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ありがとう。お世話になりました。
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その後、アストロに戻ると、女王様が待っていてくれました。
現れた王子2人とロールを目一杯抱きしめ、その瞳に涙を浮かべていました。
我が子達が無事か、気が気でなかったのでしょう。
今回の作戦に彼らを動員させてくれたこと自体、奇跡のようなものでした。
旦那様とエリクル様が夜、女王様にロマドで何があったかを話している最中に、ロールが私の部屋へやってきました。
「あのぅ、ラティ様。入ってもよろしいでしょうか……?」
「ええ、もちろんよ」
キィ、とドアが開く音と共に、遠慮がちにロールが入ってきました。
私の座っている席の向かいに座らせ、紅茶を差し出します。
「わっ、ありがとうございます! 喉が渇いていたので嬉しいです!」
本当に嬉しそうにそれを受け取ると、そっと口をつけるロール。
その様子を見ていれば、ふと、ロールが真剣な瞳となりました。
「私、ラティ様にお話があってきました」
「聞かせてください。たくさん時間はありますから」
「っ……ありがとうございます。私、死ぬんです」
死ぬ。その意味がわからずポカンとしていれば、ロールは続けます。
「シャルロッテとしての私は死にます。神子をやめ、アストロの田舎町でエリクル様と2人で暮らすんです」
「そうだったんですか」
「……悪いことだと、思いますか?」
ロールには明らかな不安が見られました。
決めたことを覆すつもりはなかったのでしょうが、私にその意見を肯定してもらいたくて尋ねたのでしょう。
無論、私はロールのことを否定するつもりはありません。
「いいえ。ロールの人生です。ロールがやりたいことをやったらいいと思います」
「ラティ様……」
「もちろん、やっていけないことも見極めてね」
「う、はい」
釘を刺すように付け足せば、まごついてロールは返事をしました。
神子として崇められてきたロールが普通の人として暮らすのは、本来なら難しいことなのでしょう。
しかし、奇しくも記憶をなくしていた期間に育てられたであろう一般人としての情緒が、彼女を手助けする結果となった。
数奇な運命です。
「ロール。あなたのご両親と、アンナさんのこと。話してくれませんか?」
「え?」
「話したくないのならいいのですが」
「い、いえ! 寧ろ……いいんですか?」
「はい。私が聞きたいんです」
そう切り出せば、明らかにロールの表情が明るくなりました。
それから語られる、家族の話。
その話をしている時のロールはなによりも輝いていて、本当に家族のことが好きなんだなぁということがわかります。
「明日、両親とアンナちゃんのお墓参りに行くんです。みんな、記憶のない私に3人が死んじゃったこと隠していたけど……いい加減、3人共寂しいと思うから。お花をあげます」
どこか懐かしみながら、しかし現実と向き合っている。
ロールを最初、護衛として雇った時のことを思い出し、自然と涙腺が緩みました。
「ら、ラティ様……?」
ロールを抱きしめ、口を開けば、出たのは自分が思ったより揺れた声でした。
「本当に……本当に、強くなりましたね、ロール。私は、凄く、嬉しいです」
「ラティ様っ」
私の背中に手を回し、ロールも私を抱きしめてくれました。
「ありがとうございます……! あの日、あなたに拾ってもらわなければ、きっと私は何も知らずに生きていた。今も奴隷としてこき使われていました。あなたは私の、人生の恩人ですっ。かけがえのない人です……!」
私の肩が何やら湿った気がしました。
体を離せば、私以上にロールはぼろぼろと泣いていました。
「最初はっ、アルジェルド様のことが、大っ嫌いでした。ラティ様を苦しめて、悲しませるから。でも……今だから言えます。どうか、アルジェルド様と幸せになってください! ラティ様は、幸せになって」
「あなたもですよ、ロール。私こそ、あなたに幸せになってもらいたい」
「……失礼かもしれませんけどっ。私、ラティ様のこと、お姉ちゃんみたいに思ってました! お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなって、ずっと」
「嬉しいです。そんなことを思ってくれていたなんて」
「ラティ様っ……大好きです」
ロールはひぐ、としゃくりあげると、無理やり口角を上げて笑ってみせました。
その様子が最近見せていた大人びた様子とは違う子供っぽさで溢れていて、私はロールの頭を撫でました。
ウサギの耳のフワフワとした毛並みも手のひらを掠ります。
「ラティ様に撫でられるのも、だいすきです」
「これからはエリクル様に撫でてもらうといいでしょう。それと、告白はしました?」
「ーーーっ、えと、その。自分を落としてみろって。惚れさせてみろって」
ロールのうぶな反応に加えて、頭の中でエリクル様が愉快げに笑っています。
なるほど。確かにそういうこと言いそうですね。
彼は昔から何かに固執しているようなのにも関わらず、己の命を顧みない不思議な方でした。
その頃からきっと、ロールに全てを捧げていたのでしょう。
「テクニックらしいテクニック、ないでしょうか」
「はうっ!?」
まあ、先は長そうですけど。
現れた王子2人とロールを目一杯抱きしめ、その瞳に涙を浮かべていました。
我が子達が無事か、気が気でなかったのでしょう。
今回の作戦に彼らを動員させてくれたこと自体、奇跡のようなものでした。
旦那様とエリクル様が夜、女王様にロマドで何があったかを話している最中に、ロールが私の部屋へやってきました。
「あのぅ、ラティ様。入ってもよろしいでしょうか……?」
「ええ、もちろんよ」
キィ、とドアが開く音と共に、遠慮がちにロールが入ってきました。
私の座っている席の向かいに座らせ、紅茶を差し出します。
「わっ、ありがとうございます! 喉が渇いていたので嬉しいです!」
本当に嬉しそうにそれを受け取ると、そっと口をつけるロール。
その様子を見ていれば、ふと、ロールが真剣な瞳となりました。
「私、ラティ様にお話があってきました」
「聞かせてください。たくさん時間はありますから」
「っ……ありがとうございます。私、死ぬんです」
死ぬ。その意味がわからずポカンとしていれば、ロールは続けます。
「シャルロッテとしての私は死にます。神子をやめ、アストロの田舎町でエリクル様と2人で暮らすんです」
「そうだったんですか」
「……悪いことだと、思いますか?」
ロールには明らかな不安が見られました。
決めたことを覆すつもりはなかったのでしょうが、私にその意見を肯定してもらいたくて尋ねたのでしょう。
無論、私はロールのことを否定するつもりはありません。
「いいえ。ロールの人生です。ロールがやりたいことをやったらいいと思います」
「ラティ様……」
「もちろん、やっていけないことも見極めてね」
「う、はい」
釘を刺すように付け足せば、まごついてロールは返事をしました。
神子として崇められてきたロールが普通の人として暮らすのは、本来なら難しいことなのでしょう。
しかし、奇しくも記憶をなくしていた期間に育てられたであろう一般人としての情緒が、彼女を手助けする結果となった。
数奇な運命です。
「ロール。あなたのご両親と、アンナさんのこと。話してくれませんか?」
「え?」
「話したくないのならいいのですが」
「い、いえ! 寧ろ……いいんですか?」
「はい。私が聞きたいんです」
そう切り出せば、明らかにロールの表情が明るくなりました。
それから語られる、家族の話。
その話をしている時のロールはなによりも輝いていて、本当に家族のことが好きなんだなぁということがわかります。
「明日、両親とアンナちゃんのお墓参りに行くんです。みんな、記憶のない私に3人が死んじゃったこと隠していたけど……いい加減、3人共寂しいと思うから。お花をあげます」
どこか懐かしみながら、しかし現実と向き合っている。
ロールを最初、護衛として雇った時のことを思い出し、自然と涙腺が緩みました。
「ら、ラティ様……?」
ロールを抱きしめ、口を開けば、出たのは自分が思ったより揺れた声でした。
「本当に……本当に、強くなりましたね、ロール。私は、凄く、嬉しいです」
「ラティ様っ」
私の背中に手を回し、ロールも私を抱きしめてくれました。
「ありがとうございます……! あの日、あなたに拾ってもらわなければ、きっと私は何も知らずに生きていた。今も奴隷としてこき使われていました。あなたは私の、人生の恩人ですっ。かけがえのない人です……!」
私の肩が何やら湿った気がしました。
体を離せば、私以上にロールはぼろぼろと泣いていました。
「最初はっ、アルジェルド様のことが、大っ嫌いでした。ラティ様を苦しめて、悲しませるから。でも……今だから言えます。どうか、アルジェルド様と幸せになってください! ラティ様は、幸せになって」
「あなたもですよ、ロール。私こそ、あなたに幸せになってもらいたい」
「……失礼かもしれませんけどっ。私、ラティ様のこと、お姉ちゃんみたいに思ってました! お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなって、ずっと」
「嬉しいです。そんなことを思ってくれていたなんて」
「ラティ様っ……大好きです」
ロールはひぐ、としゃくりあげると、無理やり口角を上げて笑ってみせました。
その様子が最近見せていた大人びた様子とは違う子供っぽさで溢れていて、私はロールの頭を撫でました。
ウサギの耳のフワフワとした毛並みも手のひらを掠ります。
「ラティ様に撫でられるのも、だいすきです」
「これからはエリクル様に撫でてもらうといいでしょう。それと、告白はしました?」
「ーーーっ、えと、その。自分を落としてみろって。惚れさせてみろって」
ロールのうぶな反応に加えて、頭の中でエリクル様が愉快げに笑っています。
なるほど。確かにそういうこと言いそうですね。
彼は昔から何かに固執しているようなのにも関わらず、己の命を顧みない不思議な方でした。
その頃からきっと、ロールに全てを捧げていたのでしょう。
「テクニックらしいテクニック、ないでしょうか」
「はうっ!?」
まあ、先は長そうですけど。
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