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弟と、兄と、私とーーー

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「…………ねぇ、さん?」

そこに、いた。
私と同じ、淡い茶色の髪をして、優しげに目尻の下がった、弟。

「姉さん!!」

弟が持っていた荷物を全部乱暴に振り落とし、私に抱きつきました。
思わずフラつきますが、なんとか耐えます。

「姉さん、姉さん……! 会いたかった、会いたかった!」
「はい。私も、です。久しぶりですね」
「うん、うん!」
「お前の弟か」
「はい」

旦那様のことに気づいた弟が、旦那様と目を合わせます。

「あなたは」
「俺はアルジェルド。ラティアンカの夫だ」
「……! 姉さんの」
「手紙で送ったでしょう。その、旦那様ですよ」

すると、弟は警戒するように私を抱きしめ、旦那様を睨みました。

「……姉さんのこと大切にしないのなら、承知しませんよ」
「あ」
「ラティアンカ?」

どういうことだ、とばかりに、旦那様が私を泣きそうな顔をして見てきます。
ごめんなさい、旦那様。
弟に手紙を送ったの……離婚する、という手紙が最後でした。
事情を説明すれば、不服そうに弟は私から離れました。

「一時と言えど、姉さんを傷つけたことを反省してもらいたいのですが」
「す、すまない」
「姉さんに謝ってください」
「ラティアンカ……」
「はいはい、わかってますよ」

何で恋愛絡むと旦那様ってこうもヘタレになるんでしょうね。
普段はそれなりにカッコいいと思うんですが。

「姉さんが顔だけのヤツに誑かされた……」
「いや、俺、世界一の魔術師」
「え? アルジェルド・マルシムさん?」
「ああ」
「好きな人とくっつきたいがために、世界一の魔術師になった……?」
「どういうことですか」

初耳ですよ、それ。
旦那様に詰め寄れば、パッと勢いよく顔を逸らされました。
弟は呆れ顔でため息を吐きました。

「魔術師界隈では結構有名な話ですよ。好きな人に振り向いてもらいたいがために、世界一の魔術師にまでなって、親に頼み込んだって話」
「捏造だ! 俺はっ、頼み込んでない」
「好きな人に振り向いてもらうためっていうのは?」
「………」
「本当なんですね」

どういうことかさっぱり意図が掴めません。
旦那様と私は、親同士の決めた婚約で結ばれたはず。

「旦那様?」
「……悪かった。親同士っていうのは、嘘だ。俺がラティアンカに惚れたんだ。色々ややこしくしないために、そうしたんだ」
「つまり?」
「ラティアンカのこと、ずっと好きだ」

何ですか、その口説き文句。
ぐだぐだですか。

「……ダメだ。人としてダメだ。ポンコツだ」
「そんなこと言ってやらないでくださいよ」
「弟。ラティアンカは絶対に俺が幸せにする。行き違い故にこうなったが……もう、俺は間違えない」
「急に本気じゃないですか。まあ……そこまで言うなら、姉さんに判断を委ねますけど。それで、今日来たのはどんな理由で?」

弟の質問に、私が未来を見る力に目覚めたことを説明しました。

「……そっか。まあ、そんな気はしてた」
「妹はどうなりましたか?」
「妹は…………引き取られたよ。よその家に。いつまで経っても、力が発現しなかったから」
「そんな」
「会ってみたい?」
「会いたい、です」
「ならさ。住所教えるから、会ってやりな」

「上がって」と屋敷へ手招きする弟。
何だか足がすくんでその場で立ち尽くしていると、旦那様がギュッと手を握ってくれました。

「安心しろ。何かあったら、俺が守る」
「………はい」

弟について、屋敷へ上がります。
仮にも魔術師の名家です。
屋敷内は広く、掃除が行き届いていました。

「姉さん。今はさ、兄さんがこの家の家主なんだよ」
「跡を継いだのですか?」
「うん。優秀だったからね」

私が拒み続けたのにも関わらず、優しくしてくれた兄さん。
兄さんは元気にしているのでしょうか。
そうぼんやりと考えていると、廊下に誰かが立っているのが見えました。

「あ、兄さん!」
「? どうしーー」

兄さん。
久しぶりに会う、私の兄妹。
彼は私を見ると、大きく目を見開きました。

「………ラティアンカ、か?」
「はい」
「大きく、なったな……」
「兄さんも、ご立派になられたようで」
「それと、その。綺麗になった」

そこで、耐えきれないとばかりに、兄さんは目元を拭いました。
目尻には拭いきれなかった涙が滲んでいます。

「ごめんな……! お前が父さんや母さんから出て行かされる時、俺は何もできなかった」
「いいんです。対して珍しくもないことでしたから」
「でも」
「それに、今はこの人といられるから幸せです」

旦那様の腕を引けば、旦那様はペコリと兄さんに頭を下げました。

「彼は?」
「私の旦那様です」
「結婚したのか……」
「はい」
「……幸せになれよ。旦那さん。ラティアンカを、幸せにしてやってください」

兄さんが深々と旦那様に頭を下げたので、旦那様も兄さんに言いました。

「約束します。ラティアンカは、絶対幸せにします」
「…………ありがとう」

何だか懐かしさのあまり、涙が出そうになったその時。

「ラティアンカ!?」
「ーーあ」

元両親が、現れました。
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