追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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番外編

番外編 シオンの恋心

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「……どうしたの、シオン。最近元気無いわよ」
「ううん、そう?」

寝苦しい夜だった。
風呂上がりに寮の自室で髪を乾かしながら、ユリーカはシオンに聞いた。
最近元気が無い、というかボーッとしているというか。
とにかく、何かがおかしいというのは気がついていた。
シオンはユリーカの瞳を見つめながら、声を潜めて聞いた。

「……誰にも言わない?」
「ええ。言わないわ」

ソッと視線を向けた先は、すでに眠りこけている先輩二人。
今日は授業で模擬戦があったため、疲労がたまっていたのだろう。
スヤスヤと気持ちよさそうに眠っているのを確認して、ユリーカは頷く。
そして、意を決したように顔を赤く染め、まるで蚊の鳴くような小さな声でポツリと言った。

「私……アレク君の事が好きみたい」
「………は?」

ユリーカは己の耳を疑った。
聞き間違いかと思った。

「いや、さすがにそれは……」
「そうなの」
「……えぇえええええっ!?」
「!     静かにっ……」
「!」

素っ頓狂な声を上げるユリーカに、慌ててシオンが言った。
自分が大声を出した事に気がつき、バッと口を手で押さえる。
ソーッと先輩を見るが、どうやら起きていなかったらしい。
スヤスヤと熟睡中である。
ホッと二人は胸をなで下ろした。
それと同時にユリーカは怪訝そうな顔をする。

「でも、何でアレク君なの?     そりゃあ可愛い顔してるし、武術も魔術も大得意だし。でも、癒し系じゃない?     あれは」

アレクを思い出すと、とにかく浮かぶのは可愛らしい笑顔。
確かに一緒にいて落ち着くし、楽しい。
でも、惚れるということはない。
シオンはまた小さな声で、答えを絞り出す。

「……一目惚れ、かな」
「そういえば、自己紹介でエラい事叫んでたもんね」

確か、とユリーカは思い出したように頷いた。
しかし、シオンは自分が何を言ったかとは思い出せない。

「私……何か言ってたっけ?」
「聞いたわよ。『今付き合ってる人はいませんっ!!』とか何とか……」
「きゃ……きゃーーーっ!!」
「ちょ……静かにっ………」

顔を真っ赤にして、ピタッシオンが急停止した。
これだけ叫んでおいて、起きない先輩も先輩である。
シオンは仕切り直しとばかりにユリーカと顔を見合わせる。

「で、でも……会った瞬間、周りが綺麗になったって言うか……景色が色とりどりに見えたっていうか………」
「あっ、それ!     私もそう思うわ」
「も、もしかしてユリーカもアレク君を……?」
「無い無い!      それは断言出来る」

ブンブンと首を振るユリーカに、シオンはほっとした。
友人と好きな人を取り合うのだけは勘弁だったからだ。
そもそも勝ち目がないと思った。
ユリーカはなかなかの美少女である。
ピンク色の髪に気の強そうなつり目。気丈にキリッと結んだ口元は優等生らしい。
とにかく、顔は整っていた。
パーツがあるべき所に、全てすんなりと収まっているというか。
そんなユリーカがシオンは好きだったし、見た目の割には優しい所がたくさんあった。
シオンは気がついていないが、ユリーカと同列になるくらいシオンも美少女だ。
黄緑色のフワフワした髪に、おっとりとした態度。
たれ目がすっかり似合ってしまっている。
綺麗、と言うよりは可愛い、と言うのが当てはまる。
今まで何人もの男子生徒が二人に告白し、玉砕してきた。
ちなみに、ライアンはいわゆるバカだったため論外だったそうだ。
そんな中、アレクのイメージはというと、一言で言えば神々しい。もっと噛み砕けば綺麗。
そんなイメージだ。
金の糸で構成されたかのような髪に、長い金色のまつげ。
瞳もとても明るい光を灯しており、見るもの全てが安堵させられるかのような人だった。
女の子扱いはどこに行っても変わらないが、とにかく、シオンはアレクが好きだった。

「とりあえず、はい。紅茶、好きでしょ」
「……ありがとう」

ユリーカから湯気が立つマグカップを受け取り、少し飲み込んだ。
じんわりと温かさと甘さが喉にしみる。

「……んで、どーしたいわけ?」
「?」

キョトンとするシオンに、はぁ、とため息をつくユリーカ。

「そんな調子じゃ、取れるもんも逃げちゃうわよ。他の奴に取られるわよ」
「……えええ!?」
「………っ、静かに~」
「………zzz」

どれだけ疲れているんだろう、と熟睡しまくる先輩を見る。
もしかして、死んでしまっているのでは、と疑いたくなるほどだ。
改めてユリーカの前にシオンが座った。

「いい?     アレク君が中等部になったとして、同い年の女の子も初等部から出てくるでしょ?     その後輩がスッゴいカッコいい先輩が同い年だと知ったら……告白、するんじゃない?     アレク君がオッケー出さないとは限らないからマズいわよ」
「どっ……どうしよう。告白っ?」
「急ぎすぎよ。本題に戻っていいかしら?」
「本題……?」
「なんで元気無いのかって事よ」

ハッと今思い出したように口に手を当てるシオン。
ユリーカはその答えを待った。

「………その、アレク君最近忙しいみたいじゃない?     大丈夫かなって……」
「そんな事。大丈夫よ、アレク君なら」
「う、うん。そうだよね」

友人のはげましの言葉に、何となく元気を取り戻すシオン。
確かに、アレクはいつでも元気というイメージだ。
ものすごく大きい事が無ければ大丈夫であろう。

「……もう十二時!?     明日早いわよ!!」
「大変!     寝なきゃ……!」

慌てながら二人は毛布にくるまった。
心地よいまどろみの中、笑い合い、「おやすみ」と一言言って二人は寝に入った。

◆     ◆     ◆

「エルル。起きているか?」
「ガディ。どうしたの?     こんな夜中に……」

その同時刻。
エルルは兄に起こされ、もぞもぞとベッドから這い上がった。
夜中のせいか大分睡魔は厳しい。
ウトウトとしていると、ガディが一言ハッキリと言った。

「……魔法研究委員会の委員会室の明かりがついているんだ」
「え?」

一瞬で、その眠気は吹き飛んだ。
魔法研究委員会、と言えば二人の最愛の弟であるアレクの入った委員会である。
最近先輩であるレイルと仲良く話していたのは目にしたのだが、とエルルは考えた。

「もしかして、夜遅くまで委員会の居残りとか?」
「!     それはダメだ!     授業中、眠くなってしまう」
「そうね。あの授業は分かってるのに何回も繰り返して眠いわ。ましてや、私達より頭がいいアレクなんて……退屈でしょうね」

自分達がまだ十歳の頃など、遊びほうけていたような気がした。
だが、アレクは勉強に自ら赴いていた。
そんな弟を心配し、二人は立ち上がる。

「一度見に行きましょう」
「そうだな」

二人は寮を抜け出した。

◆     ◆     ◆

「おーい、アレク。いるか?」

ギィイ、とドアのきしむ音を響かせながら二人は委員会室に入った。

「……いた」
「何やってるんだ……」

そこには、机に勉強道具を広げたまま眠りこけているアレクがいた。
よく考えてみれば委員会など、部活に比べれば頻繁にあるものではない。
自分達とアレクはまだ部活動が始まっていないが、もしかしたら自分で勉強しに来たのかもしれない、と二人は思った。
何よりも、他の委員会メンバーがここにいないのが証拠だった。

「ったく……ん?」
「どうしたのガディ」
「これ……」

ガディが見つけたのは、カプセルだった。
そこから、白色の魔力が、恐らくアレクの魔力であろうものが溢れていた。
しかも、勉強内容はそのカプセルの資料作りだ。

「これ、アレクが作ったのか」
「凄いわね……」

まじまじとカプセルを見つめるエルルに、ガディが言った。

「連れて帰るぞ」
「いいの?」
「どうせこのままだったら寝てるだろ」

アレクを抱き上げ、ガディは妹に急かす。

「ほら、行くぞ」
「……うん」

二人は、パチンと委員会室の電気を消した。
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