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王と◯◯

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扉を開ければ、そこにはマオ様とレオン様、それと騎士様。
それを相手にしていたであろう王様がいました。
王様の周りには、護衛であろう兵士がついています。

「……マルドゥアか。お前は罪人として、捕らえたはずだが」
「何の証拠もなく捕まえるのは愚かなことだと思いませんか」
「証拠なら揃っている」
「ボクが王になれば、そんなの関係ないですよね。どこから計画が漏れたかは知りませんけど」

そう言って笑うマルドゥア様に、王様が顔を顰めます。
王様の周りに立つ兵士達が剣を構えようとしますが、その足を旦那様が凍らせました。

「!?」
「動くな。邪魔をしないでもらおう」

そこで私達に気づいた王様が、ロールを見つけて目を止めます。

「…………神子か!?」
「えっ」
「は、はははっ! 本当に戻っていたとはな!」
「なに? 僕の言ったことが信じられなかったの?」

エリクル様が尋ねれば、王様は愉快げに笑い続けます。

「エリクルが裏切るとはな……気づかなかった」
「そりゃそうでしょ。そう立ち回ったんだし」
「ああ。お前は文句をつけるまでもなく優秀だった」

ひときしり笑い終われば、王様はロールを睨みました。

「お前を使って神を従えようとしていたが……なるほど、少々悪手のようだ。ここで殺してしまうのが吉か」
「させないよ」

エリクル様が前に出たので、王様が不思議そうな顔をします。

「おかしいな。神子なら、もっと私を恨むものだと思っていたが」
「どういうこと、ですか」
「……待ってよ王様。そんなことどうでもいいでしょ?」

ふと、目に見えてエリクル様の焦りが出ました。
何か隠したいことがあるのでしょうか。

「まさか、忘れたのか? お前の両親、世話役のこと」
「ーーえ?」

ポカン、とロールが口を開きます。
それを見て「間抜けだな」と、心底面白そうに笑った王様は。

「両親と世話役は、お前を守って死んだじゃないか」

とんでもない爆弾を、落としました。

「………………あ」

小さく、掠れた声がロールの喉から漏れたかと思うと。

「うう、うう……!!」

酷く唸り始め、その場に蹲りました。

「っ、何てことしてくれるんだい……」
「本当に忘れているのか? 記憶喪失とかいうやつか」

苦しみ続けるロールを見て、エリクル様が歯軋りしました。

「アンナちゃん……父様、母様……!」

大切な人の名前を、血が滲むような声で呼んだかと思うと。

「許さない」

憎悪に瞳を染めて、ロールが王様を睨みました。

「許さない、許さない……!!」
「ははは!! かかってくるといい!! お前の命、ここで摘み取ってやろう!!」
「お前を、お前を、ころーー」
「待ってください」

殺す、と言いかけたロールの口を、そっと塞ぎました。

「………ラティ様、なんで」
「仇をとるんですか?」
「あ、当たり前です!! だって、この人のせいでっ、父様と母様がっ……アンナちゃんが!!」
「その後、どうしますか」
「どうするって」

私の質問の意図がわからないようで、ロールは私と王様を交互に見て、憎悪を燃やしています。
でも、私はロールに人を殺してほしくない。
ただの自己満足なんですけど。
私の考えを押し付けることになるのは、わかっているのですが。

「その人と、同類になるつもりですか」
「はっ……」
「あなたの人生に、殺しという選択肢が入ることになります。いいんですか」
「いっ……いいです!! いいんです!!」
「善悪がわからなくなります。あの子達みたいに」
「あの子達……!?」
「あなたを殺そうとしていた、人形操術の使い手の子供達です」

2人のことを思い出したようで、ロールがポカンと口を開きました。

「ああなりたいと、本気で思いますか」
「……でも」
「一回ぐらい、いいと思いますか。仇をうてればそれでいいと、思いますか」
「思いますよ!! ラティ様にっ、わかるわけないじゃないですか!!」

そこまで言い切って、ロールは自分の口を塞ぎました。
言うつもりはなかったのでしょう。
やっぱりこの子は優しい子。

「そうですね。私にはわかりません。自己満です」
「よけいな、お世話なんです……!! 私はっ、私のやりたいことをやるんです!!」
「人を、殺したいのですか」
「殺してやりたいですよ!!」
「……その先に、何があるんでしょうね」

人を殺した先に、何があるんでしょう。
歓喜でしょうか。達成感でしょうか。
身を滅ぼすほどの、虚無ではないのでしょうか。

「綺麗事言わないでくださいよ!! 他人のことなんてっ、どうでもいいでしょう!?」
「どうでもよくないですよ。仲間ですもの」
「とめないで、くださいよ……仲間なら、わかってください」
「あなたが人を殺したことで悪夢に苛まれるのなら、止めますよ」
「そんなことっ」
「後悔しますよ。わかりますから」

未来なんて読む必要がないくらい、わかるのです。
この子はきっと、毎夜そのことを思い出して泣くのだろうと。

「お願いです」
「………っ、なんで、ですか」

バカン!! と地面に拳を叩きつければ、大きな凹みができました。
ロールの拳には血が滲んでいます。

「なんでなんですかぁ」

ボロボロとロールの目から涙が溢れ、声が震えました。

「許せない。許せない、なのに、なんで」
「……ごめんなさい」
「ころしてやりたいのに」

どうしたらいいのだと、迷子の子供のようにロールは泣きました。
ここで止めたことが、正しいことだと言い切る自信はありません。
けれど、ロールほどの膨大な力をもちながら、人を殺してしまえば、本当に歯止めが効かない気がしました。
ごめんね、ロール。
あなたをとても、苦しませてしまうけど。
許してなんて言えないけど。
どうか、耐えて。

「うわぁあああん……」

大泣きして私に縋りつき、ロールの涙は私の肩を濡らしました。
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