探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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作戦、始動。

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「ーーというわけ。いい?」
「了解です!」
「まあ、理解した」

最後の打ち合わせを終え、その場には緊張が走ります。
もうロマドは目の前です。

「各自、健闘を祈る!」

ビシリ、と余興のように敬礼してみせたエリクル様が、不敵に笑いました。

◆ ◆ ◆

ここからはそれぞれ別れての行動です。
ロマドへ入る前に私達は降ります。

「本当にシャルロッテはそっちでいいのかよ」
「うん! 心配しないで、レオン兄ィ」
「ばっ、心配なんてしてねぇし!」

レオン様が照れたように、バシバシとロールの背中を叩きます。
少々居心地が悪そうですが、ロールはされるがままです。
レオン様とマオ様には、王宮に客人として向かっていただきます。
消えた神子が戻ってきたことについての話だと言えば、ロマド側は了承せざるを得ないですからね。
それに王族2人を無碍に扱うことはできません。
王様を一定の位置に留めることが目的です。

「ほんじゃあまあ、俺様のフェイスで注目集めたらぁ」
「レオン兄ィ……言うけど、アルジェルド様よりイケメンじゃないよ」
「うるさい黙れ」
「何をしている」

揉めているレオン様に痺れを切らしたのか、マオ様がレオン様の首根っこを掴みます。

「行くぞ」
「離せやオラァァ!」
「……あ」

ふと、マオ様が私のほうをチラリと見ました。
挨拶代わりに微笑むと、「フン」と鼻を鳴らしてマオ様は風魔の奥へと消えていきます。
風魔が浮き上がり、王宮へ向かったことを確認して、私達はロマドの入り口へ向かいました。

「! エリクルさん!」
「久しぶりだね」

ロマドの受付に、エリクル様がどうやら見知った方である人がいました。
どうやら彼も協力者のようです。

「マルドゥア様が捕まるなんて、思ってもいませんでした……」
「そうだね。だからこそ、今日やるしかない」
「心得てます。そちらの方達は」
「僕の仲間だよ」

紹介されたので、軽く会釈をします。
それを見た男性も慌てて会釈してくれました。

「今回の作戦、アストロの王子の方達も一枚噛んでるって聞いたんですけど……2人だけの行動なんですか?」
「いや。あっちには頼りになる騎士がついてる」

マオ様とレオン様の護衛として、アストロ一の騎士と謳われた騎士様がついているといいます。
エリクル様を圧倒した実力ですので、特に心配はないでしょう。

「旦那様。大丈夫ですか」
「……問題ない」

一晩寝たと言っても、旦那様は完全な回復はできていないようです。
少し顔色が悪いところ不安が残ります。
こういうところは私がカバーしなくては。

「じゃあ、王宮へ行きましょう」

協力者の方について、私達は王宮へ向かい、そしてマルドゥアさんを解放すること。
それが計画の内です。
小走りでいけば、遠目で王宮が見えてきます。

「ロマドの王宮は、国の入り口の近くにありますからね。見せつけてるみたいで悪趣味でしょ」

冗談混じりにそう言って、男性はピタリと立ち止まりました。
とある酒場の前です。
酒場に入ると、どうやら裏口だったようで、たくさんの酒瓶が積んであります。

「確か、この辺りに……」
「それじゃないのかい?」
「あっ」

酒瓶に隠されるようにあった、床に取り付けてある扉。
それを見て男性は声を上げました。
どうやらこれは、王族の方が何かあった時の脱出ルートとして確保されてあった道らしく、エリクル様が知っていたことで協力者の方々に知らせることのできた裏口です。
他の協力者の方達は私達が扉を開け、そのことを各方面に連絡した後に追ってきてくれる予定です。

「協力者って何人くらいいるんですか?」
「ざっと……100人?」
「何とも言えませんね」

一応反逆者みたいなものですから、よくそこまで集まったものだとも思いますし、それだけじゃ絶対に足りないとも思います。

「まあでも、こっちには僕とアルがいるし」

トンッとエリクル様が旦那様を小突くと、「まあな」と旦那様がサラリと返しました。

「あれっ!? 開かない……!」

男性が扉に手をかけたものの、そこはギシギシと音を立てるだけでびくともしません。
困り顔の男性に、ロールが声をかけます。

「私がやっていいですか?」
「? で、でも、流石に嬢ちゃんは」

男性の静止を聞くことなく、ロールが扉に手をかけます。

「おりゃ」

バキィッ!!

「………」
「えっと、その、許してください」

何と扉は開くどころか、外れてしまいました。
外れた扉を片手に申し訳なさそうにするロールに、エリクル様が笑い声を漏らします。

「くっふふ……ま、まあ、大丈夫だよ」
「本当ですか?」
「うん。先に進めるし。連絡お願い」
「はい!」

男性がエリクル様の指示を受けて、連絡用水晶を取り出しました。
扉の先を覗き込んでみれば、階段が見えました。
どこまで続いているのでしょうか。

「……俺から、離れるなよ」
「はい」

旦那様が私の手をギュッと握りました。
それだけで安心してしまいます。

「連絡取れました!」
「よし。なら、突っ切るよ!」

エリクル様を先頭に、階段を勢いよく降ります。
マルドゥア様がどうなっているかわからない今、とにかく急ぐ必要がありますからね。
階段を降りきり、辺りが真っ暗になった時。
ポンッと旦那様の前に、大きな光る玉が現れました。

「本当、世界一は伊達じゃないね。何でもできる」
「何でもは言い過ぎだ」

これで前に進むことができます。
暗い道をゆっくりと進んでいれば、何だか嫌な予感がしました。

「………」

少しだけ。
そう思って未来を読み取ろうと目を瞑ると、バチンと何かが弾けるような衝撃の頭痛が襲ってきます。
この未来を見る力を短期間で何度も使用すれば、激しい頭痛を伴います。
ですので長居はできません。
ふと、こちらに向かってくる者が見えたので、立ち止まりました。

「ラティアンカ?」
「ラティ様……」
「兵士が、来ます。戦うしかないでしょう」

私の言葉に、皆一斉に前を見ました。
それからしばらくして、巡回中の兵士2人が松明を持って現れました。

「!? なっ……」
「悪いね!」

先陣を切ったエリクル様とロールが、兵士2人を気絶させました。
落とされた松明を拾い上げ、ロールが私に尋ねます。

「兵士ってこの2人だけですか?」
「はい。今のところは」
「じゃあ、進みましょう」

この先、何が待っているかわかりませんけど。
ロールの言葉は、松明の光に消えていきました。
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