探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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火花が散った。

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バチンッ、と。
衝撃が頭を直撃し、そのまま目がぐるぐると回り出しました。
嘘、嘘、うそ。
持っていたティーカップを掴む力もないまま、手が勝手に緩んでそれを落としました。
ガチャンとティーカップの割れる音が、どこか遠くに聞こえました。
回る。何が、見えて。

「ーーーっ!」

のは、マオ様の腹部が刺された姿。
あの方は心底愉快げに笑い、血を吐いて倒れ。
その瞬間たくさんの魔術師がこの国を覆い尽くし、数々の人が尽力するも、まるで歯車が噛み合うように事は上手く進んでいき。
最後に、誰かがロールに手を伸ばし。
そこでブツリと途切れました。

「………」

気づけば走り出していました。
もつれる足を懸命に動かし、見えた先へ。
もともと嫌な予感はしていました。
ロールを襲った火球が、まるで少し先の未来を見たように察知できたこと。
そして、先程の現象。
……叫びたい気分ですね。
あれは、本来私に受け継がれるはずだった力です。
それが受け継がれなかったから、捨てられたというのに。
この世界を揺るがす、『先読み』の一族の力。
それを持った者が未来を変えるために動けば、たちまち未来は姿を変える。
その力は一族の人間にしか受け継がれず、数はもう潰えたかと思えた、力。
何で私なんですか。
妹は、どうなったのですか。
この力を持つ者は、各世代に一人しかいないというのに。
本当に神様とやらが嫌いになりそうです。
でも、今はそんな神様に文句を言っている場合ではありません。
先読みの力で見た場所は、どこかの聖堂。
女神像に向かって祈りを捧げる人達。
確か、あそこ。

「!」

庭園が見えたので、私は走るスピードを上げました。
そう、あの聖堂は庭園の前の扉の部屋。
肺がギリギリと絞られているように辛く、横腹が痛みだしました。
酸欠でクラクラしますし、こんなに走ったのは久しぶりです。
それでも足を止めるわけにはいきません。
扉を開けようと手をかけて、なかなか開かないことに気付きました。
めいいっぱい何度か体当たりをすると、扉が勢いよく開きました。
驚く人達を駆け抜け、中央にいるマオ様に目を向けます。
ーーマズい。
ナイフがマオ様の腹部に吸い込まれようかという瞬間に。
ギリギリ滑り込み、マオ様を思い切り抱きしめました。

「ーーは?」
「ご無事、ですか? マオ様」

そこまで言って、ふと違和感を感じます。
腹を刺されたのなら激痛が走るはずなのに、ちっとも痛くありません。
不思議に思っていると、ネックレスについていた宝石が、音を立てて割れてしまいました。

「あ……」

地面に落ちた宝石の破片を、呆然として見つめます。
私の身代わりとなってくれたのでしょう。

「っ、何をする!!」

マオ様が私を庇うように後ろにぐいと押しやりました。

「何をするって……マオ様が、ここで死なれては、困ります」
「おまっ、怪我は……は?」
「ないです。身代わりになってくれました」

宝石の破片を指差せば、マオ様が安心したようで脱力しました。
ふと、周りの人達の痛いほどの視線に気付きました。

「神子様の恩人だぞ……」
「どうする? 見られたぞ?」
「だがこの人を殺せば、我らが神子様の不興を買ってしまう」
「このままでは我らが捕まるぞ!?」

マオ様を殺そうとしていた人達。
女神教と呼ばれる教徒なのはわかっています。
しかし今は彼らに構う暇はないのです。

「マオ様。至急、女王様の元へ向かいましょう」
「おい、何を言って」
「魔術師が、攻めてきます」
「……そういえばお前、私が殺されるとなぜわかった」
「未来が読めるので」
「は?」
「急ぎましょう」

マオ様の手を取り出て行こうとすると、我に返ったように慌てて扉付近の人達が扉を閉めました。

「神子様の恩人。どうかその罪人を置いていってはくれないか」
「罪人ですか?」
「そうだ。そいつは女神の魂を愚弄したのだ」
「王子に向かって、そいつ呼ばわりですか」
「女神を穢した者は等しく罪人だ。そこに地位というものはない」
「チッ……面倒だ」

マオ様の舌打ちが聞こえたかと思えば、フワリと私の体が浮きました。
……あら? 私もしかして、マオ様に抱えられてます?
しかもまるで荷物のように横に抱えられてますね、これは。
そう冷静に分析した瞬間。
ぐわんと景色が揺れると同時に、爆音が耳につんざきました。

「マオ様!?」
「舌噛むぞ!」
「待てっ!!」

走ってますね、これ。
上下に揺らされるたびに視界が定まらないので、気持ちが悪くなってきます。
吐き気を抑えるように口を塞げば、女神教の方々が追いかけてきました。

「飛ばすぞ……!」
「えっ」

ちょっと待ってください。
そう言う間もないまま、マオ様が全力で走り出したのでしょう。
一気に上がったスピード感に、もう私はされるがままとなっていました。
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