65 / 99
マオside
しおりを挟む
気持ち悪い奴がやってきた。
ラティアンカを最初見た時、私はそう思った。
やけにかしこまった態度も、シャルロッテやレオンと仲が良いのも、気に食わなかった。
それに私に付き纏う。
鬱陶しいし、腹が立った。
あまりにイラついたので、一度本気でビビらせてやろうと拳を振おうとした。
それをレオンに止められ、さらに苛立ちが増した。
私ばかりが悪役だ。
もう顔も見たくなかった。
なのにあいつらは庭園に居座った。
庭園は私のお気に入りだ。
人工の花々は、私に似ていると思ったから。
庭園に戻りあいつらがまだいることに気づき、引き返そうとした時。
「別に私は、マオ様のことは嫌いではありません」
「………は」
気づけば出ていた声に慌てて口を塞ぐも、聞こえていなかったようだ。
レオンとシャルロッテの驚く声に、ラティアンカの言い分。
私が嫌いじゃない、だと。
本気でラティアンカが何なのかわからなくなった。
世話焼きだと、そこで気づいた。
一言で言えば、ウザい。
それがラティアンカであった。
◆ ◆ ◆
「……わ、かった」
なのに、何だこの醜態は。
自分で自分に呆れてしまった。
何を思ったかラティアンカを連れ出し、自分の考えを吐き出し。
天津にさえ了承の返事をしていた。
何やってるんだ私は。
「なぜ、レオン様とシャルロッテを嫌うのですか。羨ましいから、だけですか」
「私は……………」
そうだ、思い出した。
幼い頃、私は第一王子として生を受け、国民や臣下、母に期待されて育った。
しかし自分が凡才であることに気づくのに、そう時間はかからなかった。
次に生まれた弟は、本来獣人には使えるはずのない魔術を操ってみせた。
私の気に入りの花を凍らせて。
あの時は花を凍らせたことに怒っていたのだと思ったが、今思えば焦っていたのだ。
このままでは、弟が注目されると。
案の定そうなった。
国民の興味は弟に移り、臣下達の期待はそのまままるっと弟に注がれ、母は私に厳しくすることはなくなった。
辛かった。
身を引き裂かれる思いだった。
急に役立たずになって、世界に放り込まれたみたいな気持ちになった。
何か、何かできることを。
そう思って足踏みしていれば、シャルロッテが生まれた。
神子を崇める者が現れ、もう私はそこにいるだけとなった。
嫌いだった。
存在意義を、全て奪われた。
なのにお前らは、不服を表す。
嫌いなら寄越してくれればいいのに。
それができたら苦労はしない。
「私は……嫌いだ。シャルロッテと、レオンが」
「そうですか。理由は?」
「奪われたから。存在意義を」
「子供ですか」
ラティアンカの容赦のない言葉に、ぐさりと心がえぐられる。
その通りだ。私は子供だったようだ。
「まだまだ甘えたなんですね」
「やめろ。気色悪い」
「あなた達兄弟の口の悪さはどこからなんですか。女王様ではないでしょうに」
それは生活からだとしか言えない。
あの環境で捻くれるのは当たり前だと思う。
現に、記憶をなくす前のシャルロッテですら生意気に育っていた。
「どうすれば仲良くできそうですか?」
「無理だ。私はあいつらを、どうしても好きにはなれん」
「ならなぜわざわざ挑発するんですか。嫌いなら関わらず、必要最低限の会話のほうがお互い楽でしょうに」
「………」
「本当は、話しをしたいんでしょう」
悔しい。
悔しくてたまらない。
何であって数日のこの女に、自分の気持ちを見抜かれねばならないのだ。
何でそれに頷く自分がいるのだ。
「つくづく面倒ですね。私と旦那様も、はたから見ればこんな感じだったんでしょう」
「どういうことだ」
「私、少し前まで旦那様と離婚してたんですよ」
旦那と離婚。
信じられない。
つい私はラティアンカの胸元で光るネックレスを見た。
これを見た時ゾッとした。
執着を表すような、重すぎる魔術。
これをやったのは旦那だというのに、離婚だと。
「正しくは私が勝手に逃げていただけなんですけどね。本当なら女側から離婚を持ち出すことなんてできませんから」
「あ」
忘れていた。
この世界は男女差別が蔓延っていることを。
獣人は女神の魂を匿う一族なので、寧ろ女性が尊重されるものである。
といっても母上が王として初の女性なのだが。
「旦那様は私のことが嫌いで話さないのだと思っていましたが、実際は不器用なだけだったんです。あの方は、私を愛してくれていました。それを信じられない私がいました」
「そんなものをつけてか」
「大抵の人は気味悪がりますよね、これ」
持ち上げられたネックレスが怪しく輝く。
触るなよ、と忠告されているようだった。
思わず目を逸らせば、それが服の中にしまわれたのが音でわかった。
「一度素直になれば、人は変わるものですよ」
「俺が素直じゃないとでも言いたいのか」
「素直じゃありませんよ。ロールやレオン様と話したいのなら、謝罪をしないと」
「誰が話したいだって?」
「あなたですよ、あなた。事実でしょう」
違う、と。
出かかった言葉は、そのまま胃の中に放り込まれた。
ラティアンカの目が、あまりに痛かった。
これは、哀れんでいるのではない。
怒っているのではない。
懐かしんでいる目だ。
「私も、そうでしたから。あなたの劣等感は、痛いほどわかります」
「どの口が……」
「私、捨てられたんです」
は、と。
空気が喉から漏れた。
ラティアンカは気まずげに庭園の花をするりと撫でると、続ける。
「今の両親は孤児院から引き取ってくれたんです。私は6歳の時に孤児院に預けられました。才能がなかったからです」
「ど、どういうことだ……?」
「私の家は、魔術の名家でした。しかも結構特殊な。女のみに受け継がれるという、謎の能力持ちの名家です。ですが、私は期待に答えられなかった。妹が生まれたので、私は用済みとして捨てられました。妹が力を受け継いだかはわかりませんが」
「捨てる、だと? 親が?」
「あなたには、わからないでしょう。親に本当に疎まれて育った子供の気持ちは」
確かに理解できない。
俺は確かに、母上には愛情を注がれた覚えがある。
ラティアンカのように捨てられたわけではない。
俺には彼女の気持ちはわからなかった。
「私も同じように、あなたのことを理解することができません。まあ……私、後悔しているんです。兄と弟は、私に寄り添おうとしてくれたんですけど。私はそれを拒絶した。妹が生まれ、追い出される直後に弟から住所を渡されました。手紙を送ってくれと。返事は絶対すると。その約束通り、今も関係は続いています」
「ラティアンカは、弟や兄をどう思っていた」
「嫌いでしたよ。男というだけで優遇されて。何で自分は女なんだって、枕をいくつ濡らしたことか。でも、今は違います。私と連絡していることは弟との秘密ですので、弟としか話せませんが……弟は、私を大事に思ってくれているんです。だから、私も彼が好きです」
「離婚した時、その弟に頼らなかったのか?」
「頼れるわけないじゃないですか。私はもう、あの家の一員ではないんです。……まあ、マルシム家の一員になったことがわかれば、手のひらは返してくるかもしれないですけどね」
軽蔑するような、それすら仕方ないというような。
そんな態度で、ラティアンカは肩を竦めた。
「私は兄と……できれば、妹と。話してみたいんです。元両親の顔は二度と見たくありませんがね」
「そうか」
「あなたは会えるでしょう? レオン様に。それに、ロールに」
ロール。
ラティアンカが名付けたであろう、記憶を失った頃のシャルロッテの名前。
その名前を呼ばれたシャルロッテは、見たこともないような笑顔で笑っていた。
何も知らなかったほうが、幸せでいられたに違いない。
神子なんて役目を放り出して、国民の期待とかいう重荷を見ぬふりをして。
そうやって過ごしたほうが、格段に楽だったのだろう。
「………少しだぞ」
「?」
「少し、話す」
あいつらのことを理解しようとしたのは、初めてだった。
クスリ、と笑ったラティアンカはあまりに蠱惑的で。
もっと早くこの人に出会えなかったものかと、密かにそう思った。
ラティアンカを最初見た時、私はそう思った。
やけにかしこまった態度も、シャルロッテやレオンと仲が良いのも、気に食わなかった。
それに私に付き纏う。
鬱陶しいし、腹が立った。
あまりにイラついたので、一度本気でビビらせてやろうと拳を振おうとした。
それをレオンに止められ、さらに苛立ちが増した。
私ばかりが悪役だ。
もう顔も見たくなかった。
なのにあいつらは庭園に居座った。
庭園は私のお気に入りだ。
人工の花々は、私に似ていると思ったから。
庭園に戻りあいつらがまだいることに気づき、引き返そうとした時。
「別に私は、マオ様のことは嫌いではありません」
「………は」
気づけば出ていた声に慌てて口を塞ぐも、聞こえていなかったようだ。
レオンとシャルロッテの驚く声に、ラティアンカの言い分。
私が嫌いじゃない、だと。
本気でラティアンカが何なのかわからなくなった。
世話焼きだと、そこで気づいた。
一言で言えば、ウザい。
それがラティアンカであった。
◆ ◆ ◆
「……わ、かった」
なのに、何だこの醜態は。
自分で自分に呆れてしまった。
何を思ったかラティアンカを連れ出し、自分の考えを吐き出し。
天津にさえ了承の返事をしていた。
何やってるんだ私は。
「なぜ、レオン様とシャルロッテを嫌うのですか。羨ましいから、だけですか」
「私は……………」
そうだ、思い出した。
幼い頃、私は第一王子として生を受け、国民や臣下、母に期待されて育った。
しかし自分が凡才であることに気づくのに、そう時間はかからなかった。
次に生まれた弟は、本来獣人には使えるはずのない魔術を操ってみせた。
私の気に入りの花を凍らせて。
あの時は花を凍らせたことに怒っていたのだと思ったが、今思えば焦っていたのだ。
このままでは、弟が注目されると。
案の定そうなった。
国民の興味は弟に移り、臣下達の期待はそのまままるっと弟に注がれ、母は私に厳しくすることはなくなった。
辛かった。
身を引き裂かれる思いだった。
急に役立たずになって、世界に放り込まれたみたいな気持ちになった。
何か、何かできることを。
そう思って足踏みしていれば、シャルロッテが生まれた。
神子を崇める者が現れ、もう私はそこにいるだけとなった。
嫌いだった。
存在意義を、全て奪われた。
なのにお前らは、不服を表す。
嫌いなら寄越してくれればいいのに。
それができたら苦労はしない。
「私は……嫌いだ。シャルロッテと、レオンが」
「そうですか。理由は?」
「奪われたから。存在意義を」
「子供ですか」
ラティアンカの容赦のない言葉に、ぐさりと心がえぐられる。
その通りだ。私は子供だったようだ。
「まだまだ甘えたなんですね」
「やめろ。気色悪い」
「あなた達兄弟の口の悪さはどこからなんですか。女王様ではないでしょうに」
それは生活からだとしか言えない。
あの環境で捻くれるのは当たり前だと思う。
現に、記憶をなくす前のシャルロッテですら生意気に育っていた。
「どうすれば仲良くできそうですか?」
「無理だ。私はあいつらを、どうしても好きにはなれん」
「ならなぜわざわざ挑発するんですか。嫌いなら関わらず、必要最低限の会話のほうがお互い楽でしょうに」
「………」
「本当は、話しをしたいんでしょう」
悔しい。
悔しくてたまらない。
何であって数日のこの女に、自分の気持ちを見抜かれねばならないのだ。
何でそれに頷く自分がいるのだ。
「つくづく面倒ですね。私と旦那様も、はたから見ればこんな感じだったんでしょう」
「どういうことだ」
「私、少し前まで旦那様と離婚してたんですよ」
旦那と離婚。
信じられない。
つい私はラティアンカの胸元で光るネックレスを見た。
これを見た時ゾッとした。
執着を表すような、重すぎる魔術。
これをやったのは旦那だというのに、離婚だと。
「正しくは私が勝手に逃げていただけなんですけどね。本当なら女側から離婚を持ち出すことなんてできませんから」
「あ」
忘れていた。
この世界は男女差別が蔓延っていることを。
獣人は女神の魂を匿う一族なので、寧ろ女性が尊重されるものである。
といっても母上が王として初の女性なのだが。
「旦那様は私のことが嫌いで話さないのだと思っていましたが、実際は不器用なだけだったんです。あの方は、私を愛してくれていました。それを信じられない私がいました」
「そんなものをつけてか」
「大抵の人は気味悪がりますよね、これ」
持ち上げられたネックレスが怪しく輝く。
触るなよ、と忠告されているようだった。
思わず目を逸らせば、それが服の中にしまわれたのが音でわかった。
「一度素直になれば、人は変わるものですよ」
「俺が素直じゃないとでも言いたいのか」
「素直じゃありませんよ。ロールやレオン様と話したいのなら、謝罪をしないと」
「誰が話したいだって?」
「あなたですよ、あなた。事実でしょう」
違う、と。
出かかった言葉は、そのまま胃の中に放り込まれた。
ラティアンカの目が、あまりに痛かった。
これは、哀れんでいるのではない。
怒っているのではない。
懐かしんでいる目だ。
「私も、そうでしたから。あなたの劣等感は、痛いほどわかります」
「どの口が……」
「私、捨てられたんです」
は、と。
空気が喉から漏れた。
ラティアンカは気まずげに庭園の花をするりと撫でると、続ける。
「今の両親は孤児院から引き取ってくれたんです。私は6歳の時に孤児院に預けられました。才能がなかったからです」
「ど、どういうことだ……?」
「私の家は、魔術の名家でした。しかも結構特殊な。女のみに受け継がれるという、謎の能力持ちの名家です。ですが、私は期待に答えられなかった。妹が生まれたので、私は用済みとして捨てられました。妹が力を受け継いだかはわかりませんが」
「捨てる、だと? 親が?」
「あなたには、わからないでしょう。親に本当に疎まれて育った子供の気持ちは」
確かに理解できない。
俺は確かに、母上には愛情を注がれた覚えがある。
ラティアンカのように捨てられたわけではない。
俺には彼女の気持ちはわからなかった。
「私も同じように、あなたのことを理解することができません。まあ……私、後悔しているんです。兄と弟は、私に寄り添おうとしてくれたんですけど。私はそれを拒絶した。妹が生まれ、追い出される直後に弟から住所を渡されました。手紙を送ってくれと。返事は絶対すると。その約束通り、今も関係は続いています」
「ラティアンカは、弟や兄をどう思っていた」
「嫌いでしたよ。男というだけで優遇されて。何で自分は女なんだって、枕をいくつ濡らしたことか。でも、今は違います。私と連絡していることは弟との秘密ですので、弟としか話せませんが……弟は、私を大事に思ってくれているんです。だから、私も彼が好きです」
「離婚した時、その弟に頼らなかったのか?」
「頼れるわけないじゃないですか。私はもう、あの家の一員ではないんです。……まあ、マルシム家の一員になったことがわかれば、手のひらは返してくるかもしれないですけどね」
軽蔑するような、それすら仕方ないというような。
そんな態度で、ラティアンカは肩を竦めた。
「私は兄と……できれば、妹と。話してみたいんです。元両親の顔は二度と見たくありませんがね」
「そうか」
「あなたは会えるでしょう? レオン様に。それに、ロールに」
ロール。
ラティアンカが名付けたであろう、記憶を失った頃のシャルロッテの名前。
その名前を呼ばれたシャルロッテは、見たこともないような笑顔で笑っていた。
何も知らなかったほうが、幸せでいられたに違いない。
神子なんて役目を放り出して、国民の期待とかいう重荷を見ぬふりをして。
そうやって過ごしたほうが、格段に楽だったのだろう。
「………少しだぞ」
「?」
「少し、話す」
あいつらのことを理解しようとしたのは、初めてだった。
クスリ、と笑ったラティアンカはあまりに蠱惑的で。
もっと早くこの人に出会えなかったものかと、密かにそう思った。
151
お気に入りに追加
6,319
あなたにおすすめの小説
望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】
男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。
少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。
けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。
少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。
それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。
その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。
そこには残酷な現実が待っていた――
*他サイトでも投稿中

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。
そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ……
※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。
※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。
※この作品は小説家になろうにも投稿しています。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
毛蟹葵葉
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる