かなくちゃならないってこと?」
「そういうことだ。超大規模依頼というものは凄いぞ。国を跨いでの協力がなされるからな。そもそも、アルスフォードとトリティカーナはあまり仲が良くなくないし」
「え!?」

大声を上げてしまったので、周りの視線がこちらに集まる。
何かあったのかと心配げな目線であり、途端にアレクに居た堪れなくなった。

「なんでもないです! 急に叫んでごめんなさい」

すると、レンカがすぐさま反応して、叱責を飛ばした。

「ちょっと。仮にもメンバーである自覚を持ってちょうだい。叫ばれたら何かあったと思うでしょう」
「は、はい」
「アレクは悪くないだろ。寧ろ反応しすぎる俺らが悪い」

ここぞとばかりに主張するガディに、レンカの額に青筋が浮かんだ。

「あんたねえ、キャラ違いのブラコンなんて発揮してんじゃないわよっ……ヨークの言った通り、あんた達緩んだんじゃないの?」
「アレクは俺達の全てだが?」
「うわあ~……」

レンカは露骨にドン引きすると、そそくさとガディから距離を取った。

「……続けるぞ」
「え、はい」

空気の読めないラフテルに引き戻され、アレクは反射的に頷いた。
場が静まってしまったので、周りもラフテルの話に耳を傾けることにしたらしい。

「領地的な問題もあって、両国の関係はあまりよろしくない。まあ、大国どうしということもあって、表向きは良好な関係を築いているが……裏は凄いぞ」
「そうなんだ……」
「そんなアルスフォードが、英雄家の一員である俺を寄こすくらいだ。世界の一大事と思っていい」
「ラフテルの坊主の言う通りだ」

そこで再び、話の主導権がヨークに移る。

「今回の依頼は、他のものとは全く違うものだと思え。前回の依頼では、ラフテルの坊主の兄、レオ・アインバイルが死亡している。強かった。前回参加した俺も、死を覚悟した。大悪魔の強さはまだわからないが……並大抵の被害ではない。気は抜くなよ」

ヨークの一言に、アレクはゴクリと唾を飲んだ。



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