探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

文字の大きさ
上 下
81 / 99

愛してるって、言って。

しおりを挟む
「旦那様。大丈夫ですか」

結局旦那様は風魔に乗っている間、最大限の休憩を取ることになりました。
といっても、風魔の通常の運転に加えてエリクル様がバーストをかけるので、相当早くつけるそう。
それまでに回復出来るのでしょうか。
疲労が全身を訴えているのか、旦那様はベッドに横になっています。

「……迷惑かける」
「いいんですよ。どんどんかけてください」
「ラティアンカ」
「何でしょう」
「好きだ」
「私も好きですよ」
「………うん」

あ、笑った。
旦那様の大人びた雰囲気にそぐわぬ、子供っぽい笑顔。
その笑顔が私はいっとう好きでした。
やっぱり私はこの人が好きなんでしょう。

「こっちに来てくれ」
「はい」

言われるがまま、旦那様のそばへと近寄ります。
すると旦那様は大きく腕を広げて、私をベッドの中へ引き摺り込みます。

「絶対安静って言いましたよね?」
「俺にとっての薬はラティアンカだからな」
「……どういう反応すればいいんですか」
「別に。でも、こうしたい」

アルって案外むっつりだと思うんだよねー。あはは。
頭の中でエリクル様がケラケラと笑っています。
私と鼻先を合わせたかと思うと、くふ、と愉快げに笑い声を漏らします。

「なあ、ラティアンカ」
「何でしょう」
「愛してるって、言ってくれないか」

少し、気恥ずかしそうに。
旦那様が私を上目遣いで見つめました。
旦那様は自分の顔の良さをわかっているんでしょうね。
だからこういう風に、有効活用してくる。

「………愛してますよ」
「俺もだ!」

たまらない、とばかりにキスされ、私は驚きのあまり旦那様をずいと押しのけました。

「嫌だったか……」
「えっと、その、は」
「は?」
「反則です」

ああ、本当に。
ズルい人だと改めて思いますよ。
その目で見つめられていれば、溶けてしまいそうになる。
愛おしいのだと叫ぶ瞳は、真っ直ぐに私を見つめてくださるのだから。

「ラティ様ー。アルジェルド様ー。ご飯ですよぉ………」

ガチャリ、と、聞きたくない音が響きました。
あ、と思った頃にはもう遅く。
ロールにばっちり現場を見られました。

「……」
「………」
「………………その、失礼します!!」

羞恥心で顔を真っ赤にしたロールが、バタン! とドアを勢いよく閉めて、走っていってしまいました。
かく言う私も恥ずかしさで死にそうです。

「その、だ、旦那様。離れてもらっても?」
「嫌だ」
「恥ずかしいので」
「ラティアンカが離れたら、俺は干からびる。例えじゃない、本当だ」

ぎゅうと後ろから抱きつかれて、旦那様の体温がダイレクトに伝わってきます。
心臓が保たないんです。お願いですから離れてください……!

「ラティアンカ……苦労かけてごめん。世界の誰よりも、お前のこと愛してる」
「う」
「お前がどんな力を持ってようが。悪意を持つ人間がいようが。どんな奴からも、俺が、絶対に守る」
「………」
「だから、おれをみすてないで」

最後の一言は、子供のようなお願いでした。
疲れがピークに達しているのか、甘えたような舌足らずの声で私に擦り寄ってきます。

「旦那様は、ズルいですよ」

私がもう離れられないの、わかっていってるでしょう?
そう聞けば、旦那様の瞳が弓なりに細められました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹葵葉
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

結婚なんてしなければよかった。

haruno
恋愛
夫が選んだのは私ではない女性。 蔑ろにされたことを抗議するも、夫から返ってきたのは冷たい言葉。 結婚なんてしなければよかった。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

処理中です...