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アルジェルドside
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この世に魔術はたくさんある。
俺の知らないものから、開発した奴オリジナルの魔術、家系に引き継がれる魔術。
俺の実家、マルシム家は名家であったが、家系魔術は存在しない。
小回りのきく、器用な一族だ。
一時期は……まあ、若かったこともあり、継承されるものがないのは何とも言いづらい気持ちになっていたものだが、こうして大人になってしまえば感謝するばかりだ。
今だってそうだ。
『いきなり連絡してきたと思ったら……なんなんだ、一体』
「いいから、力を貸せ」
『もう敬語すら使わなくなったな』
ポケットに入った、小型の連絡用水晶。
世間一般的に出回っているものとは違い、俺が独自に開発したものである。
それを覗けば、不服そうな千里眼の王子の顔が見える。
千里眼を持つ王子、ルシフェル・フォルテ。
こいつはフォルテ王国の第三王子であり、かつてラティアンカに求婚した過去をもつ男だ。
最初は嫉妬のあまり痛めつけてやろうとか、あるまじき考えをもっていたが。
そこそここいつに同情したのもあり見逃した。
ラティアンカはこいつをフッたが、友として真名を教えられたらしい。
真名はほとんどの王族が持つものであり、普段名乗っているものとは違う、真の名前である。
名前を使い呪ってくる魔術もあるので、王族は注意するに越したことはない。
きっとアストロの女王や、昨日会った王子も真名を持っているのだろう。
俺が知ることは一生ないだろうが。
連絡用水晶というものは、これを開発したものに拍手を送りたくなるレベルで素晴らしいものだった。
自分の魔術をかけ、水晶に名前を登録する。
水晶を通じて相手の名を伝えれば、そちらへ繋げてくれるという魔道具だ。
名前は被るし相手に繋がらないのでは、という不安があるだろうが、この水晶はやはり高価なもので、市民でもっているものはゼロと言っていいだろう。
それに偉い奴らはだいたい家名をもっているものだ。
ラティアンカは千里眼の王子の真名を、水晶に言った。
「聞かないでください」と言われてしまったからに、俺は後ろを向いて待っていることしかできなかった。
千里眼の王子が真名を水晶に登録してなかったり、出なかったりと、繋がらない可能性は無限にあった。
そこで繋がったのは運が良かったのと、やはり惚れた女には弱い男のさがだろう。
「お久しぶりです、アレン様。私です、ラティアンカです」
『っ、ラティアンカ?』
「俺もいるぞ」
『ああ……』
ラティアンカの顔を見て嬉しそうにした千里眼の王子だったが、俺を見ると、一気にその表情筋を固めてみせた。
どうやら俺達の関係が修復したことを察したのだろう。
少し沈んだ様子で続けてきた。
『どうしたのだ? 再婚のお知らせか?』
「いえ、そうではなく」
『それとも私と生涯を歩んでくれる気になったのかい?』
「ラティアンカは、俺の嫁だ」
見せつけるように指を絡めてみせれば、ラティアンカは真っ赤になってうつむいた。
可愛い。本当にラティアンカは可愛い。
『……惚気るなら切っていいか』
「あのっ、ごめんなさい。あなたの力を借りたくて、連絡させていただきました」
「事情が複雑でな」
『ただ事じゃなさそうだね』
俺の真剣な態度から何かを感じ取ったーーというより、千里眼で、俺とラティアンカの心を読んだのだろう。
王子の声音は一気に強張った。
『忘れてないだろうけど、いいのか? 私は千里眼持ちだ。今現在、君達を通してロマドとアストロの様子と……神子の情報が飛び込んできたんだけど』
「寧ろそれが、目的なんです」
『ーー随分と無茶な計画だね。しかも、この私に加担しろと』
「頼む、借りは返す」
『いや、いいよ。私が彼女に力を貸すと言ったんだ。二言はないさ』
この王子ーールシフェルも、気の毒なものだ。
第三王子という立場なら、大人しくしていれば穏やかに過ごせただろう。
だが千里眼という予想外のギフテッドを授かったせいで、こうして俺達に協力し、他国の情報を知ってしまった。
もちろんその情報を悪用するようなバカではないことはわかっている。
わかっているからでこそ、こちら側へ引き摺り込むのだ。
「じゃあ、俺と行くか」
『…………どこに』
「わかってるだろ」
『普通、王宮に乗り込むか?』
行き先はロマドの王宮。
今から俺とルシフェルは、勇者の末裔という得体の知れないものに首を突っ込むことになる。
ラティアンカが心配げに見つめてくるが、そんな瞳すらも愛おしい。
「安心しろ」
「……はい」
額にキスをして、空へと飛んだ。
ロマドへつくには時間がかかるだろうが、あいにく瞬間移動などの魔術は会得していない。
空を飛ぶだけでもルシフェルにとっては驚くべきことだったらしい。
水晶の先で、息を呑む音が聞こえた。
『人間って、空を飛べるんだな』
「俺が人間じゃないとでも?」
『半分そんなものだろう』
揶揄するようなルシフェルの言葉に「うるさい」とだけ言っておく。
しばらく黙って空を飛んでいたが、痺れを切らしたのかルシフェルが俺に切り出した。
『心が、穏やかになったな』
「……どういうことだ」
『文字通りだ。やっぱり、ラティアンカの存在は大きいか』
「愛する妻だからな」
『そうやって口に出そうとするのは、前回の反省ゆえだな。今じゃ空回りすることもあるけど、まともに会話が成立しているだろう』
鋭い指摘に、俺は今までの行動を反芻した。
まあ、その通りである。
口下手であるとは自覚していた。
それを直す気は、今までなかったのだ。
だが、ラティアンカを不安にさせた。
それが俺であっても許せない。
だから今までの自分の捨てることにした。
「俺は成長するんだ」
『人間として? それとも、人外として?』
「人間として」
『君、実力だけで言ったら人間外れてるようなものだからな。そうしたほうがいい』
このお節介な発言は、エリクルのことを思い出す。
……やめよう。
ルシフェルも俺の心情を読んだのか、そのことに関しては一言も指摘してこなかった。
俺とルシフェル(水晶)は、長い間空を飛び続けた。
俺の知らないものから、開発した奴オリジナルの魔術、家系に引き継がれる魔術。
俺の実家、マルシム家は名家であったが、家系魔術は存在しない。
小回りのきく、器用な一族だ。
一時期は……まあ、若かったこともあり、継承されるものがないのは何とも言いづらい気持ちになっていたものだが、こうして大人になってしまえば感謝するばかりだ。
今だってそうだ。
『いきなり連絡してきたと思ったら……なんなんだ、一体』
「いいから、力を貸せ」
『もう敬語すら使わなくなったな』
ポケットに入った、小型の連絡用水晶。
世間一般的に出回っているものとは違い、俺が独自に開発したものである。
それを覗けば、不服そうな千里眼の王子の顔が見える。
千里眼を持つ王子、ルシフェル・フォルテ。
こいつはフォルテ王国の第三王子であり、かつてラティアンカに求婚した過去をもつ男だ。
最初は嫉妬のあまり痛めつけてやろうとか、あるまじき考えをもっていたが。
そこそここいつに同情したのもあり見逃した。
ラティアンカはこいつをフッたが、友として真名を教えられたらしい。
真名はほとんどの王族が持つものであり、普段名乗っているものとは違う、真の名前である。
名前を使い呪ってくる魔術もあるので、王族は注意するに越したことはない。
きっとアストロの女王や、昨日会った王子も真名を持っているのだろう。
俺が知ることは一生ないだろうが。
連絡用水晶というものは、これを開発したものに拍手を送りたくなるレベルで素晴らしいものだった。
自分の魔術をかけ、水晶に名前を登録する。
水晶を通じて相手の名を伝えれば、そちらへ繋げてくれるという魔道具だ。
名前は被るし相手に繋がらないのでは、という不安があるだろうが、この水晶はやはり高価なもので、市民でもっているものはゼロと言っていいだろう。
それに偉い奴らはだいたい家名をもっているものだ。
ラティアンカは千里眼の王子の真名を、水晶に言った。
「聞かないでください」と言われてしまったからに、俺は後ろを向いて待っていることしかできなかった。
千里眼の王子が真名を水晶に登録してなかったり、出なかったりと、繋がらない可能性は無限にあった。
そこで繋がったのは運が良かったのと、やはり惚れた女には弱い男のさがだろう。
「お久しぶりです、アレン様。私です、ラティアンカです」
『っ、ラティアンカ?』
「俺もいるぞ」
『ああ……』
ラティアンカの顔を見て嬉しそうにした千里眼の王子だったが、俺を見ると、一気にその表情筋を固めてみせた。
どうやら俺達の関係が修復したことを察したのだろう。
少し沈んだ様子で続けてきた。
『どうしたのだ? 再婚のお知らせか?』
「いえ、そうではなく」
『それとも私と生涯を歩んでくれる気になったのかい?』
「ラティアンカは、俺の嫁だ」
見せつけるように指を絡めてみせれば、ラティアンカは真っ赤になってうつむいた。
可愛い。本当にラティアンカは可愛い。
『……惚気るなら切っていいか』
「あのっ、ごめんなさい。あなたの力を借りたくて、連絡させていただきました」
「事情が複雑でな」
『ただ事じゃなさそうだね』
俺の真剣な態度から何かを感じ取ったーーというより、千里眼で、俺とラティアンカの心を読んだのだろう。
王子の声音は一気に強張った。
『忘れてないだろうけど、いいのか? 私は千里眼持ちだ。今現在、君達を通してロマドとアストロの様子と……神子の情報が飛び込んできたんだけど』
「寧ろそれが、目的なんです」
『ーー随分と無茶な計画だね。しかも、この私に加担しろと』
「頼む、借りは返す」
『いや、いいよ。私が彼女に力を貸すと言ったんだ。二言はないさ』
この王子ーールシフェルも、気の毒なものだ。
第三王子という立場なら、大人しくしていれば穏やかに過ごせただろう。
だが千里眼という予想外のギフテッドを授かったせいで、こうして俺達に協力し、他国の情報を知ってしまった。
もちろんその情報を悪用するようなバカではないことはわかっている。
わかっているからでこそ、こちら側へ引き摺り込むのだ。
「じゃあ、俺と行くか」
『…………どこに』
「わかってるだろ」
『普通、王宮に乗り込むか?』
行き先はロマドの王宮。
今から俺とルシフェルは、勇者の末裔という得体の知れないものに首を突っ込むことになる。
ラティアンカが心配げに見つめてくるが、そんな瞳すらも愛おしい。
「安心しろ」
「……はい」
額にキスをして、空へと飛んだ。
ロマドへつくには時間がかかるだろうが、あいにく瞬間移動などの魔術は会得していない。
空を飛ぶだけでもルシフェルにとっては驚くべきことだったらしい。
水晶の先で、息を呑む音が聞こえた。
『人間って、空を飛べるんだな』
「俺が人間じゃないとでも?」
『半分そんなものだろう』
揶揄するようなルシフェルの言葉に「うるさい」とだけ言っておく。
しばらく黙って空を飛んでいたが、痺れを切らしたのかルシフェルが俺に切り出した。
『心が、穏やかになったな』
「……どういうことだ」
『文字通りだ。やっぱり、ラティアンカの存在は大きいか』
「愛する妻だからな」
『そうやって口に出そうとするのは、前回の反省ゆえだな。今じゃ空回りすることもあるけど、まともに会話が成立しているだろう』
鋭い指摘に、俺は今までの行動を反芻した。
まあ、その通りである。
口下手であるとは自覚していた。
それを直す気は、今までなかったのだ。
だが、ラティアンカを不安にさせた。
それが俺であっても許せない。
だから今までの自分の捨てることにした。
「俺は成長するんだ」
『人間として? それとも、人外として?』
「人間として」
『君、実力だけで言ったら人間外れてるようなものだからな。そうしたほうがいい』
このお節介な発言は、エリクルのことを思い出す。
……やめよう。
ルシフェルも俺の心情を読んだのか、そのことに関しては一言も指摘してこなかった。
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