探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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兄ぃともう、1人。

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「ーー行ってしまわれましたか」

旦那様の見えなくなった後ろ姿。
アレン様には大変申し訳なく思っています。
巻き込むのを許してほしいとは考えていませんし、これを機に関係を切っていただいても構いません。
どうしても、彼の千里眼が必要だと判断しましたから。
彼の能力を利用するような形になってしまったことに、嫌悪を覚えます。

「私に何か、できることはないのでしょうか」

いつまでも、護られているだけの女でいいのでしょうか。
甘えてばかりの者でいいのでしょうか。
……いいわけありません。
何か、できることを探さねば。
そう思って外に出ると、王子様がこちらに歩いてきました。
黒の長い尻尾が上下に落ち着きなく揺れています。

「王子様」
「……」

私が声をかけると、王子様は歩みを止めてこちらを睥睨しました。
こんな冷たい目をなさる方でしたっけ。

「昨夜はありがとうございます。あなたのお陰で、気持ちの整理ができました」
「誰だ、お前」
「え」
「お前なんて知らない」

不機嫌そうに、不愉快そうに。
言い捨てると、王子様は私の横を通って行ってしまいました。
怒らせてしまったのでしょうか。
何か、無礼を働いたのでしょうか。

「あっ、ラティ様!」
「ロール」

パタパタと、ロールが駆け足でこちらに向かってきました。
その格好はまるで宮殿のお姫様のように綺麗で、私の頬が緩みます。

「可愛いですね、ロール。着せてもらったんですか?」
「あ、はい。一応神子だからって。どうですか?」

その場でくるりと一周すると、ロールの服がまるで花のようにフワリと広がりました。

「ええ。とっても素敵です」
「えへへ……嬉しいです!」

こうして今でも慕ってくれるロールは、大切にしなければいけませんね。
すると、ロールは私の手を引いてどこかへ連れて行こうとします。

「待って、どこに行くの?」
「せっかくですし、ラティ様も着替えましょう! 侍女の方に言ったらオッケーがもらえましたし!」
「そんな。私は今の格好で十分です」
「私がラティ様の、もっと綺麗な姿が見たいんです。今の姿もとてもステキですけどね!」

ロールの屈託のない笑顔を向けられ、ついつい首を縦に振ります。
やっぱりロールには敵いません。
しかし……安易に頷いてしまったことを後悔するくらい、色々着せられ。
結果2時間くらい拘束されてしまいました。

「ラティ様、綺麗です……!」

ドレス姿にされた私を見て、瞳をキラキラと輝かせるロール。
嬉しそうなので、無駄事だったとは思いませんけど。
コルセットが少し苦しいです。

「あれ、何やってんの」
「レオン兄ぃ」

すると、王子様がひょっこりその場に現れました。
先ほどの態度を思い出して隠れようと思いましたが、気づかれてしまったようで。

「ラティアンカじゃん。昨日ぶり」

へら、と、笑いかけてきました。
昨日ぶり? どういうことでしょう。

「あの、さっき会いましたよね?」
「え? 会ってないけど」
「レオン兄ぃ、どういうこと。まさか……ラティ様。マオ様に、会ったんですか?」
「マオ様?」

王子様の名前を聞いたのはロールの口からですけど、「レオン兄ぃ」と呼んでます。
本当の兄妹のように仲睦まじく見える彼らですが、その名前を出した時は顔は厳しげに歪められました。

「マオ様とは」
「……俺の双子のにーちゃん」
「王子様のですか」
「そ。あいつに近寄んなよ。あいつもエリクルとかいう奴に、負けず劣らずのクズだから」

双子。
あまりにそっくりな相貌にも、納得がいく回答です。
ということは、メリアさんが言っていたのはマオという、お兄様のほうだったのですね。
呼び方からして、彼とロールは仲は良くないのでしょう。

「私もそのほうがいいと思います」
「メリアさん」

かつてのロールのことを説明してくれたメリアさんが、部屋に入ってきました。

「彼は誰にも、心を許さないのです」
「シャルロッテのこといっつも泣かすし。俺、あいつ嫌い」
「私はそのことを覚えてないんですけど……マオ様のことを見ると、その、どうしても震えてしまって」

よっぽどマオ様は、素行の荒い方なのでしょう。
周りの侍女の方達の反応も芳しくありません。

「そうですか……わかりました」

関わるなと注意されたならそれまでです。
私はそれに頷きました。
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